御幸 一也
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「白石、明日の練習試合のことなんだけど」
ガララ、と食堂の扉が開きノートとにらめっこをしていた私に声をかけた。
「あ、御幸。
私もその件でちょっと話したいことあって」
ちょいちょいと手招きをして隣に座らせた。
キャプテンになったばかりの頃の御幸は、
周りに頼るのが下手くそで、全て1人でやろうとしていた。
今となっては些細なことでも相談してくれるようになったから、私はそれが素直に嬉しい。
「ヒャハッ。
相変わらずお前らの距離感ってバグってるな」
「倉持」
御幸と話をしていると、今度は倉持が食堂に入ってきた。
「そんなことないよ。ね、御幸」
と、倉持に向けていた視線を隣に座る御幸へ戻す。
「近っ!!!!!」
鼻と鼻が当たりそうな程近くにあった御幸の顔に驚き、思わず身を引く。
「ちょ!バカッ」
引いた勢いで椅子から落ちそうになった私を、御幸が支えてくれた。
「っぶねぇ。」
「ご、ごめん。ありが・・・・・とう」
「悪ィ、腕引っ張っちまった。痛くねぇか?」
「大丈夫、です」
なんで敬語?と笑う御幸に、ドキっとしてしまう。
じわじわと顔が赤くなるのを感じて、見られたくなくて俯く。
それに気づいた御幸は、
「なんだよ、やっぱ、腕痛かったか?」
と、私の顔を覗き込んできた。
「だ!大丈夫だから!!!!
ちょっと、暑くなっただけ!!!」
苦し紛れの言い訳をして誤魔化す。
「ほ、ほら!倉持もこっち来て一緒に話そ!」
急いで話題をそらそうとして、
扉からテレビの前に移動していた倉持に声をかけるが、
こちらを見ながらニヤニヤしていた。
「な、何ニヤニヤしてんの・・・・・」
「べっつにー!
俺は忘れ物取りに来ただけなんで、2人でごゆっくり〜」
そう言ってテレビの前から扉へ向かって再び歩き始めた。
そして今度は、倉持がちょいちょいと私を手招きする。
「何よ」
と、未だにニヤニヤしているヤンキー面にムカついて
キッと睨みつけるが、彼には微塵も効果はない。
すると倉持は自分の口元を手で隠しながら
『あいつ、鈍感だからなんも気づいてねぇぞ?
もっと積極的になんねぇと』
と小声で囁いた。
『!!!!!!!!?』
私はビックリして目を見開く。
『な、な、な、な、なんでっ!!?』
『いやいや。お前隠すの下手すぎだから。
本人以外、みんな気づいてっから』
ヒャッハーと笑って倉持は食堂から出ていった。
「白石?どうした?」
扉の前で立ちすくむ私に、御幸は優しく声をかける。
私はくるりと方向を変えて、御幸が座っている席に向かって歩き始め、
先程まで自分が座っていた席に腰を下ろした。
別に、倉持に言われたからなんかじゃないけど。
そろそろ話してもいいかなって思ってたところだったし。
ただ、ちょっと勇気がなかっただけだし。
なんか今なら、言えそうな気がするだけだし。
「御幸。あ、あの、さ。」
んー?と言いながら、私が記録したスコアブックを読んでいた。
「だ、大事な話が・・・あります」
私は、今までにないくらい緊張している。
ドクンドクンと大きく波立つ心臓の音が、御幸にも聞こえているんじゃないかと思うくらい大きく鳴る。
太ももの上で作ったこぶしを、強く握り直す。
その手にも、大量の汗。
「白石??
さっきもだけど、顔真っ赤だぜ?大丈夫かよ」
保冷剤保冷剤、と言いながら席を立とうとする御幸の服の袖を引っ張る。
「体調悪いとかじゃ、ない」
「・・・ならいいけど」
そう言って再び御幸は椅子に座った。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
私が話さないから、御幸との間に沈黙が続く。
伝えたい言葉は、もう喉まで出てきている。
あとは勇気を出して、声にするだけ。
するだけなのに、もし振られたらってそんなことが頭によぎって最後の勇気が出てこない。
「・・・・・俺さ」
「!?」
先に沈黙を破ったのは御幸だった。
「白石には、めっちゃ感謝してんだぜ」
「え?」
「いつも俺が、ヤベーこのままじゃパンクしそう!
ってなってる時に、白石は絶対気付いてくれるんだよな。
気付いて声かけてくれるから、パンクしねぇで済んでる。」
「そ、そうだっけ」
「そうだよ。白石にとっては、きっとそれが当たり前になってるから、
だからきっと気づかねえんだよ、俺が救われてることに。」
御幸が野球以外のことで、こんなに自分の気持ちを伝えるのは珍しい。
「私のおかげ?助けてるの?御幸のこと」
「おぅ。そりゃもう何度も」
優しい瞳で、優しく微笑む御幸に私は再びドキッとする。
そんなふうに、思ってくれてたんだ。
嬉しいと思うと同時に、御幸への"好き"が積もった。
「・・・・・ってなんか、言葉にするとめっちゃ恥ずかしいな。」
今度は恥ずかしそうにポリポリと頭をかき、再びスコアブックに目を移した。
私が言いづらそうにしてたから、言いやすい雰囲気を作ってくれたのかな。
そう思うと、御幸への"好き"が再び積もった。
「・・・御幸、好き。」
私はスコアブックを読む御幸に向かって、呟いた。
「は!!!!?!?」
御幸は心底驚いたらしく、ものすごい勢いで私の方へ顔を向けた。
「・・・ごめん、ね。
ずっとずっと、好き、だった。」
一度言葉にすると、次から次へと御幸への想いが溢れてきた。
「私に向けてくれる優しさも、
部員のみんなに向ける優しさも、
少し不器用なところも、かっこいいところも、
友達いないところも、野球が大好きなところも、
全部全部、・・・大好き。」
「・・・・」
何も言わない御幸は、少し困った顔をしていて、私はズキリと胸が痛んだ。
「だ!だけどね!!?」
何かを言いかけた御幸を遮る。
「その、私も部活頑張りたい気持ちは同じだし、
別に今すぐどうこうなりたいとかじゃないの!
ただ、ごめん。急だったけど、自分の気持ちを伝えたくて。
御幸には、迷惑・・・・だったかも、しれない、よね。」
"迷惑"と自分で言葉にすると、今の私には思いの外ダメージが大きくて、俯いた瞳に涙が溜まっていく。
小さな声で、ごめん、と再び呟くと顔をグイッと上に向かされ御幸と見つめ合う形になった。
「やっぱ、泣いてるし。」
「ご、ごめ・・・・」
「なんでさっきからそんな謝ってんの」
御幸は少し、怒った表情をしていた。
「だ、だって・・・・。
こんな気持ち、迷惑なの、わかってる。」
先程とは打って変わって、流れるように次から次へと涙が頬を伝っていく。
「・・・・じゃあ、白石と同じ俺の気持ちも、迷惑ってこと?」
「私と同じ、御幸の気持ち・・・?」
「・・・・」
拗ねた顔で、私をじっと見つめる。
「御幸が、私を好き・・・ってこと?」
「・・・・迷惑?」
今度は、寂しそうな顔で私を見つめる。
「・・・・迷惑なんかじゃ、ない。
めちゃくちゃ、嬉しい、・・・です」
先程まで流れていたのは、悲し涙のはずだったのに、
今はもう嬉し涙に変わっていた。
「泣きすぎ。」
そう言って笑いながら優しく指で涙を拭った御幸に、私は思いっきり抱きついた。
「嬉し涙だから!いーの!」
『そういえば、私が好きって言ったときなんで困った顔したの?』
『え?』
『あんな顔見たら、100%振られるとしか思えないんだけど』
『ハハハ、そうだよな。』
『ホントのところは、どうなんですか?』
『・・・先越されちまった、って思っただけ』
『もう!紛らわしいよ!!!』