御幸 一也
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早く、大人になりたい。
5つ離れた一也くんは、物心ついた時からずっと私の好きな人。
野球をしている姿が好き。
制服姿だって好き。
私に優しくしてくれるところが好き。
お父さんを大事にしてるところが好き。
年上のくせに、無邪気ないたずらっ子みたいに笑う顔が好き。
なにより、野球が大好きな彼が、好き。
好きなところなんて、あげだしたらキリがない。
でも、いちばん好きなのは
「みゆ、おかえり」
私の名前を、優しい声で呼んでくれること。
「え!?一也くん!!?なんでいるの!?ただいま!」
東京のチームからドラフト1位指名を受けて4年。
高校生活から引き続き、隣の家に住んでいないはずの彼が
何故だか今、私の目の前にいる。
予期せぬ再会に、私の心はウハウハだ。
「しばらくこっちいるの?
なんで帰って来たの?
毎年、全試合録画してるよ!
今年のグッズも買ったよ!」
「・・・・・・・・・」
一也くんに会えた嬉しさから、私は一方的に話してしまい
一也くんはというと、目が点になっていた。
「・・・おかえり」
1人舞い上がっていることが恥ずかしくなり、今更冷静なフリをする。
「くっくっく。今更、冷静な感じ出しても遅ぇよ」
そう言って、大笑いする一也くんを見て、
やっぱり私は、彼のことが大好きだな、なんて思った。
「オフだったからな。
最近あんま帰って来れてなかったし、帰ってきた。」
私が高校に入学してから、彼は一度も地元に帰ってきていなかった。
「似合ってんじゃん。うちの制服」
「うちの、じゃなくて俺の母校の、でしょ」
私は、彼の後を追いかけ青道高校へ入学した。
一緒に学校へ通えるわけではないが、
彼が過ごした高校生活を、私も送りたかった。
「ははっ。相変わらず元気そうで安心したよ」
そう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
子ども扱い、するな。
「髪の毛ぐちゃぐちゃになるじゃんー!」
なんて言いながら、彼に触れてもらえるのが嬉しい。
「おばさん、元気?
さっき挨拶行ったけどいなくてよー」
「あ、たぶん買い物かも。」
「あ、そ。明日もこっちいるし、また挨拶行くわ。」
じゃあな、と言って家に帰ろうとする。
え、待って。まだ話したいよ!
どれだけ会えなかったと思ってるの!
せっかく会えたのに!!!
私は思わず彼の服の裾を思いっきり摘んだ。
「うぉっ!!なにすんだよ!」
急に引っ張られ少しだけバランスを崩した彼をよそに、
「もう、帰るの・・・?」
と、地面を見ながら小さな声で呟いた。
「・・・はぁ。」
一也くんのため息に、胸が苦しくなって、急いで掴んでいた服を離した。
「ごめん、嘘!なんでもない!」
パッと顔を上げて笑うと同時に、おでこにデコピンを喰らう。
痛い!と、おでこを両手で押さえると
「なに遠慮してんだよ。
少し会わないだけで、大人ぶるようになっちゃって!
もっとお兄ちゃんにわがまま言えよ」
なんて、私の大好きな顔で笑っていた。
もう無理だ。
私、一也くんのことお兄ちゃんなんて思ったこと一度もない。
昔からずっと大好きなの。
久しぶりに会えたけど、やっぱり好き。大好き。
「・・・じゃないもん」
「え?」
「お兄ちゃんなんて思ったことないもん!!!
一也くんの妹になった覚えもないもん!!」
私は、子どもみたいな言い方で、
鍛えられている一也くんの胸をバシバシと強く叩く。
「ちょ、みゆ?・・・なにして」
一也くんは、私の手を掴む。
「一旦落ち着いて。どーした」
そんなに俺の妹って嫌?なんて冗談で笑って、
その場にしゃがみ込む私に合わせるように、一也くんも腰を落とした。
膝に顔を埋めるが、手は一也くんに掴まれたまま。
振り払おうとするが、ギュッと強く握られる。
「手、そうやって握られると・・・勘違いする。」
私は顔を膝に埋めたまま、呟いた。
「会えると思ってなかったから、いきなり会えたら超嬉しいし、
だけど、ため息とかつかれるとショックだし。
でもやっぱり、大好きな笑顔見れるとめっちゃ嬉しい」
そこまで言って、私は顔をあげる。
目の前には、大好きな一也くんがいて、驚いた顔をしていた。
「びっくり・・・してる」
一也くんのこんな間抜けな表情を見ることって意外とレアで、
私は、もっと彼のことを驚かせてやろう、なんて思った。
「小学生の時から、ずっとずっと大好きなんだけど!
一也くんが出る試合はなにがあっても見に行ったし、
一也くんの家に呼ばれてご飯食べるのだって、すっごい嬉しかったし、
実家戻ってくる時、必ず私に会いにきてくれるのだって
本当はいつも、泣いちゃうくらい・・・嬉しいんだよ」
そこまで言って、
自分の瞳が潤い始めたのに気づいて、再び急いで膝に顔を埋める。
「私、まだ高校生だし・・・、一也くんに迷惑かけたくないから、
18になるまでは絶対に言わないって決めてたのに・・・」
まだ高校2年生の私と5つ上の一也くんとでは、仮に付き合えたとしても
公に出来ないことがわからない程バカじゃない。
一也くんの迷惑になることくらいわかってる。
たかが5歳。されど、5歳。
"同級生だったらよかったのに“
なんて、今までで何百回も思った。
早く大人になりたい。
そう思い続けて、ようやく来年高校卒業できるところまできた。
そしたら、気持ちを伝えようと思ったのに。
「ごめん、私、一也くんのこと・・・好きでごめん」
今この瞬間も、誰に見られているかわからない。
そう思った私は急いで立ちあがろうとしたが、一也くんは動く気配がない。
「一也くん?」
彼に合わせて再びしゃがみ込むと同時に、体を引き寄せられた。
「ちょっ、一也、くん!誰かに見られたらどうするの!」
抱き寄せられた時に離された手で彼の胸を押す。
「私、制服着てるから。
こんなの撮られたら、さすがにやばいよ」
私がそう告げると、一也くんは悲しそうな顔で笑った。
「・・・なんで、タメじゃねぇんだろうな」
まさか一也くんからそんな台詞が飛んでくるなんて思ってなくて
私が何百回も思っていたことを、一也くんも思っていたなんて。
すると一也くんは急に立ち上がり、私の手を引き自分の家へと入った。
「一也くん!手、痛い」
そう言えば、彼は手を離し、今度は優しく抱きしめた。
私は何が起こっているか理解できずにいると
「ごめんとか・・・言わせたくなかった。」
私の肩に額を乗せ、弱々しく呟いた。
「俺だって、みゆのこと妹なんて思ったことねぇよ。
5つも下の相手にこんな感情おかしいだろ。
だけど、俺に懐いてくれてんのが、すげぇ嬉しくて
俺のこと、好きになって欲しくてずっと必死だった。」
こんな弱々しい一也くん、初めてだ。
「しかも、挙げ句の果てにはみゆに告らせるとか」
まじで、情けな。そう言って、一也くんはしばらく沈黙した。
え。一也くんって、私のこと好きだったの?
なんで?いつから?本当に?
私は、空いた手で自分の頬をつねる。
「・・・痛い」
と呟くと、一也くんは顔を上げて、なにしてんの?と笑った。
「だって・・・一也くんが私のこと好きとか、夢・・・かと思って」
「夢じゃねぇよ」
そう言って笑った一也くんは、すでにいつも通りに戻っていた。
「私、来年卒業したら一也くんのところ行ってもいい?」
「待ってる。けど、他に好きなやつ出来たら我慢せずそっち
「ありえない」
「・・・よく考えたら俺もありえねぇわ」
「「・・・・・・・・・」」
2人で見つめ合い、そのあとはどちらからともなく笑い合った。
その場で2人して腰を下ろし、肩を寄せ合いながら他愛もない話をした。
今この瞬間は、私たちに年齢の壁なんてない。
そんな時間がとてつもなく幸せだった。
『おじさん!
私、来年卒業したら一也くんと付き合ってもいいかな!?』
『ぶっ!!!!!
ちょ、みゆ!?何言ってんの!?
わざわざ親父に確認することじゃねぇだろ!』
『あぁ、こんなんでいいなら、よろしく頼むよ』
『もちろんです!こんなのがいいんです!』
『・・・もう勝手にしてくれ』