ヒロインの名前
お姉ちゃんは心配性
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その女 はノックもせずに勢いよく病室のドアを開けた。ここまで走ってきたのだろうか、肩が上下するほど息づかいが荒い。
カー坊は突然の闖入者の姿を捉えると『げっ』と言いたげに顔を強ばらせた。『知り合いか?』と声をかけようとした時には女はベッドの上で胡座をかいているカー坊に駆け寄り抱きしめたかと思うと、
「和弘くん!」
その名を叫びさめざめと泣き出したではないか。
「ちょ、やめろちゃ……」
カー坊は明らかに困惑しているが、構うことなく涙ながらに語り出す。
「やけ、うちは反対したんよ。いくらお父さんの後継ぎたいからって、博多の最強 取ろうやなんて」
台詞の内容と、高校生かその少し上くらいに見える外見から判断すると、この女 はカー坊の姉ちゃんということになるのか。そういえば聞いたことあったっけ。姉がいるとかいないとか……。
しかし、目つきが鋭く気性の荒いカー坊と、目の前の、笑顔より物思いに沈んだ表情が似合だろう瓜実顔の美人が血を分けた姉弟とはにわかに信じがたく、思わず岡島と顔を見合わせる。
「鼻と喉の次は歩けんくなるなんて……。そんなこと、あんまりたい……」
「姉ちゃん、あのな……」
「来てくれたんか、姉ちゃん」
背後から湿り気を含んだ声がした。
そうだ、この部屋にはもう一人いたのだ。
カー坊の実の兄、『傷だらけのローラ』こと真島秀樹。
この女 がカー坊の姉ということは、即ちローラの姉でもあるのだ。
「俺も一応怪我人やけど、俺の心配はしてくれんのかのう」
振り向かずとも、ローラの視線が俺の背面を蛇のように這いまわり、俺と岡島の間をすり抜けていくのがわかった。そのままお姉さんの背中にまとわりつくかと思ったが。
お姉さんはゆっくりと振り向いた。今まで泣いていたのが嘘のようにその瞳は乾いて、怒りに燃えている。
俺にははっきりと見えた。お姉さんの前に氷の壁が立ち塞がり、ローラが放った蛇をはねのけたのだ。
「……秀樹」
お姉さんもまた低い声でもう一人の弟の名を呼んだ。立ち上がってローラを真正面に見据えたまま歩み寄る。
「あんたがついていながら、和弘くんにこげん大怪我させて……。どういうことか説明してもらおか」
氷の壁は既になく、ローラとお姉さんの視線が真っ向から絡み合って火花を散らす。
この兄にしてこの姉あり、というわけか。
「カー坊よ。貴様 とこの家族は皆こげん感じとや?」
「兄貴と姉貴だけちゃ……」
「二人もおったら充分ですよ」
げんなりしているカー坊に岡島が追い打ちをかけた。
ローラが語った内容は俺にしてみればほぼ既知の事実だったが、九里虎狩りにドラッグの利権が絡んでいたことには驚いた。カー坊も知らなかったようで、中坊一人捕らえるだけなのに信じられないと言いたげな視線を兄に送る。
しかしお姉さんにとってはそんなことは大したことではないのか、険しい表情を崩さない。
ただ一度、カー坊が兄を追って氾濫する川に自ら飛び込んだ件になると、右の眉が大きく吊り上がった。
ローラの話が終わると、病室は沈黙に包まれた。
お姉さんはしばらくローラを睨みつけたままだったが、やがてカー坊の方に向き直り徐に口を開いた。
「和弘くん」
「……何ち」
「こげん身体になっても、真島組に入るつもりと?」
改めて進退を問われ、カー坊は力強く頷いた。
「秀樹、あんたもそれでよかと?」
「俺の気持ちは変わらん。二代目はこいつっちゃ」
「そっか……」
お姉さんはやっと表情を緩め、ほうっと息を吐いた。
その時、お姉さんと目が合った。
「……」
「……」
この場に真島家の三きょうだい以外の人間がいるとは思ってもいなかったのだろう。今初めて俺と岡島の存在に気づいたお姉さんに、まん丸な目で凝視される。
「……あの、どちら様?」
「どちら様と言われましても……」
カー坊との関係性を問われても何と答えて良いのやら。
「てかこの子ら、いつからおったと?」
「姉ちゃんが来る前からおったわ……」
お兄ちゃんは、九里虎を『一億円の男』と呼び殺 る気満々だったにも関わらず、弟の顔を見るや全てを投げうって弟とのタイマンに臨んだというのなら。
カー坊よ。
貴様 のお姉さんは、弟以外目に入らないところがお兄ちゃんとそっくりだな。
カー坊は突然の闖入者の姿を捉えると『げっ』と言いたげに顔を強ばらせた。『知り合いか?』と声をかけようとした時には女はベッドの上で胡座をかいているカー坊に駆け寄り抱きしめたかと思うと、
「和弘くん!」
その名を叫びさめざめと泣き出したではないか。
「ちょ、やめろちゃ……」
カー坊は明らかに困惑しているが、構うことなく涙ながらに語り出す。
「やけ、うちは反対したんよ。いくらお父さんの後継ぎたいからって、博多の
台詞の内容と、高校生かその少し上くらいに見える外見から判断すると、この
しかし、目つきが鋭く気性の荒いカー坊と、目の前の、笑顔より物思いに沈んだ表情が似合だろう瓜実顔の美人が血を分けた姉弟とはにわかに信じがたく、思わず岡島と顔を見合わせる。
「鼻と喉の次は歩けんくなるなんて……。そんなこと、あんまりたい……」
「姉ちゃん、あのな……」
「来てくれたんか、姉ちゃん」
背後から湿り気を含んだ声がした。
そうだ、この部屋にはもう一人いたのだ。
カー坊の実の兄、『傷だらけのローラ』こと真島秀樹。
この
「俺も一応怪我人やけど、俺の心配はしてくれんのかのう」
振り向かずとも、ローラの視線が俺の背面を蛇のように這いまわり、俺と岡島の間をすり抜けていくのがわかった。そのままお姉さんの背中にまとわりつくかと思ったが。
お姉さんはゆっくりと振り向いた。今まで泣いていたのが嘘のようにその瞳は乾いて、怒りに燃えている。
俺にははっきりと見えた。お姉さんの前に氷の壁が立ち塞がり、ローラが放った蛇をはねのけたのだ。
「……秀樹」
お姉さんもまた低い声でもう一人の弟の名を呼んだ。立ち上がってローラを真正面に見据えたまま歩み寄る。
「あんたがついていながら、和弘くんにこげん大怪我させて……。どういうことか説明してもらおか」
氷の壁は既になく、ローラとお姉さんの視線が真っ向から絡み合って火花を散らす。
この兄にしてこの姉あり、というわけか。
「カー坊よ。
「兄貴と姉貴だけちゃ……」
「二人もおったら充分ですよ」
げんなりしているカー坊に岡島が追い打ちをかけた。
ローラが語った内容は俺にしてみればほぼ既知の事実だったが、九里虎狩りにドラッグの利権が絡んでいたことには驚いた。カー坊も知らなかったようで、中坊一人捕らえるだけなのに信じられないと言いたげな視線を兄に送る。
しかしお姉さんにとってはそんなことは大したことではないのか、険しい表情を崩さない。
ただ一度、カー坊が兄を追って氾濫する川に自ら飛び込んだ件になると、右の眉が大きく吊り上がった。
ローラの話が終わると、病室は沈黙に包まれた。
お姉さんはしばらくローラを睨みつけたままだったが、やがてカー坊の方に向き直り徐に口を開いた。
「和弘くん」
「……何ち」
「こげん身体になっても、真島組に入るつもりと?」
改めて進退を問われ、カー坊は力強く頷いた。
「秀樹、あんたもそれでよかと?」
「俺の気持ちは変わらん。二代目はこいつっちゃ」
「そっか……」
お姉さんはやっと表情を緩め、ほうっと息を吐いた。
その時、お姉さんと目が合った。
「……」
「……」
この場に真島家の三きょうだい以外の人間がいるとは思ってもいなかったのだろう。今初めて俺と岡島の存在に気づいたお姉さんに、まん丸な目で凝視される。
「……あの、どちら様?」
「どちら様と言われましても……」
カー坊との関係性を問われても何と答えて良いのやら。
「てかこの子ら、いつからおったと?」
「姉ちゃんが来る前からおったわ……」
お兄ちゃんは、九里虎を『一億円の男』と呼び
カー坊よ。