成宮 鳴
いい夢見てね
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「ちょっと見てよみゆ!」
鳴は、これでもかというくらいの笑顔でスマホの写真を私に見せる。
帝東高校の制服を着て友達とピースをする可愛らしい女の子が写っていた。
「まーた桜ちゃん?」
「そう!めっちゃ可愛くない!?やばくない!?」
「女子の私でも思う、可愛い」
だよねだよね、なんて更に満面の笑みになる鳴を見て
あぁ、鳴にこんなにも愛してもらえるのが羨ましい。
なんて、口にはしないが思ってしまう。
「こないだ桜と久々にデートしたんだけどさぁ」
と、話し始める彼を、私は微笑みながら見つめることしかできない。
鳴と桜ちゃんは、中学からの付き合いで、
高校で出会った私が鳴に恋した時にはとっくに恋人同士だった。
今となっては、仲良くなった私に、鳴はひたすら彼女の自慢をしてくる。
きっと私が鳴を好きだなんて、これっぽっちも思っていない。
だから、私がどんな思いで鳴の話を聞いてるかなんて、考えたことないだろうな。
知ったらきっと、鳴は私のそばから離れていく。
彼はそういう人間だ。
「……みゆ?どした?」
首を傾げて私の顔を覗き込んできた鳴に、
「え?なんで?」と答える。
「…なんか、難しい顔してた」
鳴は私の顔の真似をしているのか、目を細めて眉間に皺を寄せる。
こんなちっぽけなことでも、鳴が気にしてくれるのが嬉しい。
今は、今この瞬間だけは、彼女よりも私を優先してくれている。
そう思うと、顔が緩む。
「…本当にどうしたの。今度は顔、緩んでる」
今度は両手で私の頬を伸ばす。
「ひょ!ひょっと!いひゃいってば!」
「ぷぷぷ。何言ってるかわかりませーん」
笑って私の頬を伸ばし続ける鳴を、愛しいと思ってしまう。
私だけを見てほしいと、
私のものになってほしいと、思ってしまう。
どうしたら彼女と別れるの?
どうしたら彼女を嫌いになるの?
鳴の特別のなり方を教えてよ。
「おはよー、鳴」
「…ん、はよ」
あれ?なんかいつもと様子が違う。
「…どした?なんかあったー?」
マフラーを外しながら、後ろの席に座る鳴に話しかける。
「…別に」
スマホをいじりながら、
特段不機嫌な雰囲気を醸し出しているのに、なにもないわけないでしょ。
周りを見なよ。
みんな、怖すぎて近づけないって怯えてるよ。
「鳴、機嫌ワル。部活ー?」
私は気にせず話し続ける。
こんなこと別に珍しいことでもないし、私からしたらもう慣れた。
「…違う。」
スマホを触る指は止まらない。
部活じゃないなら、ないと思うけどあるとしたら…
「桜ちゃん?喧嘩でもした?」
そういうと、一瞬ピクっと反応するが、スマホを触る指を止めない。
「…別れたし、あんなやつ」
なんともなさそうな顔をして、鳴は爆弾を落とす。
………………………ハイ?
ワカレタシ、アンナヤツ………?
ワカ、レタ?
「はぁぁぁぁぁあ!!!?」
「ちょっ、うるさっ」
さすがの鳴もスマホから手を離し耳に手を当てた。
「え!や、あ、ごめ、ん。つい」
え、だだだだだって、別れたって?え?
なんで?意味わからん、は?
ちょっと前まであんなに惚気てたのに?
え?急に別れたって?なんで?
あれ?でもいやまてよ?
てことは今鳴はフリーなわけ?
じゃあ私にも十分チャンスが?
なんて、ひとりで考えていると
「あははっ、なんでみゆがそんな動揺してんのさ」
片手で頬を潰される。
あーオモシロ、なんて空いた手で目元を拭う仕草をするから
「…鳴、泣いてる?」なんて聞けば、
「今みゆに泣かされた」って嘘か冗談かわかんない。
「浮気してたらしいよー、あいつ」
私の頬から手を離し、再びスマホをいじりながら私に画面を見せる。
「向こうの学校の人だって」
鳴に見せられた写真には、
笑顔で知らない男子と腕を組む見慣れた女の子が写っていた。
「なんか言い訳してきたけど、もう無理っつって別れた」
「…そう、なん、だ」
少しだけ喜んでしまっている自分を必死に隠す。
「挙句の果てには、
俺が野球ばっかで寂しい思いさせるのが悪いー
って、逆ギレ。まじ、意味わかんないし」
そう言った鳴は、今にも泣き出しそうだった。
「別れて正解。無駄だったよ今までの時間も」
そんな辛そうな顔しないでよ。
そんな傷ついたような顔、しないで。
「……でも、大好きだったじゃん」
私が言うと、鳴は悲しそうに笑って
「…うん。大好きだったよ」
と机に顔を伏せた。
鳴がこんな辛そうなのに、
一瞬でも"別れて嬉しい"なんて思ってしまった自分を殴りたい。
鳴が別れたら、私の方を見てくれる
鳴の特別に、次は私がなれる
なんて、本気で思っていた自分が恥ずかしい。
私は何も言えなくて、黙って鳴の頭を撫でることしかできなかった。
こんなに傷つく君を見るなら、
彼女のことを考えて、
幸せそうに笑う君を見る方が何百倍もマシだった。
お願いだから、笑ってよ。
悲しむ顔が見たかったわけじゃない。
私が臨んだ展開のはずなのに、これっぽっちも嬉しくないのはなんでだろう。