結城 哲也
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私は今、とても怒っています。
何に怒っているのかって?
特別な日を忘れられたことにです。
誰に怒っているのかって?
超鈍感な、マイペース野球バカにです。
今朝、『おはよう』と来たメッセージには『うん』と。
『一緒に昼飯食べよう』には『今日は友達と食べる』と。
『補習終わったら一緒に帰ろう』には『今日は先に帰る』と。
我ながらほんとーに可愛くない返事をしたことはわかっている。
わかってはいるけど…今回ばかりは私も譲れない。
事の発端は、つい昨日である。
高校3年になりお互い部活も引退し、今は受験モード真っ只中。
そんな中、昨日は私の誕生日であった。
日曜日ではあったが、私は友達と学校で勉強をしに来ていた。
学校に着くと同時に、メッセージが届く。
『おはよう、今日は学校で勉強か?俺も、9時くらいに向かう予定だ』
「りょ、う、か、い。と」
「なになに?結城君も今日学校来るの?」
友達(以下、桜)に言われ、そうみたいと返事を返す。
「よかったじゃんみゆ!受験生だから大それたことはできないけど、学校帰りになんかあるんじゃない?」
ニヤニヤしながら言ってくる桜とは裏腹に、
「いやでも、哲だよ?あの鈍ちんはそんなサプライズとかは100%ありえないと思う」
と、本音。
だけどそう言いつつも、1%くらいはなにかあるかな?とか期待している自分もいる。
教室には、既に他の生徒も数人来ていた。9時を少し回った頃に『今着いた、どこにいる?』とメッセージがはいり『3B』と返事をすると少しして教室のドアが開く。
ドアの方を見ると、哲が立っていた。
私は席を立ち教室から廊下へと移動する。
「おはよー、哲」
「あぁ。おはよう白石。今日もかわいいな」
と平然に言ってくる本人とは対照に言われた側が慌てふためきあたりを見渡す。
「??何をそんなにキョロキョロしている」
「当たり前でしょ!だって、その…かわ、いいとか言うから…」
「思ったことを言ったまでだが?」
「!!!!!いや、その。うれ、しい、んだけど…時と場所を…かんがえて、、、」
とごにょごにょとしている私を見て
「よくわからんが、何をそんなに気にする必要がある?」
何とも不思議そうにこちらを見ている。
ほんとにこの鈍ちんマイペース君は、周りを気にしない。
だって普通に今のやりとりを第三者が見たらただのバカップルじゃん!!!
恥ずかしいじゃん!普通に恥ずかしいじゃん!!!
でも、それを哲に言ったところで共感してもらえるわけもないか、と諦める。
「んーん。…ありがとう。」
「あぁ」と私に微笑む。
「あ、あのさ、哲」
「なんだ?」
「今日って何時ごろまで学校いる予定?」
期待はしていない。していないけど、確認するくらいなら、いいよね?
「今日は夕方頃だと思う。
帰り際に、少しだけ野球部を覗いて帰る予定だ」
……………やっぱりね。
うんうん。だと思ったよ
私の誕生日なんかより、後輩の方が大事だよね
と、勝手に思いながら落ち込む。
そんな私に気付き、
「どうした、白石?」と顔を覗き込んでくるが、なんでもないと答える。
頭をぽんぽんとしながら、
「そうか、ならいいが。」と再び微笑む。
そんな仕草と表情に嬉しいと思ってしまうが、一度悲しくなった気持ちはそう簡単には拭いきれない。
「じゃあ、勉強戻るね。哲も、頑張ってね」と言いその場を離れる。
案の定、帰るまでに数回のメッセージのやりとりはしたがそれ以外は何もなく、私が教室を出る頃には既に哲はグラウンドに向かっていたのか、教室にはいなかった。
桜には、期待させるようなこと言ってごめんねと逆に気を遣わせてしまった。
家に着き、夕飯を食べ終えてから自室で勉強を始める。
…哲はそもそも気づいているのかな、今日が私の誕生日だってことに。
お誕生日おめでとうのメッセージがちらほら届く中、哲からの言葉はいまだに届かない。
まぁでも、あのマイペース君に期待するだけ間違っているのか、と自分を納得させようとするが、だけどやっぱり、好きな人からは、ましてや恋人からの祝いの言葉がないのは、少しだけ寂しい、と思ってしまう。
結局、勉強が終わり眠りにつくまでの間に哲からのメッセージはなかった。
そして冒頭に至る。
午前中に哲と遭遇することはなく(全力で会わないようにしていたが正しい)、今は桜と教室でお昼を食べていた。
「みゆ昨日は無神経なこと言っちゃってごめんね…」
「え!全然いいよ。桜は悪くないし、そもそも少しでも期待した私もバカだったの。
しばらくは、一緒にご飯も食べないし、一緒に帰らないんだから!!!」
「みゆ〜、それはさすがに可哀想じゃない?」
「可哀想なのは私じゃない??」
と桜と笑いながら話す。
うんうん、哲なんてもういいよ!!!
遅くてもいいから、哲からおめでとうって言ってきてくれるまで口も聞かないんだから!!!
と思っていた矢先に
「白石さーん、結城君きてるよー」
ご本人登場ですか!!!
呼んでくれた秋田さん(クラスメイト)には悪いですが、私は哲に用事ないんで!
「今はご飯食べてるから無理って伝えてきて」と桜に伝言を頼む。
「え?いや、なんで私よ…」そう言いつつも席を立ち桜が哲に話をしに行った。
ちらっと哲を見ると、じっと私を見ていたため、急いで目を逸らす。
席を立ってから30秒もしないうちに、桜が戻ってきた。
「なんか、言いたいことありそうな顔してたけど。結城君」
「いーのいーの。どうせ、昨日見に行った野球部の子らの話だと思うから」
私を恋人にしてくれた今でも、きっと彼の頭は野球部の後輩のことや、野球のことでいっぱいなんだ。
彼女だったとしても、彼のいちばんはいつでも野球。
前は、楽しくてしょうがなかった野球部の話も、今は憎らしくて仕方なくて、そんな風に思ってしまう自分に嫌気がさす。
そんな自分を、哲には知られたくなくて、午後からは、午前よりも哲を避け続けた。
放課後の補習が終わり、ふと携帯を開く。
今日は先に帰る、と私が送って終わっている哲とのトーク画面を見つめる。
こんなに哲と接触のなかった日は初めてで、とても寂しいものなんだなと、自分で避け続けたはいいが悲しくなる。
私が折れれば済む話で、だけどそう簡単には折れたくなくて、やっぱり、誕生日は1年に1度しかないから、大好きな人に、祝ってほしかった。
携帯を閉じ、まだ数人残っている教室を後にする。
ティロリン♪と携帯が鳴る。
『みゆ、結城君と仲直りしなよ!
意地っ張りは可愛くないぞ!
言いたいことは、きちんと言うこと!
結城君は、みゆのこと大好きだし、みゆだってそうでしょ?
と、いうことで、野球部グラウンドへゴー!』
桜からメッセージが入る。
『さっき、野球部の方行くの見たからたぶんいるんじゃないかな?』
と続けて入るメッセージを見るや否や、私は走り出す。
哲に会ったら、とりあえず問い詰めよう。
私の誕生日覚えてるかどうか。
覚えてたら、なんでって!
覚えてなかったら、覚えててって!
こんな私の変なプライドのせいで、哲と話せなくなるのは辛い。
ありがとう、桜、ちゃんと話すよ。
息を切らしながら野球部のグラウンドに近づくと
『みゆさんじゃないっすかー』
わっはっは、と沢村くんが私に気付き近づいてくる。
「あ、うん。ひっ、ひさしぶりぃ。」と、息が上がりまくっている体で返事をする。
「て、哲って…今日、来て、る?」
そう聞くと、にやりとしながら「さーさーこちらへどうぞ主役様」と、沢村くんが私の手を引きながらグラウンドから離れ、屋内練習場の方へ連れて行く。
しゅ、主役ってなに?と、中に入って行った沢村くんに聞こうと中を覗いた瞬間
パーーーーン!!!
と、クラッカーの音が響き渡る。
私は突然のことで訳がわからずその場に固まる。
「「「誕生日おめでとーございます」」」と、よくよく見ると野球部の後輩たちがクラッカーを手に声を揃えた。
え?なに?どゆこと?なんでみんなが?
と、頭にはてなを浮かべていると今度は後ろから
パーーーーーン!と、クラッカーの音が響く。
さらに驚き後ろを振り向く
「「「ハッピーバースデー!!!」」」と、今度は野球部3年のみんな。
私は驚きを隠さずに目をぱちくりさせ、頭にはてなを浮かべ続ける。
すると急に体が宙に浮く。
「なになになに!なにこれ!いったいどうなってんの!?」
と叫ぶ。
「白石」
私の体を浮かせている張本人が、私の名を呼ぶ。
声のした方へ振り向くと、やはり哲がいた。
「遅くなってすまない。
誕生日、おめでとう」
満面の笑みで、私にささやく。
「…なんで、みんないるの?」
「白石、野球部好きだっただろ。だから頼んだ」
「…誕生日だったの、知ってたの?」
「当たり前だ。忘れるはずない」
「…なんで、昨日は何も言ってくれなかったの?」
「すまない。どうやってサプライズしようか、なかなか決まらなくて、当日の昨日まで考えてたんだ」
「…だから昨日も、補習終わってすぐ野球部のとこ行ったの?」
「今日、時間取ってもらおうと思って頼んだ」
「………………」
「白石、嬉しく、なかったか?」
と、地面に立たせ俯いた私の顔を覗き込む。
そして、ぎゅっと抱きしめる。
「それが、嬉し泣きなら、大成功なんだけどな」
と、優しく頭を撫でる。
そして、耳元で「生まれてきてくれてありがとう」と囁いた。
「…ばかぁ」と泣きじゃくる私の背中を優しくさすってくれた。
「哲!成功だな!」と、純くんが叫ぶ。
「ねぇ、いつまでイチャイチャしてるの?」と暗い笑顔を浮かべていそうな声で亮介くんが言う。
そ、そうだった!!!みんながいたんだ!
と、私を抱きしめている哲を急いで剥がす。
「みんなありがとう。すごく、嬉しい」と3年生のみんなに頭を下げる。
そして、練習場を再び覗き
「みんなも!練習の邪魔してごめんね!
祝ってくれてありがとう。本当に嬉しかった!
練習、頑張ってね」
と、ペコっと頭を下げて3年生たちの輪に戻る。
「みんな勉強とかあるのに、本当にありがとう〜。
めちゃくちゃ嬉しいよー」と再び感謝を伝える。
「哲が、あんな真剣に色々考えてたからな。
俺たちも協力せざるを得なかったぜ」
「でもまぁ人前でイチャつくのはうざいけど」
「白石は、本当に哲に愛されているな」とクリスくんに言われ照れる。
「おい!クリス。白石の顔を赤らめていいののは俺だけだ」
と、哲に体を引っ張られる。
「ちょ、何言ってんの!?!?」とジタバタする私を無視し
「だけど、みんな協力してくれてありがとう。
また、なんかあった時は頼む」
そう言い解散した。
学校を後にし、哲と2人で並んで歩く。
「白石、今日怒ってた、よな?」
「…ごめんね。哲に、誕生日忘れられてると思ってて。
なんか、哲の性格考えると忘れててもしょうがないって思ってたんだけど、それでもやっぱり、好きな人には祝ってほしくて。
野球に勝てなくても、野球部には負けたくなかったんだよね。
…って私、言ってることめちゃくちゃだね」
ごめん、と苦笑いをする。
「俺には、野球と野球部と白石を比べる理由がわからん。
どれも大事で、どれも大好きだから。
いちばんなんてない。
強いて言うなら全部いちばんだぞ」
にこりと笑い、握っている手をぎゅっと握り直した。
「だから、これから先も白石の誕生日を隣で祝わせてくれ」
ねぇ、哲それってプロポーズ?なんて聞こうと思ったけど、たぶん何も考えてないよね。
だけど、その言葉が私をどれだけ幸せにしているか気づいてる?
これから先も、哲の隣にいていいのなら、ずっと隣で私の誕生日を祝ってね。
大好きだよ。
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