第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『“彼“と同じ』
〜夕暮れの恋歌<14>〜
それから、どのくらいたったか。
話がある、と言い出したのはレノックスだったのだが、なかなか核心をついた話題を振ってこない。…何となくだが、翡翠にはそう感じられた。
今しているのは、本当にいつも交わしているのと変わらない会話だけ。
こんなことのためにレノックスさんが私を連れ出した訳ではないはずだ、と思い、チラリと運転席のレノックスさんに目をやる翡翠だったが、その視線はすぐに窓の外の景色へと戻した。
「……………」
…私から、聞いてみてもいいだろうか。
「レノックスさん」
「ん?」
「すっごく馬鹿げていると思われるかもしれないんですけど…聞いてもいいですか?」
「ああ、何だ?」
膝の上で無意識のうちに両手をぎゅっと握りしめる。
その視線は車に乗った瞬間に気がついた、ある一点から離せずにいた。
「この車…その…しゃべったりなんて、しない…ですよね?」
「…なに?」
怪訝そうな表情でじっと見てくるレノックスに対して、翡翠は思わず慌てた。
自分から話を切り出しておきながら、何を馬鹿なことを言ってるんだろう…と、思われてしまったのではないかと。
「い、いえっ、何でもないんです!何言ってるんだろ、私っ…」
車に乗った瞬間、翡翠の目に飛び込んできたのはハンドルに付いているマーク。
オプティマスについているマークと同じだったので、思わず心臓が跳ねあがった。
そして思い出したのだ。
『我々は人間たちに存在を悟られないよう、この世界に溶け込まなければならない』
…と話していた彼の言葉。
“我々”…オプティマスはあの時確かにそう言った。
今まで気が付かなかったけど、それは他にも彼と同じような存在がいるってことなんじゃないだろうか。
今になって、翡翠にはそう思えてならなかった。
「翡翠、そのことなんだが…正直に答えてくれ」
「え?」
顔を上げれば真剣な表情のレノックス。
「君が言っているのは“トランスフォーマー”と言うんだ」
「え?トランス…なに?」
「教えてくれ。何処で接触した?」
すぐ横のレノックスから翡翠は目が離せなかった。
こんな表情のレノックスは初めて見る…軍人の顔をしている、と感じた。
普段の優しい彼からは想像もつかない表情。
私は、何かまずいことをしたのだろうか。
翡翠が思わず口ごもっていると車が止まった。
ふと窓の外を見ると、街からはかなり離れていることに気付く。
「降りてくれ」
「は、はい」
翡翠の手を取り、助手席から下ろすレノックス。
その時、確かに彼は「見てもらったほうが早い」と小声で言った。
え?と翡翠がレノックスを見上げた瞬間だった。
目の前から聞き覚えのある金属音。
先程、レノックスに声をかけられる直前に聞いたのも、この音だったんだ…と何処か冷静に理解していた。
今乗ってきたばかりの黒い車が、金属をいくつも組み換えるようにして、目の前で形を変えていく。
車から姿を変えた“それ”は彼と同じブルーのカメラアイで翡翠を見下ろすと同時に片腕を向けてきた。
「銃は向けるな、アイアンハイド」
『得体が知れない』
「彼女の身元なら俺が保証すると言っただろ」
『……………』
アイアンハイド、と呼ばれた彼は少し苛立っている気がした。
「とにかく、銃を下ろせ。彼女は一般人なんだ、軍人じゃない』
『……………』
「アイアンハイド」
『…もし、接触しているのがディセプティコンの連中だとしたら、やっかいだ』
「ディセ…?え?」
知らない単語に瞬きする翡翠の肩にポン、と手が置かれる。
見上げると、レノックスだった。
「翡翠、君は彼と同じような存在に会ったことがあるはずだ」
「ど、どうして…」
『我々特有の放射線反応が微量に残っている。わからない訳がない』
「そいつの名前とか、聞かされていないか?そうでなければ、特徴とか…」
「え、と…?」
「思い出してくれ。大事なことなんだ」
…頭が、パンクしそう。
目の前のアイアンハイドと呼ばれたトランスフォーマーはどう見ても翡翠を敵視している…
レノックスがいるとはいえ、今の翡翠に残された道は素直に答えることしかなかった。
「…オプティマス・プライム…」
ねぇ、オプティマスさん…
「名前しか…」
貴方は、軍と関係のある人だったの?
私…まだオプティマスさんのことを何も知らないんだ…
よくよく考えてみれば、会ったことがあるのも数回…普段どこで何をしているのか、どこへ帰るのか…聞いたこともないし、そんなにたくさんの会話をするほどの時間もなかった。
知らないことが多すぎる…
当然と言えば当然だけど、そのことが、今は何だかとても…寂しく感じられた。
(加筆・修正)
