沢村 栄純
いい夢見てね
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「栄純!昨日の練習試合すごかった!」
昼放課、彼氏である栄純の教室へと足を運ぶ。
「…みゆか。
昨日、来てたんだ。全然気づかなかった」
私と目を合わそうとしない彼に少しだけ寂しく思うが、話を続ける。
「…バレないように、見に行ったからね」
へへ、と愛想笑いを浮かべる。
「なんか、用事あった?」
変わらず私の方を見向きもせずに、読んでいた本をペラペラとめくり続ける。
「あー、えっと。別に、これと言った要はないんだけど…」
顔見たくて、と続けようとしたら、栄純は席を立ち
「次、移動だから行くわ」
と、教室を後にした。
「おいっ!サームラ!!その態度はねぇだろ!!!」
出て行く栄純の背中に、金丸くんが声を出す。
「あ!だ、大丈夫だよ、金丸くん。
わりかしいつも、あんな感じだし…」
あはは、と再び愛想笑い。
「だけど、さすがにあの態度は冷たすぎるというか…」
「たぶん、なんか嫌なことがあっただけだよ…
それか私が、気づかないうちに嫌なことしちゃった…と、か…」
ふと気づくと、涙が出ていた。
「ちょっ、大丈夫かよ、白石!!」
私はその場にしゃがみ込み、必死に涙を止めようとした。
本当は、全然大丈夫なんかじゃない。
栄純の態度が最初から冷たかったのも
これっぽっちも私に興味なんてないことも
誰かと楽しそうに毎日電話していることも
本当はずっと気づいてたのに、
気づかないふりをして過ごしていたのは私の方。
それを認めてしまったら、
栄純の彼女でいられなくなると思った。
止めようと思う気持ちとは反対に、涙はどんどん溢れ出る。
好きという気持ちだけじゃ、栄純を引き止められない。
あれから、栄純と話すことはなくなった。
気づけば私は、栄純を避けるようになっていた。
会えばきっと、顔を見ればきっと
好きという気持ちが溢れ出して止まらなくなる。
彼は、私のことなんてもう好きじゃない。
いや、初めから好きじゃなかったんだ。
告白したのは私からだし、好きだと言うのもいつも私だけ。
栄純は、私に付き合ってくれていただけ。
本当はずっと、他に好きな人がいたんだと思う。
付き合い出して少し経った頃、携帯を触る栄純は、
私には見せたことないくらいの優しい表情をしていた。
あぁ、彼は私なんかこれっぽっちも好きじゃなくて
本当の気持ちは、私じゃない誰かに向いているんだって、
本当はずっと、わかってた。
わかってたのに、栄純を手放したくなくて見ないふりをしていた。
栄純は優しいから、私の告白を受け入れてくれた。
栄純は優しいから、自分から私に別れを告げない。
栄純の優しさが、私を傷つけている。
曖昧な関係なまま、時間だけがすぎていく。
本当は、私から別れを切り出せば終わることなのに
卑怯な私は、こんな関係でも終わらせたくないと思ってしまう。
どうすれば栄純は振り向いてくれるの?
どうすれば私を好きになってくれるの?
私はあなたを絶対に手放したくない。
栄純を苦しめ続けているのは私だってわかってる。
こんな関係、誰も幸せになれないことだってわかってる。
「栄純は、本当は誰が好きなの?」
悪者になんてなりたくないの。
優しいあなたが、悪いの。
私が好きだなんて、言わないことはわかってる。
わかってるから、栄純の口から本当のことを言わせたい。
他の人が好きだと言えば、なんで付き合ったのって責められる。
私は悪くないって、堂々としていられる。
「俺は……」
私と栄純の、空っぽな関係が終わるまでのカウントダウンが始まった。