刃牙その他
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「先生、すみませんがその指示には従えません」
克巳は指導員に向かってはっきりと言ってのけた。
中高生から指折りの実力者が十人集められ―その中には加藤清澄、末堂厚もいた― 、克巳と十人組手をやれと命じられた時、一同の間に戸惑いと戦慄が走った。
独歩がスカウトしてきたと鳴り物入りで入門してから数年、小学生ながら大人達に混じっていっぱしに稽古し、時に独歩から直接指導を受ける克巳のことをよく思わない者は少なくない。加藤もその一人だが、だからといって理不尽なシゴキに加担する気はさらさらない。
しかも自分の手は汚さず、逆らえない未成年の門下生に手を下さそうとするところがもっと気が食わない。
周りの少年達はどうしようと顔を見合わせている中、腹に据えかねて「嫌です」と言ってやろうとしたが、先を越されてしまった。
まさか拒否されるとは思ってもなかったようで、指導員はぽかんと間抜けな顔を晒していたが、すぐに「従えないとはどういうことだ!」と吠えた。
「僕に稽古をつけてくれるなら、直接『ご指導』お願いします。それに」
しかしそれには全く意に介さずにこやかに答え、悪びれもなく付け加えた。
「さすがの僕も、十人相手はキツイので」
その後、加藤の援護射撃(「それじゃあ俺ら帰っていいすか?」)もあり、克巳と指導員を残して少年達は解散となった。
「今頃シゴかれてんのかなあ」
本部会館の近くのラーメン屋でラーメン半チャーハンセットをあっという間に平らげ末堂が呟いたが、加藤は黙ってチャーハンを飲み込む。
そんなことは言われなくてもわかっている。
あの男は目下の者には威張り散らすくせに、館長の前ではゴマ擦りすることは少年部のガキ共だって知っている。加藤も反抗的な態度を取っては「指導」されることなどしょっちゅうだ。
一度、同年代の少年達と結託して別の指導員に訴えたが何も変わらず、「指導」だけがさらに酷くなった。
その時身を以て知った。どれだけ強いと意気がっても、自分はこの神心会という「組織」の中では何の力も持たないただの子供だということを。
(俺らに何ができるんだよ)
あの男だけじゃない。克巳が一部の指導員から時に壮絶な「指導」を受けていることはみんな知っている。だけどみんな見て見ぬ振りして館長に言おうとしない。本部会館には大人が大勢いるのに、あいつの味方は一人もいない。こんなことってあるか?
でも、と思い直す。
『指示に従えません』と言い放った時の相手を射抜くような眼光と、その後の屈託のない笑顔に、ひょっとしてあいつなら性根の腐った奴ら全員ぶっ潰してくれるんじゃないか? という期待が首をもたげる。
(……って、何で俺があいつに……)
何の根拠もない上に、普段は(勿論本人のいないところでだが)克巳への悪態をついている自分があの生意気な少年に神心会の未来を見出そうとした「らしくなさ」が急に恥ずかしくなり、そしてそのことを目の前の末堂にどう伝えていいかわからず、
「お前、食うの早すぎ。もっとよく噛め」
「……うちの親と同じこと言うなよ」
「うるせえ」
最後のチャーハンを飲みくだし、水を一気に飲み干した。今度あいつにスポーツドリンクでも奢ってやるかと思いながら。