成宮 鳴
いい夢見てね
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ー5年後 23歳現在ー
大学を卒業し、東京に戻ってきてから病院で栄養士として働き始めて
9ヶ月が経とうとしていた。
世間はクリスマスや年末を迎えようと賑わい始めている。
ある日突然、実家から1通の手紙が届いた。
『先日、届きました。あなた宛の手紙だったので、そのまま送ります』
便箋の中には、母親からの手紙と別の封筒が入っていた。
誰からだろう…差出人の名前もない。
恐る恐る中を開けると、1枚の紙が入っていた。
『みゆへ
久しぶり。卒業してから5年くらい経つけど、元気にしてる?
俺は、知ってると思うけど
一軍で一也とバッテリーを組んで、バリバリ活躍してるよ。
当たり前だけどね!
突然の手紙で、驚いているよね?
5年も音沙汰なかったのに、急に何だよって思ってるかも…
それでも、俺はみゆと会って話がしたい。
みゆの今のことはわからないから、
もしかしたら既に新しい恋人とか、いるかもしんない。
いたら、この手紙は捨てていーよ。
もう、終わったことだって忘れてよ。
でももし、みゆも俺と同じ気持ちでいてくれてるなら、
1/5の17時に稲実公園まで来てほしい。』
そして、最後には『成宮 鳴』の文字。
突然の知らせに驚き、夢か現実がわからなくなる。
でも、確かに鳴の名前で、鳴の字で書かれている。
『会いたい』と、思っていてくれたことが嬉しくて、だけど、
あんなに会いたいと願っていたのにいざ会えると思うと、
気持ちの整理がつかなくなる。
鳴…私、鳴に伝えたいことがたくさんあるの。
今なら、本当の気持ちを伝えても、いいのかな。
当日、指定の時間より少し早く着いた。
あたりを見渡すと、画面越しによく見ている背格好の男性を見つける。
「め…い…?」
今にも消えそうな声でささやく。
そんな声に気付き、男性はこちらに振り向く。
「みゆ!」
私の大好きだった声で、笑顔で、名を呼ぶ。
そしてこちらへ向かって歩いてくる。
一歩、また一歩と近づいてきて、2人の距離が少しずつ縮まる。
「鳴…。鳴、、鳴っ!!!!!」
我慢できずに走り出す。
この5年間、触れたくても触れられなかった、
会いたくても会えなかった最愛の人に飛びつく。
「みゆ、痛いってば」
そう言い笑いながら、飛びついた私を優しく抱きしめる。
「…やっぱり来てくれた」
子供みたいに泣きじゃくる私の背中を、とんとんとさすりながら、
少しだけ安心したように呟く。
「鳴…ごめん。ごめ、んっ。ごめん…」
本当は、謝りたいわけじゃない。
言いたいことがたくさんあるの。
伝えたい気持ちが、ある。
会えたらあれを話そう、とか、これを伝えよう、とか
たくさん考えていたのに、ただただ謝ることしかできない。
あの時、本当のことを言えなくてごめん。
まだ、鳴のことを好きでごめん。
鳴のことを、忘れられなくてごめん。
「んーん。俺も、わかってた、から…。
っ俺、も…本当、は、ずっと…」
鳴、泣いて…る?
そっと顔を上げると、顔を見られまいと上を向いているが、
顎から首にかけて水滴が光る。
「…来てくれるって心のどこかでは、思ってたけど。
本当に今、こうやって会えて、触れたら、なんか急に、実感して」
ズズっと鼻を啜り、上に向けていた顔を戻すと、
今にも触れてしまいそうな距離に鳴の顔がくる。
「みゆ、ちゃんと俺の活躍見てんの?」
ニッと、学生時代と変わらない顔で、目に涙を溜めながら笑う。
「いつも、見てるよ」
「俺のグッズとか出てるけど、持ってる?」
額をくっつけ、目を細める。
「全部、買ってる」
「えー!俺のこと、大好きじゃん」
無邪気な顔で、また笑う。
「出会ったときから、今でもずっと大好きだよ」
「俺のこと…忘れなかった?」
目を閉じて、問う。
「忘れたくても、忘れることなんて、できなかった」
「…遅くなって、ごめん。
プロのチームでエースになるのにこんなかかると思わなかった」
ぎゅっと強く抱きしめる。
「え?」と、驚いて顔を上げると、
「え!逆にえ?って何!?」と鳴が驚く。
「え…だって、遅くなって、ごめん…って、なん、で…?」
「あれ?俺言わなかった?迎えにくるって」
「………そんなこと、言われてない。」
あの日のやりとりを、何度思い出してもそんなこと言われた記憶はない。
「いーや!絶対に言ったね!!!
みゆ以外で、野球より好きなものなんてないって言ったはずだよ」
「た、確かにそれは言われた!けど…」
「ほら!言ってんじゃん!!!」
それみたことかと言わんばかりのドヤ顔
「いやいやいや!そんなの、迎えにくるって意味にならないから!」
「それは、みゆがおバカなだけでしょ?
普通は察するでしょ」
いやー、本当にみゆはニブちんだなぁ、
なんて呆れた顔で私を見下ろす。
ということは、待ってれば必ず鳴に会えたってこと?
私がずっと捨てきれなかった気持ちも、消そうとする必要なんてなかったの?
私がこの5年間、鳴には2度と会えないって悲しんでた時間はいったい…
あ、アホらしすぎるんだけど……
あれで私に伝わったと思い込んでいる鳴も、
だだひたすらに鳴を思って、過ごしていた自分も。
「…ふっ。ふふ。あはははは」
「なっ、なに急に笑ってんの?怖いんだけど!!!」
「バカ!バカ!鳴の大バカ!!!!!」
筋肉で厚みのある胸を手でぺちぺちと叩く。
「な、なんだよそれ!
俺が今日、迎えにくるまでどれだけ頑張ったと思って…!!!」
「わかってるよ。鳴の頑張りをずっと見てたから。
……鳴、会いたかった。」
もう一度、今度は私からぎゅっと抱きしめる。
「………うん。遅くなって、本当にごめん。」
鳴が、答えるかのように私を抱きしめ返す。
「本当はね、言いたいこと、たくさんあったの。
伝えたいことも、たくさん、あったの。」
「うん、聞かせてよ。」と優しく囁く。
「あの日ね、私も…鳴のことが大好きだって、
離れないでそばにいてほしいって、本当は言いたかった。」
「…うん。」抱きしめる力が少し強くなる。
「でも、言ったら鳴を困らせると、思って…言えなかった。」
「…わかってたよ。みゆは、そういう人だもん。
そんなみゆだから、俺は好きになったんだよ」
「…あのね。
5年間、私がずーっと鳴のことを思ってたってのも、知ってた?」
私は、涙をためた瞳でにやりと鳴を見る。
「そうだったら、いいなって思って過ごしてたよ」
ニヒヒ、と鳴もいたずらっ子のような表情で私を見つめ返す。
「みゆ、別れよう。なんて、言ってごめん。
俺がもっと強かったら、あの日、別れなくてもすんだのかな。」
鳴は、寂しそうに笑った。
「んーん。私だって、鳴にあんなことを言わせてごめん。
私も、弱かったよ。
本当のこと、鳴に言えないくらいにね。」
きっと、私も寂しそうに笑っていたと思う。
「今なら、誰よりもみゆを大事にできる自信しかないよ、俺。
あんな思い二度としたくないし、させない。
だからさ…、みゆ。もう一回、俺と付き合ってほしい。
今までそばにいれなかった分、これからはずっと一緒にいたい」
真剣な表情で、丁寧に気持ちを伝えてくれる。
「…そんなの、私だって、同じ、気持ち、だよ…。
私も、鳴と…一緒にいた、いよ…」
二度と鳴に伝えることが出来ないと思っていた気持ち。
あの日の私たちが、伝えたくても伝えられなかったことを、今は伝えてもいいんだ。
伝えて、受け止めることが出来るぐらいには、強くなれたのかな。
そう思えることが何よりも嬉しくて、涙がとめどなく溢れる。
「みゆは相変わらず泣き虫だなぁ。
一生俺がそばにいてやんねーと、泣き止まないじゃん!」
嬉しそうに笑いながら、あの頃とは違ったゴツゴツした指で私の涙を拭う。
「…っ鳴、好き。大好きっ」
何度言っても、足りない。
鳴を好きだと、伝えたくて仕方がない。
「俺も、みゆが大好きだよ」
そう言って、どちらからでもなくキスをした。
2人の空白の時間を埋めるように、何度も何度も。
5年前の私は、こんな展開になるって予想してたかな?
鳴を忘れられなくて、泣くことしかできなかったよね。
弱い自分が大嫌いで、毎日辛かったね。
だけどね、今の私はすごく幸せだよ。
もう少しの、辛抱だよ。
もう少し頑張れば、鳴に会えるから。
鳴を信じて待っててあげて。
そしたら最後は、必ず笑える日が来るから。