御幸 一也
いい夢見てね
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キスをするのはいつも私からで、御幸くんはそれに応えるだけ。
好きと言うのもいつも私だけで、御幸くんは「俺も」って返すだけ。
本当は気づいてるんだよ。
半年経った今でも、御幸くんは私を好きじゃないってことくらい。
「御幸くんが、好きです。私と付き合ってください」
告白したのは半年ほど前。
同じクラスではないけれど、学校では有名な彼を
私はひたすらに思っていた。
「えっと、、、俺あんまり白石さんのこと知らないし、
付き合っても部活ばっかで遊んだりとかできないけど、、、「それでも!大丈夫!」
私は食い気味に即答した。
御幸くんはそんな私を見て、少しだけ困ったように笑って
「じゃあ、よろしくお願いします」と応えた。
あのとき、どうして御幸くんが困ったように笑ったのか、
私は時間をかけて知ることになった。
付き合って数日経ったある日、私がトイレから戻ると
珍しく、というか初めてであろう御幸くんが私の教室を訪ねていた。
私は嬉しくなって、小走りで駆け寄り、声をかけようとした。
けど、そこに私の親友(桜)と楽しそうに話す彼の姿を見つけて
声をかけることをためらってしまった。
(あれ、御幸くんって、桜と仲良かったっけ?)
と、疑問を抱いた。
だけど私と付き合ったことで、桜とも仲良くなったのだろうと思い、
少しの違和感は感じたけれど、その時は深く考えず二人に声をかけた。
それからというもの、御幸くんが私の教室を訪れてくる回数は増えていった。
もちろん私に話しかけに来てくれているんだけれど、
何故かいつも桜に声をかける。
教室に来て、彼女と少し談笑をしてから私を呼ぶ。
最初はその行動になんにも違和感を感じなかったけれど、
徐々に私も疑問をいだき始めた。
「御幸くんって、桜と仲いいよね」
いつかの放課中に、私は特に意味もなく問いかけた。
「え?そうか?白石さんの友達だし、普通に話すようになっただけだよ」
なんて笑って答えた御幸くんは、それ以上深入りしてくるな、
と言わんばかりの雰囲気を出していたので私はこれ以上聞くことはなかった。
まぁ、自分の親友と彼氏が仲良くなるのは別に嫌ではないけれど。
なんとなく、御幸くんはそれ以上の思いを持っているのではないだろうかと思うようになった。
「私、御幸くんの教室行ってくるね」
桜にそう言い、お昼休みに彼の教室を訪ねた。
ドアから部屋の中を覗くと、窓際の席で顔を机に突っ伏して寝ている彼を見つけた。
彼の前の空いている椅子に腰を掛け、優しく髪を撫でる。
「練習、大変だよね。キャプテン」
私と付き合ってから、彼は野球部のキャプテンになり、
今まで以上に大変そうなのを、彼との会話から察した。
「もう少しだけ、彼女っぽいことしたい。なんて、、、ワガママだよね」
と、髪を撫でながら続ける。
すると、御幸くんはんんっ、と少し唸って顔を上げて
寝ぼけきった目で私を見て微笑んだ。
「さくら、ちゃん、、、?」
え。
そう言って、御幸くんは再び机に突っ伏して眠りについた。
私は、お昼休み終了を告げるチャイムが鳴るまで動けなくて、そこから離れられずにいた。
鳴り始める頃に御幸くんは目を覚まし、
「え!白石さん、来てたの?
ごめん、俺、爆睡しちゃってた」
と、寝起きのはずなのに申し訳無さそうにそう言う彼に何も言えずに
「んーん、大丈夫。私も戻るね」
とだけ伝えて席を離れ、教室を出た。
彼は、桜が好きなんだ。
そっか、そういうことか、それで。
不思議だと思ったんだ。
何も接点のない私の告白を受け入れてくれたことに。
その時、少し困ったように笑ったことに。
私に好きだと言ってくれないことに。
彼からキスをしてくれないことに。
すべてが繋がった。
私と付き合ってでも、私の親友と近づきたかったんだ。
「そっか・・・そうだった、んだ。
私、だけ、だったんだ。」
その日の午後からの授業は何も頭に入らなかった。
それから数日経って、私はお昼休みに体育館へ御幸くんを呼び出した。
「もう3月だってのに、まだちょっと肌寒いね」
体育館に来た御幸くんは、先に来ていた私の横に腰掛けながらそう言った。
彼の気持ちを知ってしまった以上、何も知らないフリをして
このまま付き合っていくことは私にはできなかった。
「わたしね。・・・御幸くんのこと、本当に本当に大好きだったの」
「え、なに、急に。どうしたの?」
彼は、わけがわからなさそうに私の顔を覗き込んだ。
「告白したときは、本当に緊張したし、返事もらえたときは、、、本当に嬉しかった」
「・・・白石さん?」
「半年前から、今でもずっと。
今、この瞬間も・・・大好きだよ」
溢れ出しそうになる涙を必死に堪えて、私の顔を覗き込む彼に、精一杯の笑顔を向ける。
「・・・だけど、私は、御幸くんの好きな人に、なれない。」
その言葉を聞いて、御幸くんは一瞬驚いた顔をした。
けどすぐ真面目な顔に戻って、
「じゃあ、・・・別れる・・・?」
と、私に問いかけた。
ズルい。ズルいよ、御幸くん。
私から別れたいなんて言いたくないのに。
「御幸、くんは、・・・桜が、好きなん、だよね、、、?」
堪えたい私の気持ちとは裏腹に、涙が頬を伝う。
そんな私を見て、彼は一言、ごめんとだけ言った。
その時、親指で優しく涙を拭ってくれたことに、私は複雑な気持ちになってしまった。
初めて彼から私に触れてくれたことが嬉しかった反面、
これが最初で最後だと思うといたたまれない気持ちになった。
「好きだって真っ直ぐ伝えてくれることに、いつも罪悪感を感じてた。
だけど、桜ちゃんに近づくために、白石さんを、利用したんだ。
人の好意を、無下にした。
本当に、ごめん」
彼から本当のことを聞かされて、私は更に涙を流した。
わかっていたことだ。
わかっていたことなのに。
涙は止まらずに、次から次へと溢れ出る。
「・・・御幸くん。最後の、お願い、聞いてほしい・・・」
彼の指は、私の顔からはすでに離れてしまっていた。
制服の袖で涙を拭い、
「私のことを、振って別れを告げてほしいの」
大好きな御幸くんを、振ることなんて私には出来ない。
だったらせめて、別れくらいは彼から言わせて、
罪悪感でもなんでもいいから、私のことを少しでも忘れずにいてほしかった。
そう言ったら、御幸くんは少しだけ辛そうな顔をした。
だけど、わかったとつぶやいて私に向き合い
「他に、好きな人がいる。
俺と、別れてください」
と、言った。
私は首を縦に振り、御幸くんと別れた。
体育館を先にあとにした御幸くんは、
1度もこちらを振り返ることはなく去っていった。
私は泣きじゃくり、誰もいない体育館には私の泣いている声だけが、響き渡った。