第1章:ありふれた日々の裏側で…
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『説明出来ない』
~夕暮れの恋歌<8>~
「…はぁ…」
小さくため息をつくが、あまりにも無意識で本人もそのことには到底気が付かない。
今日は学校…翡翠は窓の外をただボーッと眺めている。
校舎の前を走る大通りには何百台もの車が通過しているけれど…その中に、“彼”の姿はない。
そのことにひどくガッカリしていることなど、もうとうの昔に自覚している。
でも、今の翡翠にはどうすることもできなくて、やり切れない思いがため息へと変わった。
その時、ガタンと音がしてすぐ前の席に友人が座ってきた。
一瞬驚いて、頬杖をついていた手からハッと顔を上げる翡翠。
そんな翡翠のことを友人はどこか嬉しそうな表情で見ている。
「ねぇ、やっぱり恋煩い?」
「えっ…」
「ほら、図星って顔してる」
「そんな…」
「好きな人出来たの?」
「本当に、そんなんじゃないってば」
ズイッと顔を突き出しながらそう聞かれて、思わず顔を背けた。
「翡翠は嘘が下手ね~。前に同じこと聞いたときは“まさか”って笑いながら即答してたくせに」
「え…?」
「顔に書いてあるわよ」
チョンッ、と長い指で頬を突付かれて翡翠は驚いた表情で瞬きを繰り返す。
「嬉しいなぁ、これでようやく翡翠とも恋愛話が出来るのね」
「ち、ちょっと待ってよ。本当にそんなんじゃないんだからっ」
早とちりしないで、と慌てて否定する翡翠の顔を見て、友人はまたしても嬉しそうに微笑む。
今度は自分でもはっきりと自覚していた。
…私、今きっと、真っ赤な顔してる…
女の子同士の会話で恋愛ネタは欠かせない。
今まで浮いた話がほとんどなかっただけに、目の前の友人も翡翠の変化には興味があるようで、色々聞いてくるが…
翡翠としては何とも答えようがない。
それもそのはず。
今、道路を走る車を眺めながら考えていたのは…彼、オプティマス・プライムのことだ。
いくら仲の良い友人とは言え、言えるわけがない。それに…
「…本当に、恋とかじゃないの」
相手は地球外の生き物。
確か…“金属生命体”だと言っていた。
恋愛以前の問題だ。
まるで、自分自身にそう言い聞かせるように心の中で呟いて、翡翠はふるふると頭を振った。
そんな翡翠の様子に、友人もついに首を傾げた。
「なに?もしかして、やばい人とかなの?」
「そっ、そんなんじゃっ…すごく穏やかだし、優しい人…」
「だったら、問題ないじゃない」
「…そうだね。でも、残念ながら本当に、そんなんじゃないの」
心底残念そうにしている友人に翡翠は「ごめん」とだけ答えた。
そうとしか答えられない。
今まで、アメリカ人の彼氏がいた時期もあったけど、短い期間ですぐに終わってしまっていた…理由は、友人に話してもおそらく理解してはもらえないだろう。
…そうよ、文化が違いすぎるんだもの…
日本では有り得ない、挨拶で行う異性とのハグ。
これにはだいぶ慣れたとはいえ今でも体が強張るし、人前でキスをすることなんてもってのほか。
そんな大和撫子魂をなかなか理解してもらえず…前に付き合っていた相手にも「愛情が感じられない」なんて言われてしまった。
そんな翡翠に恋愛話が浮上した…と考えれば、目の前の友人が嬉しそうに声をかけてくれるのにも納得がいくけれど…
今、オプティマスに対して持っているこの感情は、恋とかそういうものではない。
「……………」
ふと、翡翠はまた道路へと視線を向ける。そして思った。
…私は、どうかしているのだろうか。
「翡翠、さっきも外を眺めていたわよね?車?そんなに好きだっけ?」
「ううん」
「じゃあ、どうしたの?急に」
「うん…私にも、わからない」
ポツリと呟いた翡翠にも自分自身のちょっとした行動に説明が付けられなかった。
あの日から…ずっとオプティマスのことを考えているのは事実。
彼に会いたい。
彼の声が聞きたい。
そう思うのも事実。
“恋ではない”と、はっきりと確信できるのに…それでも、また会いたいと思う。
だけど、オプティマスの連絡先なんて知らなかったし、どこにいるのかも聞いたことがなかった。
あの日から、携帯のナビゲーションシステムを何度も確認しているが、あの時のように勝手に起動しているようなことも一度もない。
もう会えないのだろうか…そう考えると、すごくすごく怖くなる。何故こんな感情になるのか。
「困ったなぁ…自分で自分のことがわからなくなるなんて、初めて…」
苦笑いを見せる翡翠の瞳は窓の外へと向けられたまま。
今、こうしていても不思議に思う。
しゃべるトレーラートラック。
それだけでなく、目の前で巨大なロボットのような姿に変身した。
はっきり言って、常識を逸脱しているのに…それをあっさり現実として受け入れたあの日の翡翠。
腕を伸ばして“彼”の腕に指先が触れた時。
“彼”の中に乗せてもらった時。
声を聞いた時。
…どうして、あんなにも穏やかだったんだろう…
こうして日常へと戻った今、ただただ不思議に思う。説明なんて出来なかった。
あの時は勝手に体が動いて…“彼”に触れようとしていたのだから。
(加筆・修正)
