出会い編
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「ドリンクどぞー」
「おう、さんきゅ」
暖かな日差しに欠伸がとまらないこの季節。
普段なら家でぐっすり寝ているこの時間にこの残念な私が、マネージャーとしてドリンクを配っている。
「きゃあっ丸井くんっ!」
「ホント可愛い~っ」
しかも学校一人気な部活のイケメンに。
「朝から凄いなぁ…ほんと、イジメとか無くて良かったー…(ホッ」
「ん?どした柳坂?」
「いっ!いやなんでも!さーって真田にも渡してくるかな!」
ブン太が目の前にいるのに余計な事を口走ったら危険だ!と思い、そそくさと別のベンチにいる真田の元へと走っていく。
「(そういや昨日の夕飯美味しかったな~!)」
昨日はあの後、片付けが長引いていつもより帰りが遅くなってしまったので、帰りに立ち寄った定食屋で夕飯を済ませた。
千鴇君の料理ももちろん美味しいけど、神奈川の海の幸がふんだんに使われた定食、とっても良かった…!
まだ落ち着かなくて観光出来てないけど、いずれはこの辺りを色々と探検してみたいな…
「ん?……おえっ」
昨日の思い出と共に潮の匂いが混ざった爽やかな風を感じていたら、その風に乗って香水のハンパない匂いが私の鼻にダイレクトアタックし、思わず声をあげてしまう。
「雅治ゥ~」
え!?福○雅治!?!?どこどこ!?!?どこにいんの!?!?
「なんじゃ」
…………ああ。
はい、すみません。オチ読めてましたよね。
でも一瞬雅治って誰だっけって思っちゃったんです。ごめんなさい。
「今日は付き合ってくれるんでしょ?」
「朝っぱらから…」
「だぁってはやく来ないと他の娘にとられちゃうんだもの!」
目の前の雅治さんはただでさえ朝練で怠そうだが、隣でお色気ムンムンの女の子に詰め寄られて、更に眉間に皺が寄っていた。
綺麗な人だしお似合いそうだけど、何か嫌だな…。
あ、ニオと目があった。
あ、ニヤッてした。
「悪いが今日も先約があるきに。また今度にしてくれ」
「えぇ~っ?んもうっ、じゃあ明後日空けといてよっ」
「暇じゃったらな~…………ということで」
ポンッ
「はい?」
「今日遊ぶぜよ」
「え?なんで」
「俺と遊びたそうな顔してたじゃろ?」
「いやいやあれはなんというか、お盛んですねえといった感じで…」
「つまり一緒じゃろ」
「は?いや全然違っ……あっちょっ待てコラ!!………あー」
それは一瞬の出来事で、思わぬ展開にただその場に立ち尽くす。
ま、待って。仁王と遊ぶって、彼は一体何をして遊ぶんだ…?
むしろ遊ぶというより、遊ばれるの間違いじゃ…
「今日雅と遊ぶの?良かったじゃん!夕飯はどうする?作っておく?いらない?」
千鴇くん……あんたはおかんですか?
☆
「仁王くん仁王くん」
「なんじゃ」
「ここ消毒液臭い」
「俺は結構好きだけど」
「まじで?…じゃなくて」
受付を済ませ、内壁が白く塗られた廊下を二人で歩く。
行き交う人々は皆似たような服装をしており、その多くは白衣に身を包むか、全身を緑に近い服に覆われている。
そう、ここは病院。
うん、なんで病院?
…ああ、私もしかして死ぬの?
「たしかアイツの部屋はこの辺だったんじゃがの」
今日は基礎練だけした後、真田に許可を取って仁王と2人部活を抜け出してきた。
なんで真田が易々と許可を…まさか!真田が仁王のペテンにでもひっかかった!?皇帝の名も聞いて呆れるぜ!と思ってたんだけど、
病院に連れて来られたという事は、思い当たる節があり。
「もしや、幸村様ですか…」
「わかっとるんならもちっとシャキッとしんしゃい」
「う、うん分かった!お母さん、雅子さんをお嫁に下さ「却下」
早っ!!しかも雅子とかツッコミ所たくさんあるで…しょ………
「…!!!!ぅああああごめんなさいいいい!!!」
色々考え事をしていたらちょうど病室の前にいたらしく、
声を聞きつけて個室のドアを開けた幸村様がそこにいらした。
幸村様は一瞬こちらを見たかと思うと、すぐに仁王の方を向いて話し出す。
「…やぁ仁王、元気にしてたかい?」
「お、おぅ、なにも変わらんよ」
「さ、こんなところで立ち話もなんだし、中へどうぞ」
「お、おう」
「あ、お邪魔しま…」
ススーッ
パタンッ。
「………えぇ?」
し、閉められたんですけど…!!!!
どうしよう!?そんなに第一印象悪かった!!?
確かに立海一のセクシー大魔神・仁王を嫁に貰おうとしたのは時期尚早、身の程知らずとは思うけど、そこ!!??
それにこの時期の幸村は精神的に辛いんじゃないかなとか、少し心配する気持ちもあったのに…めっちゃメンタル強いじゃないですか…
よし、こうなったら…。
コンコン
「幸村精市くん、採血のお時間ですよ~」
ガチャ
「花園さん!ごめんね、今日はお客さんが来てるから、あの話はまたあとでにしてくれないかな…?」
…………、
え?
「花園さんじゃ…ない?」
「いや、誰?」
「……今のは聞かなかった事にしてくれないか」
「あの話って何?」
「どうやら黙らせたほうが早いらしいな」
「えっ」
「まずはお前の声帯を変えてやる」
「ちょっえっ待って待って待って!!!!」
「君が花園さんと声が一緒なのが悪いんだ、そうだろう?」
お願いだからその右手にある花瓶を今すぐ元の場所に戻してェエ!!!!!!!!
☆
なんとか落ち着いた幸村君をベッドに座らせ、私と仁王は近くのパイプ椅子に腰かけた。
「君たちは何か勘違いをしているかもしれないが、花園さんは僕の担当看護師で、メンタルケアの相談を受けてくれていたんだ」
「は、はぁ…(じゃあ最初からそう言ってくれれば…)」
「ちなみに男だよ」
「は!?」
「冗談だよ」
幸村君はそう言ってハハハと笑うと、「僕が勘違いしたのが恥ずかしくて、君の事もちょっとからかってみたんだ」と続ける。
「俺以上にからかうのが上手じゃの」
「仁王もこの子を遊んでやっているのかい?大忙しだね、君は」
いや、誰の所為だと…と思っていると、突然幸村君が真剣な表情でこちらを見つめる。
「さっきは締め出して悪かったね。なに、一つ仁王に確認したい事があったんだ。一目見て思ったんだが……
この世界の者ではないような雰囲気が彼によく似ていると思ってね」
「え…?」
「千鴇から話は聞いてるよ、異世界から来た、柳坂美紀ちゃん」
…!!!!
「なんで名前・・・・・
ちゃん付け・・・・・・・・」
「ツッコミどころそこかの…」
☆
真実を知る者が仁王だけではなかったという事実に多少混乱しつつも、私は「彼らの前では酷く飾らなくても良い」という安心感もあり、その後も他愛もない会話が続いた。
「しかし、そうか、君が噂の新しいマネージャーか。てっきり仁王の目が狂ってしまったのかと思ったよ」
「「それどういう意味(じゃ)」」
「そのまんまの意味だよ」
「幸村君ってガチで黒属性だったんだね」
「…なんのことかな?」
「そのまんまの意味だよ?」
暫くして、日も暮れてきたので、また来るねと話して病室を後にする。
「美紀ちゃん」
「うん?」
先に出た仁王を見送り、呼び止められた私は足を止める。
「俺は…俺達は、全国3連覇しか見ていない。優勝以外の結果なんて、一回戦負けと同じなんだ。…わかるかい?」
「…?う、うん、そうだよね。皆の想いは知ってるよ」
「…そう、なら、良いんだ。…君には期待している」
「っ…、え…?」
突然幸村君がベッドから立ち上がったかと思うと、
私の元まで歩み寄り、そして深く、強く身体を抱きしめた。
「ゆ、幸村君…!?」
心臓がバクバクする。
彼を纏うお花のいい匂いがして、胸がきゅっと熱くなるのを感じる。
「俺は…、少し怖いのかもしれない。俺達は負ける筈がないのに、負けは、許されないのに」
「幸村君…」
「家族や花園さんに話したって、理解されない。部員には当然話せるものじゃない。きっと仁王だって苦しいはずだよ。
でも、事実を知らないよりはずっとマシだ。」
彼はこの病室で一人、毎日戦っているんだ。
逃れられない事実と、それをどうしても受け入れられない自分と。
「…私で聞ける話があれば、いつだって聞くよ、」
「…有難う。でも、こう見えて俺も立派な男だからね、あんまり女々しいところは見せたくないし…」
「…?」
「それに今は、弱った姿に寄り添われるよりも、このシチュエーションにドキドキしてほしい…かな?」
「…!!!!」
そう言うと幸村君は私の身体をゆっくり剥がし、
その整った顔を私の顔に寄せたかと思うと、
左頬にちゅっと唇を乗せた。
「な、な…!!」
「わざわざ来てくれたお礼だよ。さ、あんまり長くしていると、仁王に勘付かれちゃうね」
幸村君はそう言って、私の背中を押して病室のドアまでエスコートすると、「ごめんね、お待たせ」と仁王に一声かけて、ドアを閉めながらバイバイと手を振った。
「…おい」
「ハ…ハ、ハイ……!」
「こりゃ幸村に何かされたの、顔が真っ赤っかじゃ」
「え!?そ!?そんな事ないよ!?そんな事ないですよね!?」
「はい!?そ、そうですね…?!」
ハッ!!動揺しすぎて通りがかりの看護師に声をかけてしまった!!
って、え?この人私に声そっくりじゃ…
「「あ、花園さん」」
「はい!花園ですが、何か…?」
☆
「それで花園さんはやっぱり男だったって話!?面白すぎるんだけど!!」
「ちょっと千鴇君黙って!!!」
仁王と分かれて帰宅すると、既に夕飯を完成させていた千鴇君がいたので、一部始終を話した。
…流石に最後の幸村君との事は話せないけど。
千鴇君は話を聞くと、まぁまぁ、今日は俺のお手製ビーフシチューだよ、と私を宥めてくる。
…………美味しい…。(グスッ)
「あ、そういえばもうあと少しで合同合宿だね」
「ん!もうそんな時期か…!早いね」
「うん。部活の準備もだけど、自分の準備もしなきゃね」
すっかり忘れてた…。
今度の休みのうちには、準備しないとな…。
私は用意するもののリストを書き出して(途中今日の事を少し思い出しちゃって赤面しながらも)、明日の部活のために早く布団に入った。
★