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わしのかわいい麻美ちゃん
九里虎から電話がかかってきたのは一時間前のこと。
『麻美ちゃん、元気にしとーと?』
『昨日会ったばっかりでしょ』
『にゃはは、そうじゃったそうじゃった』
どの女と間違えたのだか。しかしそんなことでいちいち傷ついているようでは、この男の相手などできない。
『左眼、もう痛うなか?』
『……うん』
『ちっとヤボ用済ませたらそっちに行くばい』
『えっ、今から!?』
聞き返した時には既に電話は切れていた。
ため息をつきながらも、散らかった部屋に彼の座るスペースを作るためにやれやれと立ち上がる。
振り回されることはもはや慣れっこだった。
『わしの七人目の彼女になってくれんか?』と口説かれた時から、ずっと。
ピンポーン。
インターホンが鳴ったので、急いで玄関に向かう。ドアスコープから覗くと、もじゃもじゃのパーマにサングラスに花柄のシャツ、どうひいき目に見てもチンピラ然とした男が、花木九里虎が満面の笑みを浮かべて立っている。
「麻美ちゃ~ん!」
ドアを開けるなり抱きついてきた。やけに機嫌がいい。昨日、私が泣きながら『あのこと』を話した時は、今までにないくらい怒っていたのが嘘のようだ。
九里虎は勝手知ったる他人の家とばかりに部屋に上がるとクッションの上にどっかりと胡坐をかき、サングラスを外し素顔を晒した。二人きりの時はサングラスを外してもらうようにお願いしたからだ。
私が差し出した缶ビールを受け取り、あっという間に飲み干した。
「やっぱりビールはうまかね~」
「グリちゃん、何かいいことあった?」
「ん?」
「だってご機嫌だから」
「あー、ええことっちゅうか……」
少し困ったように頭を掻いたが、すぐに調子のいい笑顔で『大したことじゃなか!』と続けたので、それ以上は聞かなかった。九里虎は多くは語らないし、彼の言いたがらないことを根掘り葉掘り聞き出す権利など自分にはないことくらい、理解しているつもりだ。
「ちっと左眼見せんしゃい」
「え、やだよ……」
私の返事を聞く前に眼帯に手をかけていた。
上下の瞼は内出血を起こして赤黒く腫れ上がっている。そのせいで、左眼ではほとんど見えていない。自分でも直視したくないほどの不気味な顔面を彼氏に見られるのは、結構キツイ。思わず開いている方の目を伏せた。
「こげんに腫れてもーて……」
外見からは想像もできないくらいのやさしさと哀れみのこもった声。いつもはへらへらちゃらちゃらしてるくせに。
居心地が悪いような面映ゆいような。
視線を合わせられない。
「あんまり見ないで」
「何でじゃ」
「グロいでしょ」
「何ば言いよっと」
肩を掴まれ、力づくで引き寄せられる。九里虎の顔が、お互いの鼻がぶつかるくらいの距離まで近づいた。真剣なまなざしが私を射抜く。
「わしのかわいい麻美ちゃんが、グロいわけなか」
有無を言わさない口調に圧倒され、眼帯を戻すことも忘れてしまう。
「麻美ちゃん」
唇を重ねたかと思うと硬直した私の身体をゆっくり押し倒し、舌を絡ませながらのしかかってくる。太ももの間に硬いものが押し当てられる。
勃起してる? こんな顔なのに?
「わしのかわいい麻美ちゃん」
唇から離れ、首筋、鎖骨とキスの場所が下がってくる。片手で服の上から私の胸をまさぐりながらもう片方の手はシャツの中に侵入しブラジャーのホックを外しにかかる。
「ちょっと、グリちゃん、待って」
眼帯を下ろしながら慌てて制止の声を上げると、シャツを脱がしにかかろうとした手の動きが止まる。
「ああ、ベッドがよかね」
抱き上げられたかと思うとすぐ横のベッドの上に降ろされ、再び覆い被さってくる。
「いや、そうじゃなくって……」
「何や?」
キョトンとした顔で覗き込まれる。
「だってこんな……」
こんな顔でよくその気になるね、と喉まで出かかったけれど。
『わしのかわいい麻美ちゃん』
「……何でもない」
「ならよかばい」
片眼が腫れ上がったひどい顔なのに、何のためらいもなく『かわいい』と言われて嬉しくない女がどこにいるというのだ。
「グリちゃん」
広い肩に腕を回してしがみつく。髪の下に埋もれている耳に唇を寄せ、精一杯甘えた声で囁いた。
「もっとかわいいって言って」
「おう、何回でも言うちゃるばい」
九里虎の唇が眼帯に軽く触れる。それだけで、左眼にまつわる怖い記憶はすべて吹き飛んだ気がした。
「わしのかわいい麻美ちゃん」
この後、一晩中『わしのかわいい麻美ちゃん』と囁かれることも、いつも以上に丁寧に愛されて身も心も溶かされて『もう一回して』と恥ずかしいおねだりすることも、この時の私は知らない。
九里虎から電話がかかってきたのは一時間前のこと。
『麻美ちゃん、元気にしとーと?』
『昨日会ったばっかりでしょ』
『にゃはは、そうじゃったそうじゃった』
どの女と間違えたのだか。しかしそんなことでいちいち傷ついているようでは、この男の相手などできない。
『左眼、もう痛うなか?』
『……うん』
『ちっとヤボ用済ませたらそっちに行くばい』
『えっ、今から!?』
聞き返した時には既に電話は切れていた。
ため息をつきながらも、散らかった部屋に彼の座るスペースを作るためにやれやれと立ち上がる。
振り回されることはもはや慣れっこだった。
『わしの七人目の彼女になってくれんか?』と口説かれた時から、ずっと。
ピンポーン。
インターホンが鳴ったので、急いで玄関に向かう。ドアスコープから覗くと、もじゃもじゃのパーマにサングラスに花柄のシャツ、どうひいき目に見てもチンピラ然とした男が、花木九里虎が満面の笑みを浮かべて立っている。
「麻美ちゃ~ん!」
ドアを開けるなり抱きついてきた。やけに機嫌がいい。昨日、私が泣きながら『あのこと』を話した時は、今までにないくらい怒っていたのが嘘のようだ。
九里虎は勝手知ったる他人の家とばかりに部屋に上がるとクッションの上にどっかりと胡坐をかき、サングラスを外し素顔を晒した。二人きりの時はサングラスを外してもらうようにお願いしたからだ。
私が差し出した缶ビールを受け取り、あっという間に飲み干した。
「やっぱりビールはうまかね~」
「グリちゃん、何かいいことあった?」
「ん?」
「だってご機嫌だから」
「あー、ええことっちゅうか……」
少し困ったように頭を掻いたが、すぐに調子のいい笑顔で『大したことじゃなか!』と続けたので、それ以上は聞かなかった。九里虎は多くは語らないし、彼の言いたがらないことを根掘り葉掘り聞き出す権利など自分にはないことくらい、理解しているつもりだ。
「ちっと左眼見せんしゃい」
「え、やだよ……」
私の返事を聞く前に眼帯に手をかけていた。
上下の瞼は内出血を起こして赤黒く腫れ上がっている。そのせいで、左眼ではほとんど見えていない。自分でも直視したくないほどの不気味な顔面を彼氏に見られるのは、結構キツイ。思わず開いている方の目を伏せた。
「こげんに腫れてもーて……」
外見からは想像もできないくらいのやさしさと哀れみのこもった声。いつもはへらへらちゃらちゃらしてるくせに。
居心地が悪いような面映ゆいような。
視線を合わせられない。
「あんまり見ないで」
「何でじゃ」
「グロいでしょ」
「何ば言いよっと」
肩を掴まれ、力づくで引き寄せられる。九里虎の顔が、お互いの鼻がぶつかるくらいの距離まで近づいた。真剣なまなざしが私を射抜く。
「わしのかわいい麻美ちゃんが、グロいわけなか」
有無を言わさない口調に圧倒され、眼帯を戻すことも忘れてしまう。
「麻美ちゃん」
唇を重ねたかと思うと硬直した私の身体をゆっくり押し倒し、舌を絡ませながらのしかかってくる。太ももの間に硬いものが押し当てられる。
勃起してる? こんな顔なのに?
「わしのかわいい麻美ちゃん」
唇から離れ、首筋、鎖骨とキスの場所が下がってくる。片手で服の上から私の胸をまさぐりながらもう片方の手はシャツの中に侵入しブラジャーのホックを外しにかかる。
「ちょっと、グリちゃん、待って」
眼帯を下ろしながら慌てて制止の声を上げると、シャツを脱がしにかかろうとした手の動きが止まる。
「ああ、ベッドがよかね」
抱き上げられたかと思うとすぐ横のベッドの上に降ろされ、再び覆い被さってくる。
「いや、そうじゃなくって……」
「何や?」
キョトンとした顔で覗き込まれる。
「だってこんな……」
こんな顔でよくその気になるね、と喉まで出かかったけれど。
『わしのかわいい麻美ちゃん』
「……何でもない」
「ならよかばい」
片眼が腫れ上がったひどい顔なのに、何のためらいもなく『かわいい』と言われて嬉しくない女がどこにいるというのだ。
「グリちゃん」
広い肩に腕を回してしがみつく。髪の下に埋もれている耳に唇を寄せ、精一杯甘えた声で囁いた。
「もっとかわいいって言って」
「おう、何回でも言うちゃるばい」
九里虎の唇が眼帯に軽く触れる。それだけで、左眼にまつわる怖い記憶はすべて吹き飛んだ気がした。
「わしのかわいい麻美ちゃん」
この後、一晩中『わしのかわいい麻美ちゃん』と囁かれることも、いつも以上に丁寧に愛されて身も心も溶かされて『もう一回して』と恥ずかしいおねだりすることも、この時の私は知らない。
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