合同合宿編
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あれから午前中に試合はもう1セット行われ、追われるように業務をこなしているうちに、気づけば昼食の時間となっていた。
そしてふと一息ついた瞬間、思い出される記憶。
私は午前中に跡部に言われた言葉がどうしても心に残り、どうしても誰かと話す気分になれず
お昼は空いた席で一人軽く済ませた後、足早に食堂を立ち去った。
『悪いが、俺達は遊びでテニスやってるんじゃねえんだ。色恋目的ならとっとと失せな』
…勿論そうだ、分かっている。
分かっていはいたが、正直、憧れの存在がすぐ近くにいる状態に、私は心底浮かれていたと思う。
それが彼の鋭い眼光に見抜かれた気がしているから、今、こんなに動揺しているのだろう。
それに、彼は私の正体を知らない。
勝手にこの世界に足を踏み入れて、彼らの青春に介入しているのは私の方なのだ。
「(もし、このまま私の知っている世界が変わってしまうような事があるとしたら、)」
…。
そう考えて、やっぱり考えるのをやめた。
今それを考えて、だからどうなる?
元の世界に戻してくれと誰かに頼んでも、戻り方も分からない。
しかも、一度マネージャーをやると引き受けたのに、やっぱり未来が怖いから、辞めますなんて、
幸村くんも、仁王も、絶対に許さない。
「(いつまでも落ち込んではいられないな)」
私は気分転換に売店でお菓子を買ってから、
午後の試合の準備へと足を運んだ。
☆
午後の練習が始まって間もなく。
目の前では、ブン太VSジロー、仁王VS忍足の試合が始まっていた。
どちらも似た属性の選手同士、
なかなかポイントを譲らない試合を続けている。
審判台に座る長太郎と赤也も楽しそうにボールを目で追っていた。
暫く試合が続いたある時、
私の隣でその両者に目を光らせデータをとっていた柳が「ふむ」と呟く。
「仁王の反応速度が合宿前より早くなっているな」
「え…?この短期間で…?」
「ああ。丸井も、前よりラリーが続くようになっている」
そう言うと柳は
「これはいいデータが取れた。」と満足そうに微笑む。
私はその言葉を聞いて、試合中の二人を交互に見る。
懸命にボールに食らいつく姿はいつもと変わらない輝かしさを放っていて、正直柳の言う成長は私には良く分からなかったけど。
一緒に戦う仲間にそう言わせる、気づかせるほどの成長って、そんな簡単に手に入れられるものなのだろうか。
「ゲーム丸井、6-1!」
「ゲーム忍足、6-4!」
二人の試合が終わったのはほぼ同時だった。
ブン太は嬉しそうに「やっりぃ~!今日のお菓子奢りな!」なんてジローと話している。
仁王は一瞬悔しそうな顔を見せたが、右手で自身の首を撫でたかと思うと、「まだまだじゃの、」と一言残し、遠くへ消えて行ってしまった。
「終わったみたいだな。柳坂、千鴇、二人に飲み物を…っと、仁王はもういないのか…。」
一足先に千鴇くんがブン太に飲み物とタオルを持って行っており、私は手にしたボトルとタオルを持て余した。
込み上げる思いから、自然とそれらを持つ手に力が入る。
「仕方ない、次の試合もあるし、アイツのはここに置いて…」
柳がそう言いかけた時には、構わず口が動き出していた。
「…あのさ!柳くん、ちょっとお願いがあるんだけど…」
☆
今日の練習が全て終わり、静まり返ったコート内。
私はお風呂までの時間、柳の指導の下、彼から借りたラケットでテニスの練習をしていた。
「違う、もっと膝を曲げて深く構えろ」
「こう、かな…?」
「そうだ、フォアの構えはそれで良い。素振りしてみろ」
柳に言われたとおりに、ラケットを振ってみるが、なかなか自分のイメージしたとおりにいかない。
何度も何度も指摘されては直しを繰り返していると、柳がそうだな、と呟き、続ける。
「よし、振りに合わせて球を投げるから、ネットの向こう側を意識して打ってみろ」
「は、はい…!」
ようやく出てきた黄色くて小さなかわいいボールが、
柳の正確な送球でラケットに当たる。
が、その打球は綺麗に弧を描いたかと思うと、
遠くの茂みに消えて行ってしまった。
「…あ」
「フ、最初はこんなものだ。ラケットの角度をあと15度前に倒してみると良い。さあ、まだまだ行くぞ」
そう言って柳は私のラケットを持つ腕を後ろから掴み、こうだ、と手の角度を変えてくる。
そんな些細な接触ですら身体に熱が籠っていくのを感じるが、そういった時にこそ跡部の言葉を思い出して、心の中で「集中!」と喝を入れた。
「は、はい!お願いします!!」
柳の指導による練習を熱中してやっていたら、もうお風呂が閉まる時間ギリギリになってしまった。
私は柳にお詫びをし、それぞれお風呂の準備をと解散する。
帰り道、いそいそと歩みを進めていると、突然目の前に人が立ちはだかった。
「わっ!…って、あか、切原くん…!」
「もう赤也で良いっスよ」
赤也はそう言って少し呆れた顔をすると、「急いでるんでしょ?歩きながら話しましょ」と言って私に道を譲る。
私はお言葉に甘えて、部屋まで少し小走りで向かいながら、なお平行して付いてくる彼と話し続けた。
「それで赤也、どうしたの…?」
「柳先輩を見ねぇから何してんだろと思って外に出てみれば、テニスコートから下手っぴな音が聞こえてくるから、何かと思いましたよ」
「え!?!?」
あ、あの下手くそな練習、見られてたのか…!!!
私は恥ずかしさで一気に彼から逃げたくなった。
が、いくら足を速めても自分より身長も体格も大きい相手はしっかりと付いてくる。
「ちょ、な、なんで逃げるわけ?!」
「ご、ごめん…迷惑だったよね…」
「は!?謝んないで下さいよ!!ってか、そうじゃなくて…、」
そう言いかけて、「急いでるところちょっとすんません、一回止まって下さい」と赤也が私の両肩に手を置いて、真剣な顔をして見つめてくる。
私は頭の中が?だらけになりながらも、その表情を見て思わず歩みを止めた。
「ハァ…、むしろ、俺がアンタに謝らなくちゃと思って話しかけてるんですよ」
「え…?」
「俺、最初はアンタが俺らの中の誰か狙いなんじゃねって思ってた。けど、見てる感じ全くそんな事ないっつーか、むしろちょっかい出されまくってるっていうか…、」
しどろもどろに話すけど、今までの攻撃的な態度とは打って変わり、申し訳なさそうに頭を掻きながら話す姿はまるで、リードを繋がれた小型犬のように見えてくる。
「試合中のは正直カッときたけど、まぁ、確かにアンタの言うとおりだし…あれは、悪かった。
それに、さっきたまたま練習してるのを見た時、結構、頑張んじゃん、って思ったっていうか…」
「赤也…」
「…ま!!要は、テニスの指導ならこの切原赤也も相当の腕前なんで、何でも聞いちゃって下さいよ!って話ッス!」
赤也はそう言ってポンッと私の両肩を軽く叩くと、「引き止めちゃってすんません、お風呂急いでくださいねー、柳坂先輩!!」と言って、今来た方向へと走り去ってしまった。
何故だかは分からないけど、なんだかとっても嬉しい気分…。
赤也と、少しは仲良くなれたのかな…?
「って、いけない!もうこんな時間!!」
手元の時計を見ると、お風呂が閉まるまであと数十分しかない。
私は慌てて自室へと向かった。
☆
急いで風呂に向かうと、ちょうど湯舟に浸かっている華岾さんと会った。
私はザッと身体を洗い流し、(少し華岾さんの視線が痛かったけど)華岾さんの入る湯舟へと滑り込む。
「随分と遅かったわね」
「あちっ!…ま、まぁ、ちょっと…」
入るや否や、華岾さんが目を瞑ったまま話しかけてくる。
二人で話すのがなんだか久々な気がして、少し緊張してしまう。
「今日は何だか、色々とありましたね…」
「ええ、そうね。色々と…。
特に跡部は、調子が悪かったように見えたわ」
「え…」
華岾さんの口からメンバーの名前が出る事があまりなかったので、私はつい彼女の方を向く。
彼女は依然とその場を一ミリも動かず、タオルで束ねた頭から綺麗な曲線を描いた顔を少し水面に俯かせて、ポツリと呟く。
「でも、そちらの選手が強かったのは事実よ。
彼の体調不良は理由じゃない、只の言い訳でしかない。」
そう言って彼女は湯舟から静かに、けれども凛とした佇まいで立ち上がり、脱衣所への入り口に向かっていく。
身体を拭き上げ、お先に上がるわね、と一言残した後、再び振り返ると、
「いずれにしても、勝つのは氷帝よ」
と言って、今まで見たことのない嫋やかな笑みでこちらを見た。
同じ女子同士、仲良くはするけど、ライバル校として馴れ合いはしない。そんな意志が込められている気がして。
純粋にカッコいいと思えた。
「ところで、華岾さんって…もしかして、跡部と付き合ってるんですか…?」
お風呂あがり、部屋までの道で気になっていた事を聞いてみる。
さっきの発言、なんだかすっごく跡部の事分かってます、感があって、気になってたんだよね…。
「あら、言ってなかったかしら」
「エッ!!!ってことは、まさか…」
「私、アメリカにフィアンセがいるの」
「フィ…!?」
この人、エドアルドっていうのよ、と言いながらケータイの写真を見せてくれる。うわ…めっっっちゃハンサム…!!!( ゚Д゚)
これまで合宿中、何かと人より行動が早いのも、コッソリ彼と連絡を取っていたからだったらしい。
なんだかかわいいところもあるんだなぁ…。
私は少しでも疑ってしまった事を恥じながら、ぐぅ、と鳴ったお腹の求める場所へと歩みを進めたのだった。
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