第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『お隣さん』
~夕暮れの恋歌<11>~
何でもないことなのかもしれない。
でも、その時はすごく…すごく気になった。
「ほ、本当に、いいんですか?」
「いいのよ。翡翠もいてくれた方が楽しいわ」
週末、両親が不在の翡翠をいつも気にかけてくれているお隣さんにお招きされて、遊びに来たはいいけれど、何だか恐縮してしまった。
聞けば、今日は本当に久しぶりに旦那さんが自宅に帰ってくる日だと言うのだ。
家族水入らずで過ごしてもらったほうが良いんじゃないかと思うのは当然だろう。
だが、自分をお招きしてくれた隣人…サラはにっこりと笑って、テーブルにお皿を並べている。
「あの人も翡翠に会いたがるわ、きっと」
まるで自分が翡翠の父親にでもなった気分でいるんだもの、と続けるサラ。
何だか照れくさいような、何とも言えない気分になって膝に乗っている赤ちゃんをあやすとその子はきゃっきゃっと笑った。
翡翠がまだ両親と一緒に住んでいた時にもお隣さんとして親しくしてくれていたが、こうして一人アメリカに残ってからは今まで以上に、本当に良くしてもらっている。
今日のように夕食に呼んでもらったり、買い物にご一緒させてもらったり、散歩に連れ出してもらったり…
翡翠が異国の地に一人で残ろうと考えたのも、この一家のようなアメリカ人の暖かさに触れていたからだ、と思う。
言葉にしてもそうだった。
何とか疎通は図れるようになったのだが、翡翠の英語には最後までおかしな訛りが抜けなくて…
一生懸命教えてくれたのも、このご家族だったなぁ…なんて思い、大して昔のことでもないのに、妙に何だか懐かしく感じられた。
「レノックスさん、いつぶりですか?帰ってくるの」
「半年くらいかしら。今回は長かったから」
「じゃあ、大きくなったってびっくりしますね、きっと」
「そうね~」
「もうすぐお父さんが帰ってくるんだって。楽しみだね~」
そう言って、膝の上の赤ちゃんに話しかける翡翠。
母親譲りの綺麗なブロンドが日の光を浴びて、キラキラと光っていた。
「翡翠のことだって、大人っぽくなったってきっとびっくりするわよ」
「いえ、私は変わらないですよ~」
「そんなことないわ。翡翠、最近綺麗よ?」
「そ、そうですかね??」
サラにそう言われ、翡翠は照れくさそうに頬を掻いた。
別に化粧品を変えた訳でも何でもないのになぁ…なんて思っていると、サラがまた笑う。
そして一言。
「好きな人でも、出来たんじゃない?」
…と。
「それ、学校の友人にも同じことを言われました」
「あら、そうなの?」
私は普段と変わらない顔をしてると思うんですけどね…なんて言いながら、自分の頬に触れている翡翠。
サラは笑顔を見せながら、テーブルに食器を並べていく。
手伝います、と立ち上がろうとしたけれど、いいからいいから、と制止されてしまい静かに椅子へと戻った。
「女の子は恋をして綺麗になるんだから。恋はしないとだめよ?」
「はぁ…」
恋、では…ないと思う。
だが、こんな話題になれば頭の中に浮かんでは消えるのも、彼しかいなくて…
何とも答えようがなく、曖昧な返事を繰り返す翡翠だったが、その後、間もなく帰ってきたレノックスにも同じことを言われ、もう本格的に照れくさくて…ただただ笑うしかなかった。
(加筆・修正)
