刃牙その他
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明日があるなら
……ミスター。
ミスター・ジャック・ハンマー。
私の声、聞こえていますか?
聞こえていたらゆっくり瞬きを2回……。
ありがとうございます。
本当は面会謝絶と言われたのですが、主治医の先生に無理を言って3分だけ時間をいただきました。
……申し遅れました、私は徳川月世といいます。最大トーナメントの主催者、徳川光成の孫です。
先日の最大トーナメントであなたの闘いを拝見しました。
どの闘いもとても素晴らしかった……。
『経歴不詳』ということになっていましたが、きっと祖父はあなたの出自を分かっていて、あえて伏せていたのでしょう。だからこそ、あなたをDブロック、弟の範馬刃牙をAブロックに配した。決勝で当たる前にどちらかが潰されないように……。
まったく、おじいさまも人が悪い……。
ああ、こんなことを話したかったんじゃなくて、あなたにお願いがあってきたんです。
その前に……私の夢の話をさせてください。私、いつか自分の闘技場を作りたいと思っているんです。
地下闘技場のようなあんな大きなものじゃなくていい。観客はいてもいなくても……、私が楽しめればそれでいいんです。祖父にこの話をすると『権力者の欲望で格闘士たちを闘わせることは断じてあってはならない』って怒るんですけど、私に言わせれば祖父だって……。祖の徳川光圀公も『天下泰平になって戦いにあぶれた浪人たちを』とか何とか言いながら、本当は誰よりも自分がこの世で一番の武士を見たかったんじゃないかと……。こういうことを日本語で『おためごかし』って言うんですよ。
……また話がそれてしまいました。
お願いというのは……。
もし、あなたが範馬勇次郎に打ち勝った後も生きていたら……。
その時は私の闘技場で闘ってください。
私を楽しませるために。
そして、あなた自身のために。
……あ、すみません。先生から持たされたPHSが……。
え、もう?
……はい、わかりました。
それでは私はこれで……。
早く回復して、今よりも強くなって……、私の闘技場で会える日を楽しみにしています。
さようなら、ミスター・ジャック・ハンマー。
女は病室から退室し、その背中を目で追いながら、ジャックはぼんやりと思いを巡らせた。
刃牙と同じくらいの年頃だろうか。アジア人は幼く見えるから、実はとっくに成人しているのかもしれない。
日本人は慎ましいと聞いていたが彼女は例外だろう。
徳川光成の孫と言っていたが、それなら納得がいく。あの老人のエージェントも随分と強引だった。格闘技を愛する心と一方的な話し方は祖父譲りに違いない。
……『範馬勇次郎に打ち勝った後も生きていたら』だって?
ありえない、と心の中で首を振る。
自分の出生を知ってしまったあの日、平凡ながらも穏やかで幸せだった日々は音を立てて崩れていった。
戦士としての誇りを踏みにじり自分を強姦した男の子供を愛し育ててくれた母の心中を思うとこの身が引き裂かれそうになりながら、生を与えた神を、自分を産んだ母を、何より自身を呪い、生まれてきたことに意味があるのだとしたらそれは範馬勇次郎を倒すことだと昨日までの日々も明日も捨てたこの俺が、勇次郎を倒した後も生きているとでも思っているのか?
第一、『私の闘技場』とやらはいつできるというのだ。
仮に俺が生きていても、闘技場がなければ意味がない。
大富豪の孫だから金はあるのだろうが、箱を作ったらおしまいではない。何より、そこで闘う格闘士たちがいなければ。
誰が格闘士たちをスカウトするんだ?
自分でか?
腕利きのエージェントを確保するのだってなかなか骨が折れるだろうに…………。
そこまで考えたところで、今日初めて会った女(少女かもしれない)の夢についてあれこれと気を揉んでいる自分に気がつき、自然と唇の端に笑みが浮かんだ。
もし俺に明日があるのなら。
明日を夢見ることが許されるのなら。
彼女の前でどんな風に闘うだろうか。
彼女はどんな顔で俺の闘いを見ているだろうか。
叶うことがないとわかっていながら、想像するだけで不思議と満ち足りた気分になり、静かに目を閉じた。
……ミスター。
ミスター・ジャック・ハンマー。
私の声、聞こえていますか?
聞こえていたらゆっくり瞬きを2回……。
ありがとうございます。
本当は面会謝絶と言われたのですが、主治医の先生に無理を言って3分だけ時間をいただきました。
……申し遅れました、私は徳川月世といいます。最大トーナメントの主催者、徳川光成の孫です。
先日の最大トーナメントであなたの闘いを拝見しました。
どの闘いもとても素晴らしかった……。
『経歴不詳』ということになっていましたが、きっと祖父はあなたの出自を分かっていて、あえて伏せていたのでしょう。だからこそ、あなたをDブロック、弟の範馬刃牙をAブロックに配した。決勝で当たる前にどちらかが潰されないように……。
まったく、おじいさまも人が悪い……。
ああ、こんなことを話したかったんじゃなくて、あなたにお願いがあってきたんです。
その前に……私の夢の話をさせてください。私、いつか自分の闘技場を作りたいと思っているんです。
地下闘技場のようなあんな大きなものじゃなくていい。観客はいてもいなくても……、私が楽しめればそれでいいんです。祖父にこの話をすると『権力者の欲望で格闘士たちを闘わせることは断じてあってはならない』って怒るんですけど、私に言わせれば祖父だって……。祖の徳川光圀公も『天下泰平になって戦いにあぶれた浪人たちを』とか何とか言いながら、本当は誰よりも自分がこの世で一番の武士を見たかったんじゃないかと……。こういうことを日本語で『おためごかし』って言うんですよ。
……また話がそれてしまいました。
お願いというのは……。
もし、あなたが範馬勇次郎に打ち勝った後も生きていたら……。
その時は私の闘技場で闘ってください。
私を楽しませるために。
そして、あなた自身のために。
……あ、すみません。先生から持たされたPHSが……。
え、もう?
……はい、わかりました。
それでは私はこれで……。
早く回復して、今よりも強くなって……、私の闘技場で会える日を楽しみにしています。
さようなら、ミスター・ジャック・ハンマー。
女は病室から退室し、その背中を目で追いながら、ジャックはぼんやりと思いを巡らせた。
刃牙と同じくらいの年頃だろうか。アジア人は幼く見えるから、実はとっくに成人しているのかもしれない。
日本人は慎ましいと聞いていたが彼女は例外だろう。
徳川光成の孫と言っていたが、それなら納得がいく。あの老人のエージェントも随分と強引だった。格闘技を愛する心と一方的な話し方は祖父譲りに違いない。
……『範馬勇次郎に打ち勝った後も生きていたら』だって?
ありえない、と心の中で首を振る。
自分の出生を知ってしまったあの日、平凡ながらも穏やかで幸せだった日々は音を立てて崩れていった。
戦士としての誇りを踏みにじり自分を強姦した男の子供を愛し育ててくれた母の心中を思うとこの身が引き裂かれそうになりながら、生を与えた神を、自分を産んだ母を、何より自身を呪い、生まれてきたことに意味があるのだとしたらそれは範馬勇次郎を倒すことだと昨日までの日々も明日も捨てたこの俺が、勇次郎を倒した後も生きているとでも思っているのか?
第一、『私の闘技場』とやらはいつできるというのだ。
仮に俺が生きていても、闘技場がなければ意味がない。
大富豪の孫だから金はあるのだろうが、箱を作ったらおしまいではない。何より、そこで闘う格闘士たちがいなければ。
誰が格闘士たちをスカウトするんだ?
自分でか?
腕利きのエージェントを確保するのだってなかなか骨が折れるだろうに…………。
そこまで考えたところで、今日初めて会った女(少女かもしれない)の夢についてあれこれと気を揉んでいる自分に気がつき、自然と唇の端に笑みが浮かんだ。
もし俺に明日があるのなら。
明日を夢見ることが許されるのなら。
彼女の前でどんな風に闘うだろうか。
彼女はどんな顔で俺の闘いを見ているだろうか。
叶うことがないとわかっていながら、想像するだけで不思議と満ち足りた気分になり、静かに目を閉じた。
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