合同合宿編
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私達は真田・柳・赤也のいる部屋から出て、
隣にある部屋のドアをノックした。
中から「はい!」というハキハキとした声が聞こえたかと思うと、ものの数秒もせずにドアが開かれ、そこには柳生が立っていた。
「おや、畠見君に柳坂さん、どうしたんです?」
「柳生~!遊びに来たぜ~」
「少しお邪魔しても良いですか~…?」
「ああ、構いませんよ!ちょうど今みんなでカードゲームをしていたところです」
眼鏡をクイッとする柳生に促されるままに中に入ると、敷いた布団の上に寝っ転がりながらトランプ手にし、お菓子を広げて食べているブン太・ジャッカル・仁王がこちらを見ていた。
奥では賑やかなテレビが付いたまま垂れ流しにされている。
「お!千鴇に柳坂じゃん!」
「なんだ、遊びに来たのか?今ババ抜きやってんだ」
そう言って、ブン太とジャッカルが「こっちこっち!」と言いながら自分たちの間を空けて座らせようとしてくる。
私達は招かれるまま、空いた空間に並んで座った。
向かいではテレビを背にした仁王が若干眠たそうな顔をしている。
「…なんじゃそんなに見つめて」
「エッ!あ、いや…仁王、髪結んで無いんだなぁと思って」
よく見ると、いつもの赤い髪留めは左の手首に嵌めてあり、
彼の長髪は両肩から胸元に向かってスルリと流れ落ちていた。
「見とれたか」
「…さ!じゃあみんなでババ抜きしよう!!」
「釣れないのう」
最近からかってくる事が多くなった仁王をなんとかかわし、
私は皆からカードを集めてシャッフルし、配布した。
「また仁王が勝ちかよ!ズルしてないよな!?」
「まさか、こんなところでペテンを安売りせんぜよ」
最後までジョーカーを手に握りしめていたブン太が、彼から引いたカードによって数字を揃えた仁王に向かって、ぷっくりと頬っぺたを膨らましている。
「まあまあ、約束は約束ですよ、丸井君」
それにしても二連続とはツイてませんね、と、カードを集めてシャッフルし直しながら柳生が呟く。
さっきも負けたのかブン太…。
「ちぇ~、じゃあ真田のモノマネするぜ!ジャッカルが」
「おい!俺かよ!」
どうやらビリは罰ゲームをするという決まりだったらしく(聞いてないんだけど!?)、得意のセリフでそれを躱そうとしたものの、結局それは叶わず。
観念したブン太は「…お前ら、たるんどる!」と言ったかと思うと、首から上が全部真っ赤になってしまうんじゃないかという位にどんどん顔が火照っていき、次には「バカ~!!見るんじゃねえ!!」と言いながら布団に顔をうずめていた。
めちゃくちゃかわいい。
私は傍にポッキーをお供えしておくことにした。
「あ、そうだ、折角だし、幸村に電話しない?」
「えっ!?」
突然、隣に座っていた千鴇くんが携帯をひらひらと皆に見せながら、そう提案する。
彼は皆の返事も待たず、器用に画面操作をしたかと思うと、既にビデオ通話のコール音が鳴り響いていた。
『もしもし?…おや、随分と賑やかだね』
「あー!幸村君!!」
奥で布団に埋もれていたブン太が、幸村の声を聞いて一目散に飛んでくる。その手にはしっかりとポッキーが握られていた。
『ああ、ブン太。それに仁王と、柳生、ジャッカルに…美紀ちゃんもいるんだね。』
「幸村君、お元気ですか?また今度みんなで会いに行きます」
『まずまずだよ、ありがとう柳生。そうだな、楽しみにしているよ』
「幸村、こんな遅くまで起きて大丈夫なのか?無理すんなよ』
『大丈夫だよ。ジャッカルも、あんまり周りに気を遣いすぎて、無理しすぎないようにね』
「幸村君!幸村君!今日の練習試合で俺勝ったぜ!」
『すごいじゃないか丸井、良い調子だね』
皆の嬉しそうな問いかけに、一つずつ丁寧に返事をしていく幸村。
その声色は全員がいつもより高く聞こえてきて、
やっぱり皆、幸村と話が出来て嬉しいんだな、という事が伝わってくる。
『美紀ちゃん、問題なくやっているかい?』
「え!?あ、は、はい…!問題なく!!?」
『そうか、ならいいんだけど…周りには危険な男ばっかだから、気を付けるんだよ?』
「は、はあ…」
幸村は突然話しかけて来たかと思うと、『さ、俺もだけど、みんなもあんまり夜更かししすぎないようにね』と言って、皆に別れの挨拶を告げた。
「…はて、さっきのは誰に対する忠告かの?美紀」
私の後ろにいた仁王がポツリとそう呟くと、私の頭をポンポンと撫で、「そろそろ歯磨いて寝るかの~」といって部屋の外へと出て行ってしまった。
それに続いて、じゃあ俺達もお開きにするか!と言って、私達は彼らの部屋を後にした。
☆
「…で、まだ行くんです?」
「当然だろ?目指せ、全室制覇だ!」
手元の時計は既に10時を回ろうとしていたが、
隣の千鴇くんはまだまだ元気抜群!といった表情で別フロアにある氷帝の部屋へと向かう。
体調万全じゃないんだし、無理しない方が…と言ったけど、「大丈夫大丈夫!それに今以外にこんなチャンスないでしょ!?」とド正論を言ってくるもんだから、私もその言葉に揺らいで後を付いていった。
が…。
「もしや、ここは跡部様のいらっしゃるお部屋では…」
「え?そうだけど。合宿だからちゃんと4人部屋だけどな」
「そ、そっか…うーんと、私はちょっと…」
昼間の事があり私はつい躊躇してしまうが、
それも直ぐ、背後から来た人物によって意味のないものとなる。
「あ?お前らこんなとこで何してんだ?」
「ワッ!!む、向日くん!」
「もしかして遊びに来たのか?遠慮してないでとっとと入れよ!」
「え!?ちょ、待って!!」
彼はそう言うと一足先に部屋に入っていき、「おーい!立海マネが遊びに来てるぞ!」と室内にいる人たちへと声をかけた。
それに続く千鴇くんは、なんてことない顔で「お邪魔しまーす」と言ってズカズカと入っていく。
恐る恐る中に入ると、
跡部、ジロー、忍足、そして何故か別室の樺地も一緒に、奥にあるテレビでやっているバラエティー番組を見ていた。
「なんや、立海の敏腕男マネに、やたら俺らに詳しい嬢ちゃんやん」
「あ、忍足くん、どうも…」
「今跡部の行きつけの店のシェフがテレビに出てんねん」と言われ、「ハ…?」と思い歩み寄ると、芸能人が料理の値段を予想するあのバラエティ番組で、いかにも高級店のオーナーといった格好をした人当たりの良さそうな料理人が画面の中に映っていた。
「いーなー、跡部ー、俺もこの料理食べたい~」
「今度食べに行くか?」
「え!?良いの!?」
「勿論だ、後でシェフに電話しとくぜ。お前も一緒に行くな?樺地」
「ウス」
「はぁ~、やっぱ金持ちはすげえな…」
「そ、そうだね…」
次元が違いすぎる会話に思わず黙って見てしまっていると、
千鴇くんも口をあんぐりとさせて私の隣で立ち尽くしていた。
常にこの次元の会話が繰り広げられている氷帝、恐ろしい…。
その後も暫く皆と一緒にテレビを見ていたが、どうしても跡部の事を意識してしまい。
居心地が悪いというか、なんとなく落ち着かない時間を過ごしていた。
その緊張感が伝わってしまったのか、はたまた人の心が読めるのか、
テレビ番組がCMに入ったタイミングで忍足が口を開く。
「跡部、お前お嬢ちゃんになんか言うたん?さっきからめっちゃビビっとるけど」
「エ!?なんも無いです!!よ!?」
「アーン?俺がか?…ああ、なんだ、あんな事気にしてんのか。」
忍足の急な鋭い発言にも跡部は微塵も動じず、顔だけをこちらに向けて話す。
感情の読めない涼しげな顔をしている彼と目が合ってしまい、反射的に目を逸らすが、このまま逃げたい気持ちを堪えてもう一度見つめなおす。
するとその整った顔が少しだけ緩んだ気がして、その瞬間、まるで心が瞳の中に吸い込まれそうになった。
「お前の事情は知らねえが、俺は見たままの事実を言ったまでだ。それに、思うところがあったから柳に頼み込んでテニスを教わってんだろ」
「……はい」
「ならそれでいいじゃねーか」
彼はそう言うと何事もなかったかのように前に向き直り、再び始まったテレビ番組を見つめる。
その姿は相変わらず、何にも揺るがない凛とした佇まいだ。
そうか。
彼は常に潔白であり、自分や他人に正直であり、
何よりもテニスに真摯なのだ。
私はその瞬間緊張から解き放たれ、ふっと身体の力が抜けた。
「にしてもあの日吉が、なぁ…」
ふと、忍足が口を開く。
すると岳人が興味津々な顔で彼に問いかける。
「なになに?日吉がどうしたの?」
「日吉がお嬢ちゃんをデートに誘ったって噂やで」
「マジ!?あの日吉がなぁ…」
「へぇ~、羨まC~」
「なぁ!お前はアイツの事どう思ってるわけ!?」
「え、いや、そんな…」
忍足にけしかけられた(と言ってもいい)岳人が目をキラキラさせて詰め寄ってくる。
と、いつの間にか近くに来ていたジローも加わり、じりじりと壁との距離が迫っていく。
助けを求めようにも、千鴇くんは何だかんだ興味がある顔をしてこちらを見ているし、跡部は変わらずテレビの方を向いているし、確信犯の忍足は横で良からぬ笑みをを浮かべている。
「~っも、もうやめてよ!ホラ、千鴇くん行くよ!」
「え!うわ!ま、待てって~!」
私はとうとう耐え切れず、仕方なく彼らを押しのけ、千鴇くんの首根っこを掴んで逃げるように部屋を去った。
☆
「美紀~、あれじゃあ日吉の事好きって言ってるようなもんだよ」
「千鴇くん、何で助けてくれなかったの!」
「え~?俺は美紀の色恋沙汰には口出ししないつもりだけど?」
「いつからそんなスタンスになったわけ…」
部屋から出てすぐ、ドアと反対側の壁に寄りかかり、はぁ~っと項垂れる。
憧れの彼らに囲まれるだけでも心臓に悪いのに、自分が彼等と恋愛話をしている事がとてもむずがゆくて、余計に体力を使っている気がする。
「まあまあ気を取り直して!でさ、残る部屋はココ一つなんだけど~」
お気楽な千鴇くんが指さしたのは今出てきた部屋の隣にあるドア。
不貞腐れながらもそちらを見ると、中からは物音ひとつしない。
消去法でいくと、この部屋にいるのは氷帝2年ズと宍戸だ。
樺地はさっきの部屋にいたし、こんなに静かだなんて、
もしかしたら中に誰もいないのかも…?
「ま!もしかしたら寝てるのかもしんないけど、とりあえず突撃!」
「は?ちょっと!」
コンコン
口を開いた時には既に千鴇くんがドアをノックしていた。
すると、さっきまで周囲によって故意に意識させられていた人物の「はい」といった淡泊な声が室内から聞こえてくる。
「…なんだ、アンタ達ですか。あいにく部屋には俺一人ですが、何か?」
中から出てきた日吉はジロリと私達を見ると、手に持った本に栞を挟んで閉じる。
その表情は、喜怒哀楽が読めない淡泊な顔でこちらを伺っている。
「っへえ~そうなんだ!…あ、やべ!そ〜いや〜明日の準備がまだ残ってるんだった!じゃ〜俺はこれで〜!」
「え!?ちょっと千鴇くん!?」
すると千鴇くんは突然、一息で別れの言葉を告げ、とっとと自分の部屋のある方向へと走り去ってしまった。
アイツ、絶対なんか企んで…!!
「「……」」
「あ、じゃあ、私も準備、手伝ってこようかな…」
「いや、せっかく来たんだしちょっと話しませんか?お茶淹れますよ」
「エッ、ア、ハイ…」
私は日吉の提案を断る理由も見つからず、
観念して二人きりの部屋へ吸い込まれていった。
私が部屋の奥にある椅子に促され腰かけると、日吉は部屋に備え付けの茶葉を急須に入れ、湯呑みへ器用にお茶を注ぐ。
普段から慣れた仕草である事が伺える彼の手際を眺めていると、唐突に聞こえた「どうぞ」という一言にハッとして、お茶を受け取る。
「そういえば、先輩はなんでテニス部のマネージャーに?」
熱いお茶を少しずつ冷ましながら飲んでいると、向かいの椅子に座った日吉が口を開く。
「え?うーん…な、成り行きで…?」
私は急な質問にどう答えて良いか分からず、ぼんやりとした返事をしてしまった。
強豪校のテニス部マネージャーになるのにそんな理由あるか?と少し後悔していると、予想どおり、少し怪訝そうな顔をした日吉がさらに続ける。
「成り行き…?」
「あ!いや…、千鴇くんの体調があまり優れなくて、サポートというか…」
「そうですか。あの男マネージャーと随分仲が良いんですね」
「え、まぁ…仲良いというよりは、むしろ家族というか…」
「は…?家族…?」
また変な返答をしてしまった…!!
どんどん墓穴を掘っていく私の心の中を知ってか知らずか、目の前にいる日吉は案の定、更に眉間に皺を寄せて此方を見ている。
「あ~えっと~、親!そう、家族がね、仲良くって、でも遠くに住んでるから、下宿というか、家もほぼ一緒的な…」
「え?一緒に暮らしてるんですか?」
「その…まぁ…」
「へぇ…」
「「…。」」
とうとう完全におかしな話をしてしまい、沈黙が流れる。
まず中学生が下宿っておかしいよね…?いや、半分は事実なんだけど…。なんだこの空気は…。
私は居ても立っても居られず、慌てて口を開く。
「そ!そういえば~、ミステリースポットだっけ?楽しみだね…!」
「え?あ、ああ…そうですね。」
「はは、でも、まさか突然誘われるなんて思ってなかったな~、結構初対面の人と簡単に話せるタイプなんだね、日吉くん!すごいな~」
私がそう言ってなんとなくチラッと日吉の方を見てみると、彼の肩がピクッと動いた気がした。
特に気にせずまたお茶へ視線を落とそうとすると、目の前の彼はすぐさま「否、」と声を上げ、更に続ける。
「別に、そういうわけじゃないですよ。
…なんとなく直感で、アンタを誘いたいって思っただけです」
そう言った日吉は、
ずっと逸らしていた目線をスッと私に合わせる。
その真剣な眼差しに籠った熱がまるで、私の目から身体の中に入ってきて、心臓まで流れ込んで突き動かしてくるような感覚を覚えて、
彼から目が離せなくなる。
「ちょ、直感って、凄いなぁ、そりゃ…」
「!!今のは忘れてください…」
「え、なんで…」
「だってこれじゃあまるで、俺がアンタを…」
ガチャ
「…お邪魔、でしたか」
「…樺地か」
開けられたドアの方を見ると、申し訳なさそうに立っている樺地の姿が見えた。
「そんな事ないよ!むしろお邪魔しちゃってごめんね」
「いえ…、ゆっくりしていって、ください」
彼はそう言うとすぐ、洗面台の方に姿を消し、そそくさと歯を磨き始める。
常に謙虚さが滲み出ている彼の背中を見ると、何故こんな子があんな激しいテニスを…と疑問に思う位だ。
私はこれ以上この部屋に居続けるのも気が引けてしまい、「そろそろ寝なくちゃ」と日吉に告げて、部屋を出る事にした。
彼は一言「おやすみなさい」とだけ言って、部屋の入口まで私を見送った。
帰り際、トレーニング終わりの長太郎・宍戸とすれ違ったが、簡単な挨拶を済ませて部屋まで戻った。
跡部と交わした言葉と矛盾するような自分の揺らぐ感情に、どうしようもない苦しさを覚えて、その日はなかなか寝付けなかった。
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