克巳夢
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アゲイン
「俺、振られたのあれが最初で最後なんだよね」
「……それって自慢のつもり?」
他に好きな人ができたから、と別れを切り出したのは私からだった。
大学に進学して目まぐるしく状況が変わり日々新しい刺激を受ける中、まだ学生服を着て高校に通っている彼氏と「何か」がズレてきたように思い始めた頃、新しい恋に落ちてしまった。
それでもその数年後に、彼が父親の後を継いで神心会空手の代表の座に収まったと聞いた時、逃した魚は大きかった……とは思わなかった。何というか、お互い収まるところに収まったというか、大げさに言えば住む世界が違う人だったんだ、と妙に納得したのだった。
納得していたはずだったのに。
よりによって恋人の日、2月14日のバレンタインデーの夜に再会し、私の心は強く揺さぶられた。そして誘われるがままに飲みに行ってしまい。
「……道場でチョコレートもらったりするの?」
「事務局とか女子部からね。でもどうせ全部義理だよ」
「そんな風に言っちゃダメだよ。本気の人だっているかもしれないじゃない」
「……そうだね。でも、俺は」
と前置きしてから私の方に向き直り、
「今日チョコレートくれた全員から好きだって言われるより、みすずちゃんと会えたことの方がずっと嬉しいよ」
神心会の女性陣には申し訳ないけれど、その一言が決定打となり、明日も仕事だというのにこうしてラブホテルの一室で裸で抱き合っているのだ。
「みすずちゃん、変わったけど変わらないね」
変わったとは、処女じゃなくなったから?と勘ぐってしまう。しかしあえて口には出さず、その逞しい腕の中に身を預ける。
「今更って思うかもしれないけど……」
いつも自信たっぷりだったくせに、何だか歯切れが悪い。そうだ、私に告白した時も『出会ってすぐにこんなこと言うと、軽い奴って思うかもしれないけど』などと前口上が長かったっけ……。
「あの頃みたいに、みすずちゃんと一緒にいたい」
「それは……無理なんじゃない?」
「えっ」
私達はもうあの頃の私達じゃない。
あの頃は漠然としながらも将来に対して希望を抱いていたけれど、今は、世の中は自分の思い通りにならないものだと薄々感づいている。少なくとも私は。
それに、ただ一緒にいてとりとめもない話をして、手を繋いだりキスしたりするだけじゃあお互い物足りなくなっちゃった……でしょ?
という意味での「無理」だったのだが、彼は文字通りの意味でとらえたようで、明らかに動揺している。
「あの時はあの時、今は今でしょ」
大人びているかと思えば子供っぽいような、どこか危うげなところが好きだった。今もその面影が残っていることは正直嬉しいけれど。
「全部一からやり直しってこと」
それでもまだ要領を得ない顔をしている。観念して彼の耳元に唇を寄せ「私だって好きだよ」と囁いた。
「……」
はっきり言葉に表した途端に気恥ずかしくなり、肉厚の胸板に顔を埋める。
「やっぱ変わらないな。……昔も、好きって言うたびに照れてたね」
それは、場所も時間もお構いなしに『俺のこと好き?』って聞いてくるからでしょ、と内心反論する。
「でもさ、みすずちゃんの方から好きって言ってくれたの、初めてだよね」
そうだっけ?
……そうだったかもね。
今夜だけでも数十回目のキスを交わし、舌を絡ませる。あの頃は知らなかったよ。彼の舌がぶ厚いことも、キスがこんなに気持ちいいことも。鍛え抜かれた筋肉が柔らかいことも、彼自身が私の中を激しく突き上げてくることも、何もかも。
固くなった股間を太ももと太ももの間にぐりぐりと押しつけられる。また貫かれるのかと想像するだけで胸と下半身がぎゅん、と締めつけられる。
始発の時間まであと何回できるだろうか。
何回でもいい。
足りなかったら、次会った時にすればいいだけだ。
今は、私の肉体を愛でるこの男のことだけを考えていたい。
私は目を閉じて、再び始まった愛撫に身を任せた。
「俺、振られたのあれが最初で最後なんだよね」
「……それって自慢のつもり?」
他に好きな人ができたから、と別れを切り出したのは私からだった。
大学に進学して目まぐるしく状況が変わり日々新しい刺激を受ける中、まだ学生服を着て高校に通っている彼氏と「何か」がズレてきたように思い始めた頃、新しい恋に落ちてしまった。
それでもその数年後に、彼が父親の後を継いで神心会空手の代表の座に収まったと聞いた時、逃した魚は大きかった……とは思わなかった。何というか、お互い収まるところに収まったというか、大げさに言えば住む世界が違う人だったんだ、と妙に納得したのだった。
納得していたはずだったのに。
よりによって恋人の日、2月14日のバレンタインデーの夜に再会し、私の心は強く揺さぶられた。そして誘われるがままに飲みに行ってしまい。
「……道場でチョコレートもらったりするの?」
「事務局とか女子部からね。でもどうせ全部義理だよ」
「そんな風に言っちゃダメだよ。本気の人だっているかもしれないじゃない」
「……そうだね。でも、俺は」
と前置きしてから私の方に向き直り、
「今日チョコレートくれた全員から好きだって言われるより、みすずちゃんと会えたことの方がずっと嬉しいよ」
神心会の女性陣には申し訳ないけれど、その一言が決定打となり、明日も仕事だというのにこうしてラブホテルの一室で裸で抱き合っているのだ。
「みすずちゃん、変わったけど変わらないね」
変わったとは、処女じゃなくなったから?と勘ぐってしまう。しかしあえて口には出さず、その逞しい腕の中に身を預ける。
「今更って思うかもしれないけど……」
いつも自信たっぷりだったくせに、何だか歯切れが悪い。そうだ、私に告白した時も『出会ってすぐにこんなこと言うと、軽い奴って思うかもしれないけど』などと前口上が長かったっけ……。
「あの頃みたいに、みすずちゃんと一緒にいたい」
「それは……無理なんじゃない?」
「えっ」
私達はもうあの頃の私達じゃない。
あの頃は漠然としながらも将来に対して希望を抱いていたけれど、今は、世の中は自分の思い通りにならないものだと薄々感づいている。少なくとも私は。
それに、ただ一緒にいてとりとめもない話をして、手を繋いだりキスしたりするだけじゃあお互い物足りなくなっちゃった……でしょ?
という意味での「無理」だったのだが、彼は文字通りの意味でとらえたようで、明らかに動揺している。
「あの時はあの時、今は今でしょ」
大人びているかと思えば子供っぽいような、どこか危うげなところが好きだった。今もその面影が残っていることは正直嬉しいけれど。
「全部一からやり直しってこと」
それでもまだ要領を得ない顔をしている。観念して彼の耳元に唇を寄せ「私だって好きだよ」と囁いた。
「……」
はっきり言葉に表した途端に気恥ずかしくなり、肉厚の胸板に顔を埋める。
「やっぱ変わらないな。……昔も、好きって言うたびに照れてたね」
それは、場所も時間もお構いなしに『俺のこと好き?』って聞いてくるからでしょ、と内心反論する。
「でもさ、みすずちゃんの方から好きって言ってくれたの、初めてだよね」
そうだっけ?
……そうだったかもね。
今夜だけでも数十回目のキスを交わし、舌を絡ませる。あの頃は知らなかったよ。彼の舌がぶ厚いことも、キスがこんなに気持ちいいことも。鍛え抜かれた筋肉が柔らかいことも、彼自身が私の中を激しく突き上げてくることも、何もかも。
固くなった股間を太ももと太ももの間にぐりぐりと押しつけられる。また貫かれるのかと想像するだけで胸と下半身がぎゅん、と締めつけられる。
始発の時間まであと何回できるだろうか。
何回でもいい。
足りなかったら、次会った時にすればいいだけだ。
今は、私の肉体を愛でるこの男のことだけを考えていたい。
私は目を閉じて、再び始まった愛撫に身を任せた。