成宮 鳴
いい夢見てね
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「樹、こないだの練習試合の前日って鳴さんのケアって誰だった?」
「えーっと、福さんだったと思うけど。なんかあった?」
「やっぱりそうかー。
福さんと組むと、次の日めっちゃ体軽いって言ってたからさぁ、ぐふぇ」
樹の隣の席に腰掛け話をしていると、急に背中に体重がかけられる。
「なになにぃー。2人して、教室でもエース様の話?
いやぁ。人気者は困っちゃうねぇ」
と、先ほどまでの話題の張本人が私に覆いかぶさるように抱きつきながらご登場。
「…鳴さん、重いから離れてください。
あと、なんでまた1年の教室いるんですか」
「さん付けやめて!
離れない!いちゃダメなの!?」
ブーブーと文句を言いながら、一向に離れる気配はない。
「樹ごめん、ちょっと鳴さんと外出るね」
鳴さんいきますよと、首からまわされる腕を指で攻撃して席を立つ。
「樹」
「なんですか?鳴さ…」
鳴は、樹をジロリと睨みそして小声で
「みゆに手だしたら樹でも容赦しないよ」と言い
最後は笑顔で教室を出ていった。
「…鳴さん、隠す気あるのか?」
心配そうに教室から出て行く2人を見つめながら、つぶやいた。
「みゆ〜、どこまで行くのー?」
「………」
「ねぇ、みゆってばぁ」
「…鳴さん」
屋上までの階段を上がりきったところで、前を歩く私はくるりと踵を返し、
後ろを歩くへらへらとしているわがままな王様を見た。
「隠す気、ありますか…?」
そして冷たく、呆れたように言い放った。
私は野球部のマネージャーであり、鳴さんの彼女でもある。
野球が大好きで、稲実でも野球部に入ろうとしたが
女子部員は入部できないという噂を聞き、国友監督に直談判しに行った。
監督曰く、入部できないのではなく、今まで数人は入部していたが、
厳しい練習のサポート業務を行えず、
全員が2、3日で辞めていってしまったのが、女子部員を入部させないための嫌がらせだ、
という解釈に変わり、勝手に噂が事実かのように広まっていったそう。
「お前は根性ありそうだな。野球部としては大歓迎だ」
と言ってくれたのが嬉しくて、その場で入部届を出した。
そこで鳴さんと出会い、鳴さんからの猛烈なアタックを受け断り続けたが、
彼の根気に負け、付き合うことになったのがつい半年ほど前のこと。
だけど、なにせ鳴さんは超がつくほどの有名人だ。
付き合っているとバレれば、
学校中の鳴さんファンからのブーイングやら嫌がらせやらが酷いだろうと考え、
私から鳴さんに内緒にしたいと提案した。
彼の性格からして素直に聞き入れてくれるはずはないと思っていたから、
せめて野球部員に止めてほしいと言って、しぶしぶ交渉成立。
一応、野球部のみんなには口止めしてある。
みんなのおかげもあるのか、
多少スキンシップが多くても、マネージャーだから仲が良いと思われる程度で、
他の生徒には付き合っていることがバレている感じはない。
それなのに…
この人は懲りずにさっきも堂々とみんなの前で抱きついたりして…
鳴さんは、すとんと階段に腰掛け、あぐらをかく。
そして、ここに座れと膝を叩く。
抵抗はあったが、
ぶすーっとしかめっ面をした彼の機嫌をこれ以上損なうのは得策ではないと考え、
周りを見て誰もいないことを確認し、彼の指示した場所へと座り込む。
すると、ぎゅーっと強く抱きしめ、胸に顔を埋める。
「ちょっ!鳴さん!?」
引き離そうとするがさすが野球部員。びくともしない。
「さん付けはやめてって言ったじゃん」
「…学校では、さすがに無理ですよ」
「今は、2人だけど」
「……そう、ですけど」
「あと、敬語もやめてよ」
埋めた顔を離し、今度は逆にじっと見つめられる。
不覚にも、その顔にドキリと心臓が鳴る。
「……わかっ、た」
「てか俺、みゆの言う通り約束守ってこの半年結構我慢したよ!?
まだダメなの!?堂々とイチャつきたいんだけど!?」
「!?それは、まだ、ダメ。というか、ずっと…ダメ。
無理、だよ…」
俯きながら、弱々しく囁く。
バレたら、女子に恨まれる。それがとてつもなく怖い。
過去の思い出が蘇り、体が震える。
中学時代、友達の好きだった同じ野球部の子から相談があると言われたので、
2人で出かけたところ別れ際に抱きつかれ、告白された。
もちろんすぐに離れて断ったが、抱きつかれたところを別の子に見られていて、
次の日から友達に無視されるようになり、
他の女子たちからも陰口を叩かれるようになった。
『友達の好きな人と2人で出かけるなんて最低』とか、
『こっそり付き合って嘲笑ってたんでしょビッチ』
などの手紙が毎日下駄箱や机に入れられ、
酷い時には、体操服に油性ペンでビッチと書かれていた。
弁解しようと何度も友達に連絡をしたが、
返事が来ることもなく、言葉を交わすことも出来なかった。
卒業までの5ヶ月は、本当に地獄の日々だったと今でも思う。
だから、同じ中学からは誰も通っていない高校を選んだ。
過去のことは誰も知らないけれど、鳴と付き合った以上は
いつかまた、あんな経験をしなければいけないかもしれないと思うと、
恐怖で体が強張る。
そんな私に気付いたのか、鳴はもう一度ぎゅっと力強く、だけどどこか優しく抱きしめ、
「俺は、みゆが好きだよ。
可愛くてしっかり者で優しくて、
俺のこといつもいちばんに考えてくれる、そんなみゆが大好き」
と、つぶやく。
「…私、も。鳴が、好き。好きだけど…」
「だから俺は、誰にも取られたくないし、取られる気もないけど、
みんなに自慢したいんだ、みゆは俺の彼女だー!って」
私の大好きな顔で、ニヤっと笑う。
それが嬉しくて安心して、心強い。
「みゆがさ、何でそんなに内緒にしたいのかわかんないけど、
理由があるなら無理にとは言わない。
このまま、言わないことをみゆが望むならきちんと守る、約束する。
みゆがいつも俺をいちばんに思ってくれてるみたいに、
俺だって、みゆのことをいちばんに思ってるからね?
もちろん、悲しませることはしたくないし、泣かせたくも、ないよ」
「うっぐ…うっ、ひっく、」
その言葉を聞くと同時に、涙が溢れた。
鳴の言葉が私に染み込み、優しさが私を安心させる。
「ちょっと!!!言ったそばから、泣かないでよ!」
と笑いながら私の涙を指で拭う。
「うれっ、し、…涙、だかっら、いい、のっ…」
そう言い終えると同時に、鳴を強く抱きしめる。
「鳴…。好きに、なってくれてありがとう。…大、好き、だよ」
そういうと、鳴は私の顔を両手で包み
「…言ったそばから悪いんだけど、、、今日だけ。
今、キスしてもいい?」
申し訳なさそうに、だけど照れ臭そうに聞いてくれる鳴が愛しくて、
私はコクリと頷いた。
そして、鳴の唇が私の唇と重なった。
いつか私に自信がついたら、鳴に話したい。
そして、みんなに自慢したいんだ。鳴は、私の彼氏だって。
鳴といれば、私も強くなれるかな。
一緒に、強くなっていきたい。
だから、もう少しだけ待ってて。
強くなれる、その日まで。