合同合宿編
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ま~け~て~は~なら~ぬ~…♬
合宿二日目。
私はいつもより早めにかけた携帯のアラーム音に何とか縋り付き、布団から起き上がる。
昨晩帰った時にはもう布団の中にいた華岾さんは、朝起きると既に居なかった。
昨日のお風呂の時といい、あんまりコミュニケーションを積極的に取るタイプじゃないのかな…?と思ったけど、変に気を遣われるよりもずっと楽かもしれない。
私は気にせず身支度をし、朝食をとるべく食堂へ向かった。
朝ごはんは和食メインのようで、焼き魚や味噌汁の匂いが食欲をそそる。
私が着いた時には既に食事を終えた人もいて、席が疎らに空いている。
「なんだかみんな張り切ってるなあ」
「今日は一日氷帝とシングルスの練習試合だからな。気合が入っているのだろう」
「わ、柳くんおはよう」
「おはよう、柳坂」
イメージに無く遅めの朝食を取りに来た柳に声をかけられた。
しかも「折角だし、隣で食べても良いか?」と言われ、朝から少し緊張しながらも「ど、どうぞ」と近くの席に促す。
「さながら、俺ならもっと早く朝食を終えている筈だと考えていたところだろうが、昨晩少しデータの整理をしていたら夜更かしをしてしまってな」
「そんな事まで分かるの…」
流石柳…と思いながら、いただきますをして朝食に箸を運ぶ。
チラッと柳の方を見ると、いつもと変わらぬ落ち着いた様子で焼き魚に箸を伸ばしている。その骨と身の剥がし方がとても綺麗で、私は思わず見とれてしまう。
「なんだ、骨を取ってほしいのか?」
「え!?いや、自分で出来るよ!その、すごく綺麗に食べるなぁと思って…」
「ああ、そうか?自分では普通に食べているつもりだったが。だが、そうお前に褒められると嬉しいな。」
「ハ…」
そう言ってフッと笑う姿も全てが美しくて、私は完全に箸を止めてしまった。
「お、おい、箸を落としたぞ。大丈夫か」
「ワ…!ご、ごめんなさい!新しいの取ってくる…!」
替えの箸を取りに行く間になんとか心を落ち着けようとするが、それも叶わず。
その後の食事はあまり柳の方を見れなかった…。
☆
そんな食事も終わり、今日も練習の時間がやってくる。
部員たちよりも早めに設営の準備に向かうと、そこには既に用意されたホワイトボードに今日の対戦表が張り出されていた。
私は手に持った保冷バッグを一度地面に置き、ついついその表をじっくりと見てしまう。
「ええっと、たしか2コート同時に試合するんだったよね。この後9時からの第一試合は~…、
…!?」
そこにある四人の文字に、私は思わず声が出なくなってしまう。
こんな試合が、早速見られるなんて…!!
私は荷物をもう一度担ぎなおし、より一層気合を入れて準備へと取り掛かった。
「第一コートに跡部と真田、第二コートに日吉と切原、中に入れ!」
43の掛け声のもと、4人がそれぞれのコートに入っていく。
隣同士のコートだが、そこには既に別々の世界が出来ていた。
私たちは学校毎に、どちらのコートも見える位置に並んで試合を見る。
フェンス越しの真田、赤也の背中は、いつもより輝いて見えた。
「容赦はせん、かかってこい」
「アーン?元々そのつもりだぜ」
「…フン、良いだろう。」
「楽しもうじゃねーか、真田」
「ピヨコだかなんだか知らねえけど、潰すよ?」
「お前など下剋上するにも値しないな」
「あ?何意味わかんねえ事言ってんの?」
「…。」
跡部VS真田には忍足、日吉VS赤也には仁王がそれぞれ審判についた。
試合が、始まる。
「…ッ!早い!」
ブン太の驚く声が聞こえる。
サービスはどちらも立海側、真田が早々に試合をスタートさせる。
続いて赤也もサーブを打ち、どちらもラリーが続く。
「目がいくらあっても足りないな…」
隣にいたジャッカルがそう呟く。
私はどこを見たらいいのか分からず、ただひたすら行きかうボールを目で追うのに必死だった。
「ゲーム切原、1-0!」
仁王の声が聞こえてきたのはそこから間もなくしてだった。
コートから赤也のヒュウ!という声が聞こえる。
「切原君、今日は調子が良いみたいですね」
柳生が眼鏡をくいっとしながら微笑んでそう呟く。
その後も赤也は順調にポイントを取っていき、気づけば3ポイントを先取していた。
「(あ…)」
チェンジコートの時にふと、日吉と目が合う。
彼はバツの悪そうな顔をした後、直ぐにフイっと顔を伏せてしまった。
なんか、日吉が負ける姿、見たくないな…。
「早きこと、風の如く!」
「クッ!」
「ゲーム真田、2-1!…今のは取らなあかんで、跡部」
「うるせえ忍足、審判だけしてやがれ」
「はいはい…」
一番コートも少し見ないうちに試合が進み、真田が一歩リードしていた。
真田は変わらず凛とした顔で相手を見据えており、私はその姿を見てホッとする。
「真田勝ってるな」
「あ、千鴇くん。43…榊先生の手伝いはもういいの?」
「それで伝わるから大丈夫。もう終わったよ、店番サンキューな」
「いや、ただ試合見てただけだけどね…」
さっきまで43の手伝いで居なかった千鴇くんが戻ってきた。
試合の様子を見て満足そうに「うんうん、良い調子だな」と言ってスポーツ飲料をごくごく飲んでいる。
「おや…赤也の様子が、」
その柳の一言に、その場にいた全員が第二コートを見る。
そこには、まだ数ゲームしかしていないのに尋常じゃない量の汗をかいた赤也が立っていた。
「おい赤也、ちと水分補給しんしゃい」
「あ~、審判がそれ言うってアリ?でも、ちょっとそうしたいかも…」
試合は3-0の40-15で赤也の優勢だったが、足取りも朧気な後輩の姿に思わず仁王が声をかける。
タイムを取り、それぞれがベンチヘ向かう。
「赤也、大丈夫…?」
「え?名前…、」
「え?あ!ごめんなさい!切原くん!」
「ん、別に…あ~、生き返った…」
心配するあまり名前で呼んでしまった…!
が、それどころではない赤也は気にせず椅子にもたれかかりながら水分補給をしている。
「あっちの試合は長くなりそうだな…」
ふと赤也が第一コートの方を見て呟く。
真田と跡部は変わらず軽快な姿で楽しげにラリーを続けていた。
少しして、忍足のコールで「2-2」の同点が知らされる。
「あっちはあっち、こっちはこっちだよ!今は集中しなきゃ」
「…分かってるよ、アンタに言われたく無いんだけど」
「は、はあ!?」
励ますつもりで言った言葉が彼を苛立たせてしまったのか元々機嫌が悪かったのか、あっさり突っぱねられて私は思わず少しムカッとしてしまう。
コートに向かう赤也の背中を見送ったが、心にはなんだかモヤモヤした気持ちが残った。
「ゲーム日吉、5-3」
「う、嘘だろ…」
仁王がやれやれ、といった顔でそう告げると、明らかに元気のない赤也がコート上でうなだれている。
日吉は最初こそ苦しい顔をしていたが、今は余裕綽々といった表情でベンチに腰掛けていた。
「…ッくそ、どんな試合でも、負けるわけにはいかねぇんだよ…!」
そう言うと赤也は自分の足を拳で叩き、言葉にならない雄叫びを上げると、ギロリと目線を上げて日吉を睨んだ。
「今更足掻いたって遅いんだよ。もう勝負は決まったんだからな。」
このゲームは日吉のサーブ。絶対的にサーブ側が有利だ。
宣言どおり、日吉が15-0、30-0、と順調に点を取っていく。
「…ッ!!」
「あ、赤也…」
苦しそうな赤也の姿を見て、先ほどのモヤモヤした気持ちも忘れ、思わず彼を応援してしまう。
「なに!?」
次の瞬間、とてつもないスピードのフォアハンドで、サイドラインギリギリを滑り込むようにボールが駆け抜けていった。
「仁王、入ってるぞ、」
「あ、ああ…ありがとさん、宍戸。15-30」
あまりにも早い球で、審判台の仁王も判断に苦しんでいたようだが、一番打球の近くにいた宍戸がそれを見ていた。
一体、何が起きたの…?と思っていると、周りのみんなも同じ気持ちだったようで、目を点にしていた。
「ククク…ハハハハ!!!お前、本気で潰すよ!!!」
「さっきから潰す潰すって、何を…!?」
ヒュン!!!
明らかに日吉の足を狙った打球が彼の右ひざスレスレを掠める。
「30-30…」
「む、まずい、冷静な日吉相手なら大丈夫かと思っていたが…追い詰められた事でスイッチが入ったか…」
このゲームの結果によっては止めなければならない、と添えた後、仁王が告げたのは「ゲーム切原、4-5」の言葉。
そこには何とか打球を避けた事でコートに倒れこむ日吉の姿があった。
「ひ、日吉…!」
「仁王、このゲーム、これ以上は続行不可だ。」
「おい!勝手に止めてんじゃねえ!柳せんp…!!」
トンッ
柳が赤也に近寄り彼の身体を小突くと、赤也は一瞬で身体の力が抜け、その場に倒れこんでしまう。
柳はそんな彼を担ぐと、日吉に一言「すまない。大事な大会前に怪我をさせては互いの為にならないからな」と告げ、コートから立ち去った。
☆
第二コートは氷帝の男マネ2名が片付けに入り、次の試合の準備が行われている。
コート外では試合に出る柳生と岳人がアップを始めていた。
「美紀」
「あ、千鴇くん…赤也、大丈夫かな?」
柳と一緒に仮設の医務室へ行っていた千鴇くんが戻ってきた。
彼は一言、「大丈夫」と告げると、続けてこう尋ねてきた。
「それよりさ、美紀、日吉と…何かあったの?」
「…え?なんで…」
「いや…なんだか、気の迷いを感じたから」
「ど、どういう事…?」
「まだ分からない、か」
千鴇くんはそう言い残すと、次の試合に出る柳生と審判のジャッカルにそれぞれ飲み物を私に向かっていった。
「まだまだこっちは長そうじゃのう」
「あ、仁王…さっきはお疲れ様」
審判から戻ってきた仁王が、代わりに隣に立つ。
一番コートを見ると、少々お疲れ気味の忍足が「5-5」のコールを告げていた。
「私がもうちょっとルール分かれば審判も代わってあげられたんだけど…」
「しかしあんな早い球の打ち合い、見極められるのはこん中じゃアイツぐらいじゃろ」
「た、確かに…」
コートの外からではなんとか球を追う事が出来るが、あれがインかアウトかを正確に判断出来る自信はほぼ無かった。
仁王もさっきの試合の事があったからか、「面倒じゃし、審判はもうやりとうないぜよ」なんて言ってる。
「ゲーム跡部、6-5」
「くっ…」
「おい真田!そんなもんか?アーン!?」
少し目を離している隙に、ゲームは跡部のマッチポイントとなっていた。
次のゲームを落としてしまうと、真田が負ける…?
「さ、真田!頑張って!」
「む、…ああ。まだまだここからだ」
ベンチで汗を拭う真田に声をかけると、まだ余裕のある様子でそう一言告げ、早々にコートへ戻っていく。
私はその背中を何処かとてつもなく頼もしく感じ、大丈夫、彼なら絶対勝てる。と確信を持って応援した。
「…お前さん、今アイツの事呼び捨てにしとったぜよ」
「え!?あれ!?…だめだ私、さっきからつい気が…」
「まぁ、本人たちも気にしてなさそうだし…。で、俺の事は?」
「え?」
「俺の事はいつ名前で呼んでくるんかの、美紀?」
そう言うと仁王は突然、コートを見つめる私の目の前のフェンスに手を置き、もう片方の手で肩をぐいっと掴み自分の方へ向かせると、少し首をかしげて笑みを浮かべる。
「え…あ…苗字呼びがデフォルトですから!!」
「そうなんか、残念じゃのう…」
そう答えると彼は呆気なく顎から手を放し、「弦一郎クーンがーんばりんしゃーい」とやる気のなさそうな声を上げた。
っていうか、今、私の事名前で呼んでたよね…!?
「ゲーム真田、6-6」
「おいおい、タイブレークかよ…!」
ついぼーっとしてしまっていると、次に忍足が発した言葉は、真田のゲーム奪取を告げるものだった。
私はハッとしてテニスコート内の二人に意識を戻す。
ブン太が少々興奮しながら、何個めかのフーセンガムを口に放り込んでいた。
隣では既に柳生と岳人の試合が始まっていたが、オーディエンスの視線は完全に第一コートに集まっていた。
次に試合がある柳と宍戸は、名残惜しそうにしながらもそれぞれアップに向かっていった。
タイブレークもしばらく続いた頃、
真田のマッチポイント。
掛け声とともに、風林火山の風が繰り出される。
跡部は何とか球に追いつくが、打球の行きつく先には真田が既に構えていた。
「ぬるいわ!!」
「チッ…」
「侵略すること、火の如く!」
「ゲームセット、ウォンバイ真田
…はぁ、一歩及ばなかったわなぁ」
忍足がけったいそうに試合結果を告げる。
最初は静まり返っていたが、立海陣営からは徐々に「っしゃ!」という喜びの声があふれ出した。
「か、勝った…真田が勝った…!」
「…ま、少々時間はかかったがの」
仁王はそう言うと、隣で試合をしている柳生の元へと歩んで行った。
私は真田にタオルや飲み物を渡しに行こうとコート内へ向かう。
ちょうどその時、コートから出て行こうとする跡部とすれ違った。
「あ、跡部くん、お疲れ様…」
恐る恐る声をかけると、明らかに機嫌の悪そうな跡部は眉間に皺を寄せながら、こちらを睨んで口を開いた。
「…あ?てめぇは…あの時いた立海のマネージャーか。どうやら日吉が世話になってるみてぇだな?」
「え?世話に、というか…」
「悪いが、俺達は遊びでテニスやってるんじゃねえんだ。色恋目的ならとっとと失せな」
「…!」
そう言うと彼はそのまま庭園のある方へと消えて行ってしまった。
「跡部さんは…いつもと違い…ます」
「あ、樺地くん…」
跡部が来た方向の後ろから、ドリンクを渡しに来たであろう樺地が話しかけてくる。
樺地は申し訳なさそうにもじもじしていたかと思うと、意を決したようにこちらを見つめ、更に続ける。
「今朝から体調があまり、良くなかったのと、試合に負けた、悔しさから、だと…思います…。跡部さんは、普段はあんな事を女性に言うような人じゃ、ありません…。どうか、気分を悪くしないで…下さい」
その口調はゆっくりだが、しっかりと自信のある、信頼している先輩の名誉と尊厳の為を思って心の底から絞り出した言葉だった。
「…うん、分かってるよ、有難う。…優しいんだね、」
そう言って微笑むと、樺地は嬉しそうに笑い、「ありがとう、ございます…」と言って跡部の後を追った。
私はその後ろ姿を見送ると、
胸に大きなわだかまりを抱えながら
コートから出てこようとする真田に手持ちのものを届ける為、歩みだした。
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