御幸 一也
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男子は、苦手だ。
小学生の時、クラスの男子が私の上履きの中に虫を大量に詰め込んだ。
下駄箱を開けた途端目に入った光景に気を失い、しばらく学校を休んだことがある。
後から聞いた話では、私のことが好きだったらしくあの年齢特有の「好きな子をいじめたい」が度を越していた。
それがトラウマで、バカで無神経で相手のことを考えない男子という生き物全てが嫌いになった。
その思いは今も変わっておらず、親の母校である青道高校に通いはしているが、男子には話しかけるなオーラを見に纏って生活していた。
と言いつつも、本当は治したい、克服したいと思ってはいるが、男子が話しかけようとするとどうも反射で睨みつけてしまう。
「みゆは美人なのに、もったいないねぇ」
と、小学生の時から友人である桜に言われる。
「あんた、男子からなんて言われてるか知ってる?
高嶺のバラ、だよ?めっちゃ面白くない?」
「な、なにその変なの。」
「遠くで見てるとすごく綺麗なのに、近づくと殺されるかのごとく睨まれる。
だからみんな遠くから見つめるだけでいい、ってとこからついたみたいだよ、よくわかんないけど」
桜は笑いながら私に説明してくる。
「なんか…変。」
「でもまぁ、そんな男嫌いのみゆが、唯一話せる男子が御幸一也とは…絵になるわぁ」
と、桜は窓際の席に座っている御幸くんを見る。
「いや、話せると言うか、御幸くんが話しかけてくれてるだけで…」
「でも、少なからずみゆも楽しそうだよ?自覚ないの?」
自覚は、ある。
彼と初めて話したのは、私が日直の仕事である黒板を消そうとしていた時。
男子が黒板の前に集まって馬鹿騒ぎをしていて、すごく邪魔だった。
本当に、男はバカでガキで自己中でムカつく。と思っていた時に、御幸くんがその男子たちを退かしてくれた。
「白石さんも、邪魔なら邪魔って言った方がいーよ。
男って、言われなきゃわかんねーから」
そう言い放つ御幸くんは、他の男子とは違ってどこか落ち着いた雰囲気をまとっていた。
初めて出会ったタイプだった。
それからというもの御幸くんは必要以上に私に話しかけてくるようになった。
「白石さん、現国の予習やった?」
「白石さんって、ハンド部なんだ」
「白石さんは、野球とか興味ある?」
最初は、この人私の噂知らないのかな?とか思って無視し続けていたんだけど、あまりにもしつこく話しかけてくるもんだから、
「話しかけないで。私、男子嫌いなの」
とついに言ってしまった。
言ってから、やばい!と思い必死に弁解しようとしたら御幸くんはお腹を抱えて笑い始めた。
「ははは!白石さん、男子のこと嫌いなのはいいけどさ、俺のこと一括りにして嫌わないでよ。
俺は男子である前に、御幸一也って1人の人間なんだから。
嫌いになるのは、俺って人間を知ってからでよくね?」
と言ってきた。
そんなこと言われたのは初めてで、そんなふうに考えたのも初めてだった。
確かに、男子が嫌いと言うよりは、あの、”大量に虫を詰め込んできた男の子が嫌い”から始まって、他の男子は特に関係ないのに嫌っていた気がする。
「…ごめん、なさい。」
今更ながらに自分の今までの行動が恥ずかしくなった。
「ちょっとずつでいいからさ、俺のこと見てよ」
にひひ、と笑いながら御幸くんは私に言った。
この時、私の中で御幸一也という存在が大きくなり、他の男子とはどこか違う、1人の人として見るようになった。
そこから、御幸くんは私に話しかけてくる唯一の男子になって、野球部の話をたくさん聞かせてくれた。
彼は、優しい口調で野球部の話をしてくれる。
その話し方で、わずかな表情の微笑み方で、野球部のことが、野球が大好きなんだなってのがわかる。
他の男子とは違う大人っぽい雰囲気も、無駄に騒いだりしないことも、きっと私にとってはすごく新鮮だったんだと思う。
私はいつの間にか御幸くんと話す時間が好きになっていて、話しかけてくれるのを待っていた気がする。
そう思っていた自覚は、ある。
「もうすぐ、みゆにも人生初の彼氏ができるのか。
私、ちょっと嬉しくて泣いちゃうかも」
「…はっ?え?彼氏?誰に?私に?なんで!?」
「え?だって御幸一也って100%みゆのこと好きでしょ?」
御幸くんが?私を?好、き…?
「いやいやいや!ない!ないよ!ありえない!
それに私男子苦手だったし!
御幸くんと話したのだって最近だし!
そんな…彼氏とか、急すぎて、考えたこともないよ」
桜が変なことを言うから、あれから私は御幸くんが話しかけてくれる時も変に意識をしてしまった。
目を見れなくなり、話しかけられても少しだけそっけなくなる。
御幸くんを見ていると、胸が苦しくて息が出来なくなる。
「白石さん、ごめんね」
ある日の放課後、いつも通り御幸くんに話しかけられて言われた一言。
「え?急に、なに…」
「いや、俺、白石さんが話してくれるのすげー嬉しくてさ。
他の男子と話してるとことか見たことないし、俺だけ特別っていうか、そんなふうに思ってた。
嬉しくてめっちゃ話しかけてたけど、本当は一方的すぎてうざかったかなって…」
わずかに表情がゆがんだ気がした。
「ち、ちがっ、う!うざくなんか、ないよ」
「でも、最近避けられてる感じあるし」
御幸くんは少しだけ悲しそうに呟く
「そ!!!れは、桜が…き、とか、…から。」
もにょもにょとごもる。
「え?なに?」
「桜が…御幸くんが、私のこと好き、とか。私の彼氏になるとかなんとか、変なこと言うから…
変に、意識、しちゃって…」
うつむきポツリポツリと言葉を吐く。
「……………」
「⁉…な、なんで何も言わないのっ」
ばっと顔を上げると、目の前には顔を真っ赤にした御幸くんがいた。
私が顔を上げると、見られまいとすぐさま顔を隠す。
「御幸くん、顔、真っ赤…」
釣られてこっちまで照れてしまう。
「…俺、白石さんのこと好きなのバレてて、、めっちゃだせーじゃん。」
うわー、はずかしと呟きながらその場にしゃがみ込む。
……………え?好き?御幸くんが?私を?
驚いて、夢かと思ったが御幸くんの反応を見る限り夢ではないらしい。
「や、でも…私、男子が…」
「わかってる!わかってるよ。」
しゃがみながら、頭をぽりぽりとかく。
「だから、もっともっと俺と仲良くなってよ」
しゃがんだまま、上目遣いで私をちらっとみあげる。
その表情に、一瞬ドキリとしてしまう。
「男子が嫌いって理由で、断らないで。
今よりもっと仲良くなって、俺のことどんどん知って。」
そして彼は私の目線に合わせて立ち上がる。
「そんで俺から告わせてよ。
返事はその時に、改めて聞かせて」
私をじっと見つめ、優しく微笑む御幸くんの表情が頭から離れなかった。
私の知ってる男子は、こんな素直じゃない。
いつも意地悪ばっかりで、優しくなんてしてくれない。
だけど君は違ってた。
いつも私を楽しませてくれた。
いつも私に合わせてくれた。
あなたのことをもっと知って、好きになってもいいですか?
私が初めて好きになる人は、あなたがいいと心から思った。