沢村 栄純
いい夢見てね
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「みゆ先輩!!!
キャップといちゃいちゃしないでください!!!」
「いや!だからしてないってば!!!
毎日同じこと言ってるよね?
……てか御幸も!ニヤニヤしてないでなんとか言ってよ!」
「えー?だっていちゃいちゃしてるのは事実だろー?」
「なぬっ!!!!!
年上だろーが、先輩だろーが、キャップだろーが関係ねぇ!!!
みゆ先輩に近づくなぁぁぁぁ!!!!!」
と言って、沢村君が御幸に飛びかかる。
私はというとそれを黙って見ているだけ。
毎日毎日、同じ光景を見せられるこっちの身にもなってほしい…
「じゃあみゆ先輩、また部活で!」
と、沢村君は教室から出て行く。
「白石も、うるせー奴に好かれたもんだな」
と笑う御幸は、どことなく楽しんでいるように見える。
「好かれるって…お姉ちゃんみたいな感覚で懐いてくれてるんでしょ。
沢村君って、弟みたいで可愛いし」
「……………あらそぉ」
やれやれと言わんばかりの表情で御幸は私を見る。
「な!何よ、その顔…ムカつく」
だって、沢村君って誰にでもあんな感じじゃん!
クリス先輩にだってあんな感じで懐いてたじゃん!
一応御幸にも、なんだかんだ言って懐いてるじゃん!
…私だけ、特別とか…そんなわけない。
「みゆ先輩!今日も動画いいっすか?」
夏の決勝戦で死球を与えてしまった彼は、イップスになってしまっていた。
その時から、私は彼の投球フォームを動画に収めていた。
いつか、改善の役に立つ日が来ればと。
クリス先輩の助言もあり、今は完全に以前の沢村君に戻っているが、私が撮影していたのを知ると、毎日のように頼むようになった。
そこから、彼との仲は少し深くなった気もする。
でもそれは、あくまで先輩後輩として。
同じ野球部の部員として。
きっと、それ以上でも以下でもない。
投球後、動画を見返す。
画面に夢中の沢村君の表情が百面相する。
いつものことではあるが、それがあまりにも可愛くてふふっと笑ってしまう。
「みゆ先輩?何笑ってんすか?」
と、画面から私に視線を移す。
「え?あ、ご、ごめん。
百面相してる沢村君が可愛くて…つい」
ごめんごめん、と頭を撫でると手をぐっと掴まれる。
「……俺、ガキじゃねーんすけど」
マウンドで見せるような、真剣な表情。
ドキリと心臓が鳴る。
そんな目で見つめられると、勘違いしてしまいそうになる。
「ご…ごめ、ん。」
「わかってくれれば大丈夫っす!」
そう言い、いつもの沢村君に戻り先ほどまでの投球を見始めた。
高鳴る心臓を、私は止めることができずその場から離れた。
沢村君って…本当に私のこと好き?なの?
自分でも自意識過剰、かもしれないと思う。
…思うけど、思い当たる節も多々ある。
毎日、用もないのに教室に来ること。
毎回動画の撮影を私に頼むこと。
落ち込んでいる時は、ずっとそばに居てくれること。
いつも私を励ましてくれてること。
どことなく、私を呼ぶ声が優しげなとこ。
思い返せばばキリがない。
そこでふと気がついた。
私の日常には沢村君がいることが当たり前になっていたことに。
…………あれ?
そこで自分の気持ちに気づく。
あ、私、いつの間にか沢村君のこと好きになってたんだ…
「みゆせんぱーい!!!」
ブルペンから大声で私の名前を呼びながら、こちらに向かってものすごい形相で全速力で走ってくる沢村君。
…いや、待って。
まだ自分の気持ち自覚したばっかなの!
しかも沢村君も私のこと好きとか、確定してるわけじゃないし!?
そもそも今はまだ部活の時間だよね!?
他ごと考えてるなんて部員のみんなに失礼じゃん!!!
よし。今は気持ちを切り替えて…
「みゆ先輩!!!
俺ってみゆ先輩に、弟としか思われてないんすか!?
姉ちゃんになってって頼んだ記憶ないんすけど!!」
軽く息を弾ませながら、ノンブレスで言い終える。
「え?何でそれ…」
「さっきキャップが教えてくれました」
じり、と沢村君が近づく。
「えっと…そういう、わけじゃ…
(バカ御幸…なんで余計なこと、、)」
近づく沢村君とは対照に、私は一歩後ずさる。
「そんなこと言われても、嬉しくないんすけどね!!!」
更に一歩、近づいてくる。
「ごめん…あの時は、少しそう、思ってて…」
私もさらに後ずさるが、ガシャとフェンスにぶつかり行き止まり。
「………あの時、は?」
言ってから、しまったと思った。
「いや!待って違う!も!あの時も!そう、思ってた!」
必死に誤魔化そうとするが、もはやそれが既に怪しい。
これ以上後退りはできないが、それでも沢村君はお構いなしに近づいてくる。
私との距離が、腕一本分くらいにまで近づいた。
「…俺、期待しても、いいですか?」
いつも自信満々の沢村君が、俯きながら照れ臭そうにそう呟くから、彼の顔が無性に見たくなって、私はそっと両手で彼の頬を包む。
ビクッと沢村君の体が一瞬震え、すぐに私の両手の上から自身の手で包み返し、顔を上げる。
そして、目と目が合う。
「…みゆ先輩、顔、赤くないすか?」
優しく微笑みながら彼が言う。
「……私、御幸といちゃいちゃなんてしてないよ?」
「あれは、みゆ先輩と話す口実。」
「クリス先輩に、勝てる気もしないよ?」
「比べるもんじゃないっすよ。どっちもいちばんなんで」
「…沢村君に、いつもしてもらってばかり、だよ?」
「俺は、みゆ先輩が笑ってくれるならなんだってしますよ」
「弟なんて、言ってごめん…
………私も、沢村君が、好き」
「俺、まだ好きって言ってないんすけど…」
ニシシと笑う
「え、あ、本当だ…」
額をコツンと合わせ、2人で微笑む。
「みゆ先輩、俺も、好き。大好きっす!」
今、自覚したばかりのこの気持ちを大事にしようと思ったのはきっと、いつもまっすぐな君を見ているから。
君が真剣に応えてくれるってわかっているから、私も素直に言葉に出来たんだと思う。
君がいてくれるだけで、私はきっと、前向きになれるね。
私にこの気持ちをくれてありがとう。
ずっと、大切にしていくね。
1/3ページ