合同合宿編
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「う…ふぁあ…」
昨夜、柳に見つかった後すぐさまそれぞれの部屋に戻され、眠りについたのは夜の12時ごろ。
定刻の6時になんとか起床して、眠気覚ましに窓を開け、外を眺めると、既に殆どの人は外で朝練に励んでいた。
本当に皆テニスが大好きだな~、と眠い目を擦りながらその様子を眺めていると、華岾さんに「おはよう。先に行ってるわよ」と声を掛けられた。
「あ、はーい!」と返事をして振り向くと既に彼女の姿は無かったが、綺麗に整えられた荷物を見て、今日が合宿最終日であった事を再確認させられる。
今日で終わっちゃうんだな…
多少の寂しさを感じつつも、ぼんやりと余韻に浸る時間も惜しいので、早々に身支度を済ませる。
昨日のうちに大体の片付けは済んでいるが、出発前の最終チェックなど、マネージャーとしてやる事は少なくない。
今のうちに持ち帰る備品のチェックだけでもしておこうと思い部屋を出ると、ドアの前でばったりとあの人物と出会った。
「わっ!お、おはよう日吉くん!」
「柳坂さん、おはようございます。昨日は脅かしてすみませんでした」
そう…。あの時、必死に逃げながらも、あのこけし頭はどう考えても…と思っていた。
今目の前にしてみると、やはり身長差などが一致する。
あれは日吉だったのか…。
しかし何であんな夜中に暗闇の中で…。
「い、いや!むしろこっちもあんな声上げて逃げちゃってごめんね!?…ところで日吉はどうしてあんなところにいたの?」
「いえ。実は、この合宿所の近所にある有名なミステリースポットを散策しに行こうとしてまして。」
「こんな時までミステリースポット!?って、あの後合宿所の外に行ったの!?」
「いえ…、警備員の方に止められてしまいました」
そりゃあそうだろ!
夜中に抜け出す男子中学生を引き止めない大人はいないだろうと思いつつ、めちゃくちゃ悔しそうな日吉を見て、苦し紛れに「ど、どんまい…」と声を掛けた。
時間も無いのでその場で分かれたが、去り際に「あ、数日後に例の件、よろしくお願いします。後ほど連絡しますので」と言われ、思わず背筋が伸びた。
ほ、本当に行くのか…。え、やっぱり、2人で…?
☆
朝食後、昼前にはそれぞれのバスに乗り込んで帰るので、それまで数時間のあいだ自由時間となった。
彼等が好きな用事に胸躍らせている中、マネージャー陣は残りの片付けを行う。
粗方のチェックを済ませ、各々の荷物をロビーへ運び、後はバスに積み込むだけの状態となったので、マネージャー陣も残りは自由時間という事になった。
華岾さんは跡部や43との打ち合わせ、千鴇くんは真田と2人で話したい事があるという事だったので、私と氷帝男子マネ君たちとで会話しながら外に出る。
早速外に出ると、トレーニングに打ち込む姿や、備え付けの施設で遊ぶ姿が見受けられた。
目の前のテニスコートでは宍戸と長太郎がテニスをしている姿が見受けられる。
少し遠くからスパンッ!と軽快な音が聞こえたかと思うと、柳生がパターゴルフでミラクルショットを放ち見事ホールインしている姿が見えた。
それを取り囲むように見ていた忍足と向日、ジャッカルも、謎の健康器具や足つぼコースなどで楽しんでいるようだった。
その更に遠くには仁王と赤也がランニングしている姿が見えて、思わずギクッとしてしまう。
「あ、お~い!こっちで一緒に菓子食おうぜ!」
急に視界の外から声を掛けられてその方向を見ると、ブン太とジローちゃんがフラワーガーデンのベンチでお菓子を食べている姿が見えた。
「わ~!いいね!楽しそう!」
「俺達も良いの?」
「勿論だぜぃ!」
呼ばれるがままそちらに3人で向かおうとすると、急に背後からガッと肩を掴まれ、びっくりして声が詰まる。
「っ!?」
「柳坂?まさか忘れてはいないだろうな?」
「ヒッ…!」
背後から絶対零度の声がしたかと思うと、やはりそこには開眼した柳が立っていた。
だんだん掴まれた方に力が入っていっているような気がする…!これは、逃げられない…!
「じゃ、じゃあ、俺らはジロー達に呼ばれたから…」
「あ、うん~…!じゃあね!た、楽しんで~…!」
男子マネ君たちはそんな私達を見るや否や、少し引きつった笑顔でブン太とジローの方へ行ってしまった。
☆
「そうじゃない、もっと腰を落とせ」
「は、はい!」
「ラケットが沈みすぎだ。上で構えろ」
「はい!」
「そうだ。では素振り100回から」
「はっ…はい!!」
テニスラケットを持たされるや否や、早速柳のレッスンが始まった。
何度目かの稽古は毎回真剣な空気で行われるが、今日はやっぱりいつもより厳しい気がする。
昨日の事があった以上、それに弱音を吐いているわけにもいかないので、言われるがまま特訓に勤しんだ。
それでも、毎度こうしてなんだかんだ付き合ってくれる柳は優しいな…。
「おい、考え事をしている暇はないぞ。ふむ…素振りを始めて75回目か、終盤で気を抜きやすい性格…と。」
否、データが目的か…。
100回の素振りが終わり、次のメニューまで少し休憩をしていると、近くで練習をしていた宍戸、長太郎がこちらに歩み寄ってきた。
「よっ!マネージャーがテニスの練習か?最終日までご苦労さん!」
「柳さん、柳坂さん、良かったらご一緒しませんか?」
「え…えっ!?」
「む、そうだな…まだ早い気もするが、良い機会だ」
「ええっ!?まだボールもまともに打てないのに、試合ですか…!?」
「流石にそりゃあ無理だな!ネット側で軽く打ち合おうぜ!最初のうちは軽くガットに当てりゃあ大丈夫だからよ!」
「良いだろう。宜しく頼む」
私がビビり散らかしているうちに話はとんとん拍子に進み、近くのコートで2人と向かい合う形で一緒に練習をしてくれる事になった。
2人の親切心はとても有難いけど、こんなド下手が中学テニス界期待のプレイヤー3人に指導されるなんて、緊張しすぎて身体が動かない…!
…!?
「な!?ちょ、あははは!!やめてっ!やめてって…あはは!くすぐったい!!ねえ!もう無理!!ほんとに!ちょっ…!!!」
「そら、身体はほぐれたか?」
突然、隣にいた柳が私の脇腹を両手でくすぐり、耐えきれなくなった私は大声で抵抗の声を上げた。爆笑した姿を見た柳は満足いったのかその手をやめて元の位置へ戻っていったが、対面にいた宍戸と長太郎は唖然としてその様子を見ているようだった。
「お、おいおい、いちゃつくなら邪魔者のいないところで頼むぜ…」
「勘違いするな。コイツが要らぬ緊張をしていたからほぐしたまでだ」
「良いなぁ…。」
ほぐし方がアグレッシブすぎるんだよ!
それと今、長太郎サラッと良いなぁって言った?何に対して言った?
でも、おかげですっかり緊張は無くなったのか、その後の練習では何回かラリーを続けられるようになるまで成長出来た。
データマン柳、侮れない…。
☆
時間はあっという間に過ぎ、自由時間ももうすぐ終わりという時に、帰りのバスが到着したという事でマネージャー陣は招集がかかった。
荷物の積み込みなどを行い、数十分後には全員が正面玄関に集合していた。
その中には、さっきまで走り込みをしていた仁王と赤也も少し汗ばんだ様子でいる。
「あ、2人ともお疲れ様〜」
「あ、柳坂先輩!先輩も一緒かと思ってずっと探してましたよ!」
「わ〜ごめん!柳くんと、宍戸くん鳳くんと打ち合いをしてて、」
「お!もうラリーしてるんすね!」
「美紀のいい声が響き渡っとったけど、柳に何されてたんかのう」
「エッ!?い、いや〜!?なんか緊張ほぐす為とか言ってくすぐられてたけど、そんなに響いてた!?」
「プリッ」
確かにテニスコートは割と合宿所の真ん中にあるし、下手したら全員に聞こえてたレベルの声を上げてたかもしれない…というか、その自信がある…。
私は恥ずかしさと消えたさから頭を抱え、「時、じゃあまた後で〜!」と足早にその場を立ち去った。
逃げ去った先には、今日でしばらくお別れとなる氷帝の面々が集まっていた。
一人一人に挨拶をする時間もないし、そこまで仲良くなれた人もいないしな…と思いながら眺めていると、こちらに気付いた華岾さんに「お疲れ様。」と凛とした声で話しかけられた。
「華岾さん!数日間有難う御座いました」
「こちらこそ、立海マネの2人には色々と良く動いてもらって助かったわ。…良かったら、連絡先を交換しない?」
「えっ!良いんですか!私めなんかと…」
「あんた自分をそういう言い方するのやめなさいよ。ホラ、これ私の連絡先。」
「わ〜…!有難う華岾さん!!」
すごい!有名人と連絡先交換しちゃったー!
こちらから連絡するなんておこがましくて出来ないけど、なんかすごく嬉しい!
「えっ!俺もしたいな!良い?」
「僕もー!」
すると、氷帝男子マネの2人も後ろから声をかけてきてくれた。私は「もちろん!」と返事をして、それぞれ登録していく。
やったね!今日だけでどんどん友達が増えた!
「俺を忘れていませんか?」
連絡先の増えた数をルンルンで見つめていると、少しムスっとした表情の日吉がこちらを見ている事に気づいた。
「あ!日吉くん!」
「このままじゃ待ち合わせも何もないでしょう。…連絡先、聞いても?」
「あ、う、うん!」
強気なくせに、少し躊躇いながら聞いてくるものだから、こちらもたじろいでしまう。
ドギマギしながら連絡先を伝えると、彼は安堵したようで、微笑みながら「数日間、有難う御座いました。また連絡します」とだけ呟き、バスの方へと歩んで行った。
その後も何人かと話す機会があり、簡単に挨拶を済ませた後、いよいよ合宿の終わりを告げる号令が発せられる。
「四日間の合宿、ご苦労だった。次回は勝負の場で会う事になるだろう。それまで互いに鍛錬を怠る事なく、万全の状態で戦おう。では、行ってよし!」
43の締めの言葉を聞き、皆の「有難う御座いました!」の声が静寂に満ちた合宿所に響き渡った。
一気に込み上げる寂しさとは裏腹に、緊張の糸が解けるような感覚が込み上げてきて、帰りのバスではすっかり熟睡してしまった。
☆
立海に着いたのは遅めの夕方ごろ。
今日はその場で各自解散、また明日から学校と、通常の練習が始まる。
「長いようであっという間だったな〜」
帰宅した途端、千鴇くんがもう既に懐かしむように合宿での思い出を語りだす。
彼の中で一番面白かった出来事は、『風呂の時間、初日はみんな腰にタオルを巻いて過ごしていたのに、最終日には盛り上がったメンバーがタオル片手に独断ライブを開催してた事』らしい。
私達が2人でまったりと寛いでいる間、男子風呂ではそんな事になっていたのか…メンバー誰だろ…と苦笑していると、ふと気になる事があったのを思い出した。
「そういえば、今日の自由時間、真田とどんな事を話してたの?」
今後の練習メニューの事とかかな?と軽い気持ちで聞いたつもりでいたが、それを聞かれた千鴇くんの顔が少し険しくなったように見えて、私は「しまった、地雷踏んだかな…?」と恐る恐る顔を覗き込む。
「んー…、今はまだ、あんま詳しく話せないんだけど、さ」
「う、うん…?」
「これまで以上に、美紀には頑張ってもらわないとならないと思うから…悪いな、これだけは今のうちに謝らせて」
「?うん、大丈夫だよ!」
多分きっと、体調が良くなさそうだったから、それを言っているんだろう。
そう思って、私は出来るだけ心配をかけないように、ちょっと今日は疲れてるけど、なるべく意識して笑顔を作るようにした。
千鴇くんは、苦しそうに微笑んだ。
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