合同合宿編
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次々とドロボウが捕まえられていき、あっという間にドロケイは幕を閉じた。
その頃には雨も上がり、少し乾いた頃に皆でコート整備を行った。
この日も夕食までの時間、柳がテニスの練習に付き合ってくれる事になったが、コート外の広い場所で練習をしていたら赤也がやってきて「俺も付き合いますよ!」と言って手伝ってくれた。
夜は最終日という事で、いつもの食堂とは違うホールに案内され、そこには豪華な装飾と食事が並んでいた。
これ本当に中学生の合宿だよな…?と思いつつ、跡部財閥の力を感じながら私は用意された席に着く。
同じ席はマネージャーのみんなだったのでホッとしつつ、前方からなんとなく心地よいメロディが聞こえてきてたので音のする方を見ると
「・・・!?」
そこには備え付けのグランドピアノを演奏する長太郎がいた。
~~♬ ~♪
…え?何ココ、高級ホテルのラウンジ?
ていうか、何でみんな普通に食事出来てるの?
食器が当たる音すら立てるのが気が引けるくらい綺麗な演奏に聞き入っていると、いつの間にか演奏は止み、長太郎が立ってお辞儀をしていた。
それとほぼ同時に席を立って歩きながら拍手をする跡部に続き、みんなが拍手をする。
「お前ら!これは俺様からのささやかなプレゼントだ。黙って食いたい奴は食ってれば良し、歌や演奏がしたい奴はここのを好きに使ってくれ。」
長太郎と入れ替わりで前のステージに立った跡部の後ろを見ると、簡単な楽器やカラオケ用の機材などが一式揃っていた。
規模のデカさに唖然としていると、「ほな、早速いかせてもらうわ」と若干のドヤ顔をしながら立ち上がった忍足が、得意の昭和歌謡曲を歌いだした。
コレジャナイ感が会場内を包んだ。
43が、ちょっと嬉しそうだった。
☆
忍足の所為で(?)会場はすっかりカラオケ大会モードになり、
流行りの洋楽を歌う宍戸、
デュエット曲を歌うブン太とジャッカル、
ヒップホップを歌う赤也、
何かようわからん曲、知らん曲、そもそも曲?…
と、そんなこんなでディナーと宴会はあっという間に終わり、全員で片付けを行った後は自由解散となった。
それぞれが自分たちの部屋へと戻っていく。
マネージャー陣で宴会場の最終チェックをしていると、我先に部屋へと帰りそうなヤンチャキッズが珍しく会場に残っていた。
「何してるんだ?」と思って見ていると、こちらの視線に気づいた彼はパッと明るい顔をして駆け寄ってきた。
「柳坂せーんぱい」
「赤也?どうしたの」
「合宿、明日で終わっちゃいますね」
「そうだね~、あっという間だったね」
「でさ!俺、こういうところじゃ絶対やりたい事があるんスよ!」
「え?なになに」
「肝試し、しません?」
☆
みんなが寝静まり、日付を超えた頃。
こっそりドアを開けて部屋の前でソワソワしていると、遠くの方から見慣れたワカメ頭(絶対に言ってはいけない)がやってきた。
「あ、ほんとに来た」
「あったり前じゃないっすか!」
「ちょ、あんまり大声出すと見つかっちゃうよ…」
「っやべ…!大変だったんすよ、あの真田柳包囲網を抜け出してここまで来るの…」
赤也は慌てて口を両手で覆う。
その顔は先ほど迄の苦労を思い出した色で少し青白く染まっていた。
薄暗い合宿所の中を一人で歩くには少し勇気が要ったので、部屋の前まで迎えに来てもらったのだったが、相当険しい道のりだったらしい。
苦労をかける…。(何か言ったかい?)
「ま、二人ともとっとと寝たみたいなんで、大丈夫っスよ!さ~て、暗いから手、しっかり掴んどいて下さいね!」
「エッ」
そう言うと赤也は何の躊躇いもなく私の手を掴み、ずいずいと前へ進んでいく。
突然のスキンシップにびっくりして思わず身体を留まらせると、赤也は不思議そうに振り返りこちらを伺ってくる。
「?どうかしました?」
「い、いや…なんでもない」
彼の行為が純粋な気遣いだと分かると、それを振り払うのも忍びなく、私はそのまま善意を受け取る事にした。
それに、ちょっとした夜のお散歩程度と思っていたが、彼にとっては大冒険のようで。
「なんだかワクワクするっスね!」満面の笑みで言ってくるものだから、そこに何も意見する事は無かった。
「…で、何でここに仁王先輩がいるんすか?」
「なんだか眠れなくての」
皆の寝ている部屋を通り過ぎ、ロビーへ向かう階段へ差し掛かったところの広間にある長椅子に、その見慣れた銀髪は座っていた。
「で、そちらさんは、お手手繋いで仲良く逃避行か?」
「暗いから繋いでただけです!」
「ほお?そうなんか赤也」
「そうっスよ!それ以外に何があるんすか!」
「青いのう…」
やり取りをしながら少し眉間に皺を寄せつつも「よっ」と立ち上がると、「どうせ眠れないんじゃ、俺も付いていっていいか?」と仁王が言う。
「良いっスけど、突然脅かしたりしないで下さいよ!?」
「ほう、じゃあリクエストにお答えせんとな」
「言ってない!」
やる気満々、といった笑みを浮かべた仁王と、何かあったら手を引きちぎるほど引っ張ってきそうな赤也に挟まれ、目的も謎な肝試しへと旅立つ事となったのであった…。
☆
「ひとまず外に出たけど、ここからどうするの?」
室内じゃ騒ぐとすぐ邪魔者がスッとんでくるだろうという事で(それはそれで充分肝試しな気もするけど)外に出てきたわけだけど、
暗闇に慣れてきた目では数日過ごした合宿所の地理もなんとなく分かっているので、夜のお散歩程度にしかならない気がする。
「何も考えてないっす!!」
「エッ」
「美紀、コイツが何か考えてるわけないじゃろ」
「何すか仁王先輩!ってか、名前で呼んでるんですか!?」
「ピヨッ」
やっぱり外に出て来て良かったな…というくらいのボリュームで話し続ける赤也を尻目にとりあえず合宿所内をふらふらと歩いていると、
少し遠くから ガサガサッ! という音が聞こえ、ピタッと立ち止まる。
「え…なんかあの辺り、音しなかった?」
「ん?そうっスか?俺はわかんなかったけど」
そんだけ騒いでりゃそうでしょうね…。と思いながら音のした方を見てみるが、薄暗くて何も見えない。
「行って確かめてみろよ」
「え~!一人で!?」
「良いっすね!肝試しっぽくて!」
「ええ~…」
他人の不幸は蜜の味を存分に味わう気満々の2人を背中に、仕方なく音のした茂みの方へ進む。
「こ、こんばんは~、誰かいますか~」
割と近くに来たはずなのに音を立てたものの姿は何も見えなくて、更に茂みの方を注視する。
「いたら返事してくださ~い」
「はい」
「ギャ~~~!!!!!!」
突然目の前に現れた巨大なこけしの残像に、私はびっくりしてその場から逃走した。
「あ、ちょ、柳坂先輩!」
「美紀!…追いかけるか」
「負けないっすよ、仁王先輩」
「何がじゃ、」
「何って…!」
「随分と楽しそうだな」
「………あ、柳先輩…」
「お前が部屋にいないので外に来てみたら、分かりやすく叫び声が聞こえたものでな。
…明日の自由時間、相当走り込みがしたいようだな?(開眼」
「い、いや~!そんな事無いっすよね!仁王先輩!…え?あれ?仁王先輩!?」
☆
無我夢中で走り続け、気づいたら合宿所の庭の方まで走ってきてしまっていた。
「あれ…入口どっちだったっけ…」
流石跡部財閥の保養所、広さがケタ違いですぐ迷子になる…。
しかも周りが暗いから、より一層見えない。
ガッ!!
「痛っ!!!」
バフンッ!!!!
「…ってて……!?」
足元に何かが辺り、急な衝撃に対応しきれず私はそのまま地面にダイブする。
すると、明らかに人肌の温もりが私の下に広がっていたので、びっくりして身体を起こすと、
私が倒れこんだ先にはちょうど、ジローが寝そべっていた。
エッ こんなところで寝る事ある!?!?
確かに寝れるくらいの暖かさはあるけど…外の庭が心地よくて寝ちゃってたのかな…そんな事ある???
「丸井君、なんかいつもより抱き心地いいね~…」
「ジローちゃん!?待って、そのまま寝ないで!?」
一人でツッコミをしていると、寝ぼけたジローちゃんが何故か私を丸井君だと思い込んで抱き着いてきた。
ちょっと、こんなかわいい見た目しといて力は結構強い…!全く引きはがせないどころか、どんどん包み込まれていってる!
「ジローちゃん!ねえ、ジローちゃん!」
「ん?ふふ…、俺の名前呼んでくれてるの?」
「あっ…って、起きてるの!?離れて!お願い!」
「嬉Cなぁ~…Zzz」
寝るな~~~~~!!!
このままでは心臓が爆発してしまう!!
「…ったく、堂々とイチャつきおって、なにしてるんじゃ」
その時、頭上から降ってきたいかにも不機嫌そうな声が、聞きなれたそれがとても嬉しく感じた。
「た、助かった~…!」
「お前はいっつも誰かとくっついとるな…目が離せん」
そう言うと仁王はジローちゃんを引っぺがし、近くにあったベンチへ寝かせる。
くっついてたんじゃなくて、間違えられてたんだよ!と弁解をするも、ハイハイといった感じで身体を引っ張り起される。
私は身体についた葉っぱ等を叩いて落とし、「そういえば赤也は?」と訊くと、仁王は「さあな、おまんとはぐれてから別々に探しとった」と答えた。
「ん~、そっか…なんかごめんね」
「別に。ちと肌寒くなってきたし、そろそろ中に帰るとするか」
「そうだね」
そう返事をすると、仁王は「ん、」と手を差し出してくる。
…ん?
「これは、」
「暗いからはぐれないように、じゃろ?」
「そ、それは…でも、もう目慣れたし…」
「赤也とは良くて、俺とは嫌か?」
な、なんて天性のたらしなんだこの人は…
こんなセリフを言われて落ちない女がいるのか…?
頭の中でとんでもない量のグッドボタンを押しながら、私は黙ってすぐさま彼の手に自分の手を重ねた。
☆
「そういえば仁王、寝れないって言ってたけど、何か悩み事でもあるの?」
「名前」
「ま…雅治」
「合格」
「ちょっ…」
よ、呼び慣れない…。
狼狽えている私とは裏腹に、質問の内容について意外にも真剣に考えている表情の仁王が視界に入って、私は呟きかけた反論を止める。
「たまに、考えてしまう夜がある」
彼の眼は真っ直ぐ空に浮かんだ丸い月を見ていた。
「最初はあいつらが掲げた夢だったけど、気づかないうちに自分の目指すもんにもなってたみたいでの」
瞳に映る月は、先ほどのそれよりもより一層美しく見えて。
思わず、その言葉の本当の意味を見失いそうになる。
「…ま、お前さんは深く考えるんじゃなか。幸村になにか吹き込まれたようだけど、」
と言って仁王は私の髪を撫でたかと思うと、突然、右頬に軽くキスした。
…!?
「どこから来たとか関係なく、俺は純粋にお前に興味がある」
そう言うと仁王は「それ、借り物。返しとくぜよ」と言って、私の頭部を指さす。
撫でられた髪を触ると、いつの間にかヘアピンが戻ってきていた。
「…さ、流石、イリュージョニストだね」
「アーティストじゃろ。って、ここまでしてそれだけか?」
「動揺してるんだよ、察して…」
「ほう?」
三日月のような眼をしてケタケタ笑う彼は、銀色の髪を月明かりに反射させ、とても綺麗で、でも、どこか儚く見えた。
合宿所の入口まで来ると、そこには柳が待ち構えていた。
その姿を見るに、既に赤也は捕獲済みだろうな…と察する。
「仁王と…。柳坂も、明日の自由時間はみっちり練習だな(開眼」
「私も!?」
「立海テニス部の一員になるということはそういう事だ。覚悟しておけ。」
ハ、ハハ…と後ずさりしつつも、柳の言葉に少し嬉しくなってこっそり微笑んでしまう自分がいたのであった。
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