緋色ノテフ(長編)
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『大丈夫か?』
俺にいきなり声をかけたのは煙草を咥えた黒髪の男。
まっすぐなその目にはどんな獲物も逃さないような鋭さがあった。
『誰だ、お前。』
乱れた服を整えながら男を柔らかく睨みつける。
コイツもどうせ、今までのと何等変わりはないだろうと思ったから。
なのにさ、
『真選組副長、土方十四郎だ。』
そんな顔で俺を助けようなんざ、ご自愛しなさすぎなんじゃないの?
見つけたぜ、副長サン。
「今日から真選組で働くことになりました。武鳶柊一です。」
簡単な挨拶を済ませた後、局長の近藤っつー奴に仕事内容を聞かされた。
「宜しく頼むよ!なんだって、トシがスカウトしたそうじゃないか!」
「大袈裟だ近藤さん。俺ァただ…」
「まーそう照れるなって!じゃあ早速柊一くんには、トシたちと一緒に町内見回りに行ってくれないかな?」
「わかりました。」
「隊長クラスの隊士には直々に挨拶したか?隊士全員を集めての会議では簡単な自己紹介だけだったからな。」
「はあ、それなんですが沖田隊長が見当たらなくて…」
「あー、じゃあ丁度いい。今回の見回りは俺とお前と総悟で行くからな。その時にしとけ」
「はい。」
――見回りの時間は正午からだからそれまでトシな色々と案内してもらえ。
近藤さんに言われたように、とりあえず屯所内を案内しているが。
さっきから妙な感じがする。
まるで凶暴な獣に奇襲された後のような身形をしていたから声をかけてしまったが…
コイツは明らかに、俺に対して何か憎しみを抱いているような顔をしていた。
…なんでもっと早く声をかけてくれなかったのかという目では無かった、よな…。
そんな事を考えていたから、助ける気はあまり無かった。
だが周りの、この男への同情の視線が、警察なんだから助けてやれと言わんばかりの視線が俺を突き刺し、いてもたってもいられなくなった。
『何があったか屯所まできて説明してもらおうか。それにそんな格好じゃ、そこら辺のチンピラに絡まれんぞ。』
『それは別に構わないんだけど…』
『?なんだ』
『俺はただ知り合いとちょっと喧嘩をしただけだから。いちいち説明するほどの事でもねェよ。…それより副長サン、俺を真選組に入隊させてくれないか』
『…あ?』
「さっきは驚いたぜ…この辺で真選組に入隊したいなんて言う奴ァあんまいねーぜ」
真選組の暴れっぷりをみてるここの奴等は入隊を希望する奴が少ない。
逆にちぃと田舎にいけば幕府の名に憧れてくる奴が多い。
「江戸に来たのは最近ですから」
「ほー、ここに来る前は何処に?」
「…色んな場所です。西にも、東にも。」
「?そうか、まあいい。そろそろ見回りに行くぞ。…おい総悟!」
俺はいつものように大声で呼んだ。すぐそこの部屋にいるであろう、憎たらしいサボり魔の名前を。
土方の声に、榛色(はしばみいろ)の髪色をした青年がひょこっと顔を出す。
「なんでさァ土方さん。折角これから藁人形をつくろうとしてたのに…」
「大体用途は分かるぜ…これから見回り行くぞ。」
「げっ、今日俺でしたっけ」
「ああそーだ。今日は途中で逃げたり出来ねーぞ。見張り番がいるからな。」
「見張り番?…アンタ誰でィ?」
「本日から真選組で働かせていただきます、武鳶柊一です。」
「ふーん。」
「…よろしく、お願いします。」
…コイツが沖田。
なるほどな、土方とはまた別の鋭さを持ってる。
一瞬でも気を緩めたら全てを見透かされるような目だ。
「何?ビビってんの?年の割に青いねェおじさん」
「っ…これでもまだ20代なんですが」
「っつってもギリギリだろ?土方さんと同じ位?」
「土方さんの歳が分からないので何とも言えませんが…」
いい加減コイツか離してくれ、と土方に視線を送る。
土方はそれにすぐ気付き(流石剣士)、沖田を止めにかかる。
「自己紹介はそこまでだ。さっさと行くぞ。日が暮れちまう。」
「土方さん、まだ昼になったばっかでさァ。」
「テメーはいちいちうっせーんだよ」
土方と沖田が俺より数歩先を歩いて行く。
俺はその背中をみつめながら、今後の真選組での立場について考えた。
・・・・・・。
日ごろの経験上、答えは直ぐに出た。
お人好しの局長サマにお願いすりゃあすぐに俺の希望通りにしてくれるだろう。
「おい、はやく来ねェとアンタの大切な土方さん殺しちまいますぜ?」
一番危険な奴の傍にいるのが一番安全ではないだろうか、と。
2-END