第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『それぞれの想い』
〜夕暮れの恋歌<10>〜
「なんか、緊張するんですけど…」
そう言いながらチラリと視線を向ける翡翠の隣には無表情の男性がハンドルを握っている。
いつも通りオプティマスに乗り込んだ時、初めてこの男性の存在に気がついて、それはそれは驚いた。
『気にしないでくれ。ただのホログラムだ』
「気にしないで、って言われても…」
もう一度チラリと横を見ると、一瞬だけ男性の姿がジジッという音と共に揺らいだ。
『よく考えてみれば、君のような女性だけがこのように大きな車に乗っているのは不自然なのだ。前回は迂闊だった』
「そ、そういえばそうですね…」
『我々は人間たちに存在を悟られないよう、この世界に溶け込まなければならないのだ。少しだけ我慢してくれ』
「わかりました」
コクリと頷く翡翠の瞳はホログラムの手元で勝手に動いている大きなハンドルに釘付けとなっているようだった。
キョロキョロと動く大きな漆黒の瞳。
どこか落ち着かない様子でシートに座っているそんな翡翠の姿もオプティマスにとっては微笑ましく映る。
『翡翠』
「えっ…」
声をかけると、色んな角度からホログラムを観察していた翡翠が顔をあげた。
オプティマスの声が聞こえてきているカーステレオの辺りへと自然と視線を向ける。
『君は、本当に良く表情が変わるのだな』
「そ、そうかな?」
『あぁ、翡翠が穏やかに笑う表情を見るのは、本当に心地良いのだ』
ステレオから聞こえてくるオプティマスの声に思わず赤面してしまいそうになって…翡翠はそのことを隠すようにそっと下を向いた。
そのたった一言に、心臓がうるさいくらいに早鐘を打っている。
…話題を変えよう。
そう思って
「そ、そういえば…今日は私に、何か用があったんですか?」
と、とっさに聞いてみた翡翠だったが、その思い付きは完全に裏目に出てしまう。
『いや…特に用があった訳ではない』
「え?」
『ただ、私がまた君に会いたいと…そう思ったのだ』
「………っ」
今度は隠しようもないくらいに真っ赤になってしまう翡翠の頬。
ステレオからは『迷惑だっただろうか?』というオプティマスの声が聞こえてくる。
そんなことない。
私も、また会いたいって思っていた。
…そう、口にすることが出来れば、いくらか気持ちの整理もついただろうか。
そう思いながらも、到底口には出せないまま翡翠は俯くと何度も首を横に振る。
気のせいか、オプティマスが笑ったような気がした。
「…何、でしょう?」
『翡翠、顔を上げてくれ』
「…?」
ゆっくりと顔をあげる翡翠の耳に、どこからか、きゅるきゅる、という音が聞こえてきた。
オプティマス特有の音だ…と思うと同時に、また翡翠の中に説明の付かない穏やかな気持ちが大きくなっていく。
『君と出会ってから、色々なことを考えていた。私と翡翠は異なる種族だ』
「…ん」
『それでも…』
自然と握りしめる拳にすら、翡翠は気がつかなかった。何を言われるのかが怖くて。
そんな翡翠を宥めるかのように、オプティマスの声はただひたすらに優しい。
『それでも私は…君とこうして出会えたことを感謝している。君と共にいる時の私はひどく穏やかだ…何故かはわからないが』
「っ…」
予想すらしていなかった言葉に翡翠が息を飲む。
…まさか、同じことを思っていた?
「…そういうことを言われると、少し恥ずかしい、です」
『そうなのか?』
「ごめんなさい…でも…」
翡翠の頬は今も赤く染まったまま。
夕焼けに照らされているせいなのか、それとも別の理由があってなのか…
オプティマスにはわからなかったが、また無意識のうちにメモリーしてしまう。
頬を染め、穏やかな笑顔を見せている彼女。
「すごく、嬉しい…です」
『翡翠』
先程「恥ずかしい」と翡翠に言われたばかりなのだ。
そう思い、オプティマスが口にはすることなかったけれど…
この笑顔が絶えないよう、これからは私が君を守ろう…翡翠。
強く強く、そう思った。
(加筆・修正)
