御幸 一也
いい夢見てね
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ白石~?」
椅子を反対に座りながら背もたれに突っ伏して、上目遣いで私に話しかける。
イケメンの破壊力…半端ないな。
「なに?」なんて平然を装って返事をするが、内心バクバクいってる。
「俺さぁ、今日誕生日なんだけどぉ」
眼鏡の奥のたれ目が、私を捉えてじっと見つめてくる。
「白石は、俺にプレゼントとかないの?」
にやにやしながら聞いてくるこの男は本当に性格が悪い。
なのに、そんな男が好きだなんて、私は末期だ。
御幸に気持ちを伝えたのは、半年前。
入学してすぐ一目ぼれしをした私は、何度目かの告白でようやく付き合うことが出来た。
最初は野球を理由に断られ続けたが、その理由では納得できないから、と
お互いを知ることも含め、お試し交際を申し込み、
それなら、と御幸が折れて付き合ってくれた。
最初は御幸に好きになってもらうために必死にアピールしまっくてたけど、
今ではすっかり御幸も私に心を開いている感じはする。
ただ、御幸が私を好きかどうか、は別問題なんだけど。
いちばん大事なことが不鮮明なまま、私たちの曖昧な関係は続いている。
「御幸、何が欲しいかわかんなくて準備してないよ」
なんて冗談で言うと
「え、まじ!?俺、白石の彼氏なのに…誕プレももらえないの…?」
悲しいと、眉毛を垂れさせ寂しそうにつぶやく。
「そ、そんなショック受けること?」
私もなにやら罪悪感。
本当は、寒い部活中でも使えるようにとネックウォーマーを渡すつもりだった。
渡すタイミングがなくて、いつ渡そうか悩んでいたら昼放課になっていて、
せっかく御幸から話題を出してくれたし、今がそうかな?と悩んでいると
御幸はしょぼくれた雰囲気を身にまといながら、席を立ち自分の教室に戻ろうとしていた。
「え。ちょ、御幸。待っ…」
なんでそんな寂しそうなのよ。
彼氏なんて、今はまだお試し彼氏でしょ?
大事なこと、はっきりさせてないのは御幸なのに。
なのに…
なんでそんな傷ついた、みたいな顔するのよ。
それから御幸に会うタイミングがないまま放課後を迎えた。
御幸を訪れた時にはすでに教室にはいなくて、部活へ行ってしまった。
「終わるまで…待つしかない、よね」
家から通いの私は、御幸が部活を終えるまで待つしかなくて、
誰もいなくなった自分の教室で予習をして待つことにした。
カバンにしまい込んだ御幸宛のプレゼントを取り出し見つめる。
これは、今日あげないと意味がない気がする
携帯を取り出し、「部活終わったら連絡ちょうだい」とだけ送り、机に向かった。
午後8時、御幸から電話が入った。
「もしもし、お疲れ様」
『白石ごめん、待ってると思わなくて…、すっかり遅くなっちまった』
ほんとに御幸は優しいね。
私が勝手に待ってただけだから、謝る必要なんてないのに。
「んーん、大丈夫。今、少しだけ出てこれる?」
『あぁ、俺は大丈夫だけど、…うっせぁな、電話してんだから黙ってろ
…あ、悪ぃ、同期のやつがうるさくて。そんで、白石は今どこにいんの?』
奥で何やら騒がしい声が聞こえる。
「自分の教室。今から、そっち行くから5分ちょうだい」
席を立つ準備をしようとしたら
『え!いーよ、外寒ぃし、俺がそっちまで行くから。
5分待ってて』
と言って電話が切れた。
御幸の優しさが嬉しくて、それと同時に、
御幸が私のことをどう思ってるのかわからないことが辛くて、不安になる。
好きじゃないなら、さっさとお試し交際なんて終わらせてほしい。
御幸に渡すプレゼントをぎゅっと握りしめ、決意する。
これを最後に、もう一度告白しよう。
お試しなんて、もう嫌だ。
堂々と、御幸の彼女になりたい。
でも、もしダメだったら。
今のままの曖昧な関係の方がいいんじゃ…
決意したばかりのくせに、不安が押し寄せてくる。
御幸と、離れたくない。と思うと同時に涙が頬をつたう。
ガラリと教室のドアが開き、視線を移すとその先には御幸がいた。
「ちょ…は、え、なに!なんで泣いてんの」
少しだけ乱れた息を整えながら近づいてくる。
「…御幸。」
プレゼントを、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
頑張れ、私…。
「ごめ、ん……御幸が、好き…」
お試しとはいえ、御幸と半年も一緒に過ごしてきた。
野球ばかりで、オフなんかなくて遊びに行ったことなんてない。
でも、学校で御幸と過ごせるだけで私は十分だった。
思い出だって、それなりにある。
最初に告白した時よりも、今の方が、何倍も何十倍も好き。
御幸のことを知れば知るほど、どんどん好きになった。
「…離れたく、ない」
「え、ちょまじで、急に何。どうしたよ」
私の目の前まで来て、目線を合わせてくれる。
大好きなたれ目が、私を捉える。
「お試し…やめたい」目を逸らしてうつむく。
…優しいんだよ、御幸は。
だから、お試し交際も引き受けてくれたんでしょ?
でも、私はその優しさに、どんどん惹かれていくの。
どんどん好きになっちゃうの。
優しさに甘えてこのまま何も言わなければ、ずっとこの関係を続けれるかもしれない。
でもそれは、私の為にも、御幸のためにもよくないことはわかってる。
お試しじゃなくて、ちゃんと付き合いたい。
ちゃんと、御幸の彼女になりたい。
「御幸の、彼女になりたい…」
これが私の、最後の告白。
「…………」
何も言わない御幸を不思議に思い顔を上げると、御幸は心底驚いた顔をしていた。
「…なんで、驚いてんの」
「え。いや、ごめ、ん…俺」
驚いた顔をしていたかと思えば、今度は急に顔を赤く染める。
「…てっきり、もう付き合ってんのかと、思ってて…」
…え?
「待って。めっちゃ恥ずいじゃん、俺…
今日も、彼氏とか、プレゼント…とか」
御幸はもにょもにょと言いながらしゃがみ込む。
うずくまるが、隙間から見える耳まで真っ赤になっていた。
「み、ゆき…」
私は席から立ち上がり、しゃがみ込む御幸の前に正座する。
「…なんだよ」と私を睨みつける。
「私のこと、好き…だった、の…?」
嬉しくて、顔がにやける。
私の顔を見て、御幸が頬をつねってくる。
「…好きだよ、好きになっちまったよ。悪ぃか…」
この顔ムカつく、と呟く。
「いひゃいよ、ひゆき」
「…じゃあそのにやけ顔やめろ」
「わかっひゃから…」
御幸は手を離した。
そしてしばらく二人で見つめ合う。
「私…これからはお試しじゃなくて、ちゃんと御幸の彼女でいいの?」
「……白石がいいんだよ、俺は。」
照れくさそうに、私を抱きしめる。
「…御幸。」
「なに」
私は、ぎゅっと御幸を抱きしめ返す。
「好きになってくれてありがとう。」
生まれてきてくれて、ありがとう。
「…白石も。
俺のこと、見つけてくれてありがとう。」
君に出会えて、よかったよ。
Happy Birth Day⚾︎kazuya Miyuki