奥村 光舟
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『今度の土曜日、会えそうか?』
「ごめんなさい、仕事忙しくて出勤することになってます」
『わかった』
彼からの誘いを断ったのは、これで3度目だった。
プロ野球選手として活躍している光舟君と交際してもうすぐ半年。
友達の紹介で知り合ったが、
元青道高校出身の私たちが意気投合するのは簡単だった。
私が1年の時に3年だった彼のことは、よく知っていた。
野球部であり、顔の整っていた彼は後輩に人気もあった。
そんな人と、ましてや今、
プロ野球選手として活躍している彼と付き合えるなんてすごいことで、
私はすっかり浮かれて忘れていたが
毎年この時期は繁忙期で、休みを返上して働き続けている。
だが、この時期を乗り越えればしばらくは休みが与えられる。
今までは、ただ家と会社を往復するだけだったし、
休みがなくてもなんとも思わなかったが、
恋人ができた今、しかも半年が経過しようとしているのに
恋人をほっぽって、仕事しかしていないこの状況は本当にマズい。
光舟君からの3度目の誘いを断ったあの日以来、
彼から連絡はなくて、3週間が経とうとしていた。
忙しくて仕事ばかりして、連絡すらしてこない彼女に、愛想が尽きたのだろうか。
それこそ、美人なアナウンサーに心移りしてしまったんだろうか。
仕事の疲労で精神状況も不安定になっていて、マイナスなことばかりを考えてしまう。
だけど、彼に会う時間がないのも事実で、とりあえず仕事をするしかなかった。
始発に近い電車に乗り、日付が超えるギリギリで帰宅の繰り返し。
終電がなくなった日は、会社に寝泊まりだってする。
今の私には、仕事以外のことに時間を使う余裕がない。
彼女がそんな風なら、愛想を尽かされても仕方ない。
『久しぶり。
急かすつもりはないんだけど、次いつ会える?
直接話したいことある』
3週間ぶりに連絡が来たと思ったら、何やら嫌な予感。
愛想を尽かされても仕方がないと思っていたくせに、
いざ、光舟君から別れ話とも思われる連絡が来ると胸が締め付けられた。
「今月中は、厳しそうです。
来月入れば仕事が落ち着く予定です」
震える指で、そうメッセージを送る。
時計を見ると既に日付は超えていて、
こんな時間まで起きてたら体に悪いよ、とか
早く寝て体を休めてね、とか
伝えたいことはたくさんあったのに、私の瞼は閉じていった。
翌朝、出勤の準備をして電車に乗り、携帯を確認する。
『もうオフだから、俺はいつでも時間とれる。
みゆの都合に合わせるから、また連絡くれ』
それだけ光舟君から入っていて、
普段と変わらない文面のはずなのに、なんだかいつもより素っ気なく見えた。
「みんなお疲れ様!今年もよく頑張ったね!
来月は15日から勤務開始です。ゆっくり休んでね!
良いお年をお過ごしください」
社長からの言葉で、怒涛の繁忙期の幕が降りた。
会社から家まで30分。
私は帰宅してすぐに光舟君に連絡するつもりだったのに
家に着いた途端、死んだように眠りについた。
ふと目が覚め、時計を確認すると、20時間ほど、眠っていたらしい。
久々にスッキリした頭で、光舟君に電話をかける。
コール音が鳴る。
連絡を取るのも久しぶりだけど、声を聞くのはもっと久しぶりだ。
ドキドキと激しく波打つ鼓動は、
緊張なのか、別れ話かもしれない恐怖なのか、わからなかった。
『あけましておめでとう』
久しぶりに聞く、彼の落ち着いた声音。
さっきまで緊張していた私も、一気に落ち着いた。
「あけましておめでとうございます。
全然会えなくて、ごめんなさい」
『いや、仕事忙しかったんだろ、大丈夫。
俺のほうこそ、何回も誘って悪かった』
「光舟君は、何も悪くない。
仕事ばっかで、彼氏のことほったらかしにしてる彼女なんて、
飽きられてもしょうがないなって、、、覚悟、して、る。」
光舟君から切り出されるくらいなら、自分から切り出した方がマシだと
思い切って話題にしてみたが、言葉にすると胸に重たくのしかかる。
『・・・は?なんの話だ』
「別れ話、ですよ
『違う!!!!!』
光舟君が野球以外で大きな声を出したのを初めて聞いた。
『ごめん・・・』
驚いて沈黙していると、光舟君が謝って、さらに2人に沈黙が続いた。
『・・・みゆは、俺と別れたい、のか?』
「そんなわけないです!
・・・そんなわけ、ないけど、飽きられたって仕方ないって、思って・・・まし、た」
『・・・頼むから、俺のいないところで泣くな』
気づいたら私は泣いていた。
光舟君が、すごく悲しそうにつぶやいた。
「じゃあ・・・別れ、ない?」
『別れるなんて思ってたの、みゆだけだろ』
そう言った光舟君が、どれだけ優しい表情をしていたのかなんて
会えなくたって容易にわかる。
「会いたい・・・光舟君」
『俺も』
「・・・ふふっ」
『何笑ってんだ』
「素直な光舟君って、珍しいなって思って」
『俺だって素直な時くらいある』
「初めて知りました」
『・・・本当生意気になった』
「光舟君の彼女ですから」
『・・・うるさい』
「そういえば、光舟君、話があるって。
私てっきり別れ話だと思ってたけど、なんでした?」
『え?あー、明日、時間ある?あるならそっち行く』
時刻を見ると、18時になろうとしていた。
光舟君が住んでいるマンションからは、2時間以上かかる。
かかるけど、、、
「明日じゃなくて、今から・・・会いたい」
『・・・・・・・・・』
「なんで、沈黙」
『いや、こっちの都合』
「・・・無理なら、明日でいい。」
『すぐ拗ねるな、バカ』
「じゃあ待ってる」
わかった、と言って電話を切って、
私はお風呂に入り光舟君が来るのをただひたすらに待っていた。
2時間って、こんなに長かっただろうか。
2ヶ月くらい会えていなかったけど、不思議とその時よりも長く感じた。
ピンポーン
モニターに映るのは、もちろん光舟君の姿。
開いてるよって伝えてあるのに、わざわざ鳴らすのが彼らしい。
ベルが鳴り終えると、扉の開く音がして、
私は急いで玄関にかけより、光舟君に飛びついた。
「光舟君、好き。好き。大好き」
「久しぶりに会って言うことじゃないだろ」
「久しぶりに会って言うことです!」
「・・・じゃあ、俺も。」
光舟君は、ジャケットのポッケに手を突っ込む。
取り出したと同時に、中身を私に見せた。
「結婚、してくれるか?」
彼の手の中には、小さな箱に可愛らしい指輪。
私の好きな、デザインだった。
「・・・っ、」
予想外の展開に私は驚いて、声が出なかった。
気づくと、光舟君が袖で私の目元を拭った。
「嬉し涙だと、いいんだけど」
優しく笑いかけてくれた光舟君に、私はまた、恋をした。
「嬉し・・・なみ、だ」
そう言って鼻を啜り、光舟君の胸元に顔を埋めた。
光舟君は、優しく背中を撫でてくれた。
その手はすごく温かかった。
「クサイ台詞、言ってもいいか?」
「・・・どーぞ」
「みゆと付き合ってまだ半年だけど、
みゆ以上に一緒にいたいとか、会いたいとか、好きだとか思う人は
これから先、現れないだろうなって、本気で思った。」
光舟君が少しだけ目を逸らした。
「・・・つまり」
「・・・つまり?」
「みゆと出会えたのは、運命だって、本気で思ってる」
普段なら、絶対にこんなこと口にしない。
それだけ彼が、本気でそう思ってくれているんだって思えた。
「・・・耳まで真っ赤」
「うるさい」
私たちはしばらく見つめあって、どちらからともなく
引き寄せられるかのように唇を合わせた。
「光舟君、結婚しよう」
そう言うと、今度は彼が私を抱きしめた。
「絶対、幸せにする」
「違うよ。2人で、幸せになろう」
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