第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『不思議な感覚』
~夕暮れの恋歌<13>~
「どうも、お邪魔しました!」
「気をつけてね。お隣とはいえ、最近物騒だから」
「はい、おやすみなさい。本当に、たくさんご馳走様でした」
「また、いつでも来てね」
アナベルを抱きながら優しく手を振るサラにペコリと頭を上げて、玄関の扉を閉めた。
結局、美味しいバーベキューをお腹いっぱいご馳走になってしまった。
帰ったら日本の両親に電話しよう。
そう思い、翡翠はふと空を見上げた。
レノックス一家の仲の良い姿を見ていたら、何だか両親の声が聞きたくなったのだ。
「…今更、ホームシックもないでしょうに」
ふふっ、と笑いつつ広い庭を抜けて、隣の我が家へ向かおうとしたその時、ふと、翡翠の視界にまたあの黒い車が映り、立ち止まる。
何故…こんなにも気になるのだろうか…
不思議な感覚だった。
誰か同じ車に乗ってた??
友達とか、学校の先生とか…
う~ん、と色々考えてみたけれど、やはり思い出せなかった。
何故かその場を立ち去ることが出来なくて、じっと漆黒の車を見つめ続ける。
「…あれ?」
その時、突然翡翠の視界がひどく霞んだ。
何とか目を開けようとするけどうまく開くことが出来ない。
瞳の奥のほうで何かがジリジリしている。
…この感覚には覚えがあった。
ぼんやりとした思考の中でゆっくりと腕を伸ばし、車のボンネットに指先が触れそうになったその時。
誰も乗っていない車の中から、がちゃがちゃ、という小さな金属の音が聞こえてきた気がした。
「アイアンハイドッ!!?」
「っ…!?」
その時、突然後ろから声をかけられて、思わず飛び上がってしまった翡翠。
びっくりして振り向くと立っていたのはレノックスで…
理由はわからないがこの場まで走ってきたことが彼の様子と、何処か慌てた表情から読み取れて、ハッとした翡翠が車に伸ばしていた手を引っ込める。
「ごっ、ごめんなさいっ…やっぱり、勝手に触ったらまずかったですよね…」
「いや、そうじゃないんだ。すまない、驚かせるつもりはなかった」
「えっと…アイ…?」
「あ~、すまん、何でもないんだ」
謝りながら近くまで歩いて来たレノックスが車のボンネットを拳で軽く叩いた。
翡翠は何だか気まずくなってしまい、レノックスとは視線を合わせられないまま…
あんな風に怒鳴ったり、焦ったりしている彼は今まで見たことがなかったから。
「翡翠、ちょっと話があるんだけど…少しいいか?」
「え?」
翡翠の様子に気付いてか、困ったように髪を掻きながらレノックスが声をかけてくる。
いきなりの申し出に戸惑って、思わずたった今別れを告げたばかりの家のほうにチラリと目をやる翡翠の様子に、レノックスには言わんとしていることがわかったようで…
「サラには翡翠が学校に忘れ物をしたと言っていたから、ちょっと車を出してやるって言ってきたよ」
「…はぁ…」
時間は取らせない、と念押しするように言いながら、レノックスが乗車を促すように助手席のドアを開いた。
そこまでされてしまったら、翡翠にそれ以上拒否する術は残されておらず…小さく頷くと静かに漆黒の車体へと乗り込んだ。
続いて運転席にレノックスが乗ってくる。
身体の芯に響くような、低いエンジン音だった。
翡翠がシートベルトを装着したのを確認すると、レノックスはアクセルを踏み、閑静な住宅街を後にした。
(加筆・修正)
