神谷 カルロス 利樹
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ない、ない、ないないないない!!!!
生徒手帳が、見つからない。
誰かに中を見られる前に、探し出さなきゃ!!!
稲実に通い始めて半年が経とうとしていた。
私が所属している広報部は、学校行事や様々な部活動の写真を撮り記事を書いて、近隣中学や学校内で配布したりするのが主な活動。
その中でも、全国に名を轟かす強豪である野球部の記事を書けるのは、部員の中でも限られている。
私はというと、撮影技術の腕を買われ入部当初から先輩と一緒に野球部の取材に同行し撮影をさせてもらっている。
もちろん、取材の際は野球部の邪魔にならないように国友先生の許可もとってある。
ある日、新チームになった野球部の中で、1年でレギュラーになった数人の写真を撮っていた時、私は彼に目を奪われた。
一際目立つ綺麗な褐色肌に、すらりと伸びた長い手脚にはほどよい筋肉がついている。
見かけるたびに上裸でいるから、きっと脱ぎ癖でもあるのだろう。
引き締まった体がとても魅力的で、一瞬で彼に引き込まれた。
気づけばシャッターを切っていて、先輩たちにもバレないようにこっそり現像し、生徒手帳にしまった。
ダメなのはわかってる。
一歩間違えればストーカーになりうるが、彼と何も接点がない私を哀れだと思うのならば、許してほしい。
お願い、神様。
きっと、今思えばあの瞬間から、私は彼に一目惚れをしていたんだ。
とまぁ、カルロス君の上裸写真を生徒手帳に挟んでるなんて誰かにバレたら大変だから、いつも肌身離さず持っていたのに、いったいいつ落とした!?
あぁぁぁあ〜、誰にもバレずに、落とし物箱に届いていてほしい…
その日は1日中探したが見つからず、放課後を迎えた。
職員室へ行き、未だに届いていないと言われ落ち込んだまま教室へ戻る。
扉を開けると、私の席には毎日写真越しに眺めている彼が座っていた。
扉の音に気づきこちらを見る。
そして「これ、あんたのだろ?」と、私が今日1日かけて探していたものを見せる。
「私の!!!…あ、ありがとう」
と、動揺を悟られぬよう、深掘りされぬよう平然を装いながら近付く。
中は見ていないであってほしい。
いや、仮に見てしまったとしても記憶から消してほしい…
そしたらきっと、私の気持ちもバレないし!
「白石って、俺のこと好きなのかよ」
自身の写真が挟まれたページを開き、私に見せてくる。
…前言撤回。
終わっっっっっっっっった。
「これって、記事で使われてない写真だよな?
見たことねぇ。まさか、盗撮か?」
私を試すように、切長の目でジロリと私を見る。
どどどどど、どうしよう。
素直に謝って許してくれるだろうか。
…いや、気持ち悪いよね。
自分の写真を、知らない女に撮られてたら。
しかも生徒手帳に挟まれているんだ。
嫌な思いを、させてしまったかもしれない。
いつもはカッコよく見える整った顔が、今はとてつもなく怖い。
他の生徒に言いふらされ、私は変態扱いされて終わりだ。
せっかく入学した稲実で、残り2年半を全校生徒から冷ややかな視線を受けながら過ごさなきゃいけないのか…
どうしよう。どうしよう。
恐怖と後悔と焦りで、思考がショートする。
冷や汗が、背中を流れる。
えええい!考えたところで100%私が悪いんだ!!!!
「あの!!!ご!ごめんなさ…」
「冗談だぜ、冗談」
はっはっはと、笑いながら私に近付く。
「じょ、じょうだ…ん?」
「別に、写真の1枚や2枚勝手に撮られたって悪い気はしねーよ」
そう言い、私の目の前まで近づいた彼はほらよ、と生徒手帳を渡してくれた。
「しかも、あんたはいつもかっこよく撮ってくれるしな」
ボソリと呟くが、何を言ったか私にはわからなかった。
「???あ……ありが、と、うっ!?」
私は、安心したのか急に全身の力が抜け、その場に崩れそうになった。
「あっ!!!ぶねぇ〜…」
咄嗟にカルロス君が支えてくれて、なんとかセーフ。
事故とはいえ、腰に手を回されたことに過剰に反応してしまう。
「や!あの、ご、ごめんなさい!ひ、とりで!1人で立てます!ほんと、ごめんなさい」
離れようとするが、びくともしない。
「え、と?カ、カルロス…く、ん?」
「………質問、答えてなくね?」
「え?」
「だから、俺のこと好きなのか?って質問」
支えられているため、カルロス君とは体が密着した状態である。
ドキドキと心臓が鳴るのを聞かれてしまうのではないかと不安になる。
「えっ…と。ど、どうだろ、う?」
我ながら、意味のわからない返事をする。
ただ、距離の近さや、教室には2人しかいないこと、ましてや相手が私の好きな人だから緊張はピークに達していた。
下手をしたら、私がカルロス君のことを好きだってことがバレてしまう。
バレないように、俯きながら話題を振った。
「カ!カルロス君、こそっ!
も、もし!もし私が好きって言ったらどうするの!!!?」
チラリと彼を見ると、さも余裕そうに
「普通に、嬉しいけど」
と顔をグイっと近づけてくる。
「え?」
そう言ったと同時に、急に近づいた顔に耐えられなくて私はとっさに俯いた、はずだったが…目の前にはカルロス君しか見えなかった。
その瞬間、唇に柔らかい感触。
カルロス君の、少し分厚い唇が私のと重なり、キスをされていると理解する。
え!?え、え!?なにこれなにこれ!?
どうゆうこと?なんで?私、カルロス君と、、、
キ…キス、して、、、
「んんっ…」
彼は、私がわけわからないと考えているとは知らずに、何度も何度も角度を変えてキスをする。
唇に触れるだけの優しいキスかと思えば、蝕むような荒々しいキス。
私は、彼にされるがままになっていた。
呼吸ができなくて、苦しい…
酸素がほしい。
彼の胸を手で叩くが離れるはずもない。
耐えられなくなり、酸素を取り込もうと口を開いた瞬間に、彼の舌が私の中へと入ってきた。
な、なに…こ、れ。なんっ…で、、、
そう思った瞬間、私の目からは涙が溢れた。
すぐにカルロス君が気付き、唇を離す。
「わ、わりぃ…」と、申し訳なさそうに私を見る。
「うっ…ひっく、ひ、ひどい、よぉ…」
うまく喋れないが、ゆっくり、ゆっくりと彼へと言葉をかける。
「カ、カル、ロス君は…誰とでも、こんなふう、に、キス…しちゃう、の?
好きじゃ、なくても…キスできちゃ、う、の?」
その言葉を聞き、カルロス君が驚いた。
「え!?俺のこと、好きなんじゃねーのかよ」
「ちがっ!!!好き…好き、だけ、ど。
わた、しのこと、好き、じゃないの…に、キス…するから。
カルロス、君は、誰とでもするんだ、って…思った、ら…」
さらに涙が溢れる。
こんな最悪な告白があるだろうか。
泣きじゃくって、好きな人にキスされて嬉しいはずなのに、彼に心がないことが辛いくて…
こんなの、相手が好きな人でも嬉しいはずがない。
すると、彼は再び私の唇を奪う。
「んっ、い…っや」
ガリっと彼の唇を噛む。
同時に、鉄の味が口に広がる。
「…わかれよ。」
「なにが…。わかん、ない…よ」
カルロス君は、私をぎゅっと抱きしめた。
「な、に…」
「お前と、同じ気持ちならいんだろ?」
「……え」
「同じ気持ちだから、泣くなよ…」
そういうと、彼はさっきよりも優しいキスをする。
………え?同じ、気持ち…?
誰と?誰が?私と?カルロス君が?
目をぱちくりさせていると、唇を離しぶふっと彼は笑った。
「何そんな驚いてんの?」
「いや、だだだだだって…カルロス君が私と同じ気持ちって…だってそんなの、だって…そんなの…」
「……ありえない?」
少しだけ、悲しそうに笑った気がした。
「えっと、う、嬉しいんだけど…
なんで私なんだろ?とか、いつ?とかいろいろ思うと、わかんなくって…」
すると、彼は再び私をぎゅっと抱きしめた。
「わかんなくていーよ。
俺が白石のこと好きだってこと、わかってくれれば…それでいんだよ」
弱々しくつぶやく彼は、いつものような凛々しさはなく、少しだけ震えていた。
「カルロス…君?もしかして………」
緊張…してる?
初めて広報部の取材で野球部に顔を出した日、すごく楽しそうに俺たちのことを撮影している
お前の顔が頭から離れなかった。
その顔で、俺のことだけ見つめればいいのに。
俺のことだけ、撮ればいいのにって思った。
きっと、今思えばあの瞬間から、俺はあんたに一目惚れをしていたんだ。
こんなこと、絶対あんたに知られたくない。
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