倉持 洋一
いい夢見てね
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私の好きな人は、付き合っている彼女がいるらしい。
地元の人で、今は東京と千葉の遠距離恋愛中なんだって。
だけど私は、噂話だと思ってる。
「ねぇ、倉持。今度のオフ、一緒に出かけよーよ!」
御幸と話している倉持に話しかけ、デートのお誘いをする。
「あぁ?2人でかよ」
私の方をちらりと見て(見たと言うより睨んだに近い)、ため息をつく。
「行くわけねーだろ。俺、彼女持ちだから」
出た!またこのセリフ。
「…ねぇ、彼女って本当にいるの?
いつも誘っても断るくせに、写真のひとつも見せてくれないじゃん」
そう。倉持はいつも
彼女というワードを出すくせに、写真を見せてくれたことがない。
だから私は、倉持が彼女いるってのを嘘だと思ってる。
まぁ、何のためにそんな嘘ついてるのかは全く想像できないけど。
だって、御幸みたいにイケメンでモテるわけでもないし(失礼)
御幸みたいに野球の天才ってわけでもない(たしかに上手なんだけど)から
めちゃくちゃモテるわけでもないし(失礼)
「バーカ。誰がそんな簡単に彼女の写真なんか見せるかよ」
ひゃはと、独特の笑い方で話を終わらされた。
放課中、ぶらぶらしていると担任に見つかって雑用を頼まれる。
女子1人で持たせるには重すぎるんじゃないかという量の教材を、
社会科室まで運んでほしい、って鬼すぎるでしょ。
ヨロヨロと歩いていると、さっきまで両腕にかかっていた重さが半分以下になる。
気づくとそこには倉持がいて、
「ひとりじゃ危ねぇだろ、手伝う」
と、手伝ってくれた。
こういう、人をよく見てるとことか、気が利くとこが、好きなんだ。
「どこまで運ぶんだよ」
「社会科室。…ありがと」
倉持の優しさにニヤける顔を必死に堪えて、隣に並び感謝を伝える。
おう、とだけ言って倉持はにかっと笑った。
この優しさは、私にだけだって勘違いしそうになる。
だって、彼女いる人が他の女子に優しくする?しないよね
「白石大丈夫か?もう少し持とうか?」
「んーん、大丈夫。もうすぐそこだし」
私だけ特別だって、勘違いしても仕方ないよね?
目的地まで着き、教室に戻ろうとする倉持を引き留める。
「…白石?」
ブレザーの裾を掴んで引き止めた私に振り返る。
「あの、さ。倉持…」
声が震える。
彼女がいるなんて、絶対嘘。
いるなら、他の女の子にこんなに優しくするわけないもん。
「本当に…彼女って、いる、の?」
恐る恐る顔を上げ、倉持を見る。
倉持は、私の気持ちに気づいたのか、少しだけため息をつく。
「いるって、ずっと言ってきたと思うけどな」
否定、しないんだ。
「じゃあ、なんで私に優しくするの」
そういうと、少しだけ困った表情をする。
「彼女いるって確信持てないから、信じれないから期待するじゃん!」
倉持が、歪んで見え始める。
目に涙が溜まる。
「…悪ぃ」
表情が見えなくても、倉持が申し訳なさそうにしているのが声でわかる。
「悪いじゃ、ないよ…
私のこと、好きにならないなら最初から優しくしないでよ!」
倉持に対する怒りなのか、悔しさなのかわからない感情が込み上げる。
「彼女なんて……いないって、言ってよ。」
裾を掴む力が弱くなり、すとんと滑り落ちた。
「…彼女いるって知ってたから、
仲良くなっても白石は、俺のことなんて好きにならねぇって、
ずっと思ってた。」
だって、彼女なんて嘘だと思ってたから。
「けど、俺に気があるのかなって思った時もあったけど
確信なんてなかったし、
白石といる時間は、俺にとって心地よかったから、
白石の気持ちに、気付いてない…ふりしてた」
私との時間が、心地いいって思うなら私を選んでよ
「でも、その結果が、白石をこんなに傷つけて…
こんなに、苦しめてたなんて、思ってもなかった」
倉持は、私に深々と頭を下げた。
「………ごめんな」
その4文字が、私をどん底まで突き落とす。
どんどん溢れてくる涙の止め方が、わからない。
目の前には、大好きな人がいるのに、
その人は私を好きになってくれることはない。
倉持からの『ごめんな』には、そんな意味が込められていた。
「…白石、でも俺は」
ぱっと頭を上げ、何かを伝えようとする倉持に
「も、…いい、よ。」
涙を流しながら、精一杯の笑顔を浮かべる。
「じか、ん…かかる、かも、だけど…
私…も、くら、もちとは…友達で、いた、いから…」
これは私の、精一杯の強がり。
ただの友達になんて、戻れるはずがない。
倉持への気持ちを、捨て切れるはずがない。
「そっか、…ありがとな、白石。」
小さくつぶやいて、倉持は部屋を後にした。
部屋にひとり残された私は、その場に崩れ落ちる。
本当は、倉持に彼女がいることはわかってた。
御幸から写真を見せてもらったが、
倉持本人から見せてもらうまでは、信じたくなかった。
でも、
彼女の話をする時の表情がすごく優しいことも、
彼女のことをいつもいちばんに考えていることも、
本当は、ずっと気付いてた。
そんな倉持の態度が、彼女の存在を確信づけていたんだ。
彼女に一途なあなたが好きだった。
大好きだった。
気付いてたのに、気づかないふりをして近づいていたのは私で、
倉持の優しさを理由に、好きになったのは、私だ。
これから先、私が報われる世界なんてなくて、
一途なあなたを、好きでい続けることしかできない。
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