花山夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
うちの子に何処に行くの逃がさないよと言わせてみる
そろそろ寝るかと布団に入ろうとしたとき、何やら表の方が騒がしいことに気がついた。何事かと見に行くと、泥酔して玄関に座りこんだ志信と、志信を部屋まで運ぼうとしているのか、志信の腕を自分の肩に回し一生懸命立ち上がろうとしている女中の姿があった。
いくら女同士とはいえ志信は背が高く、ましてや力が抜けきっている状態なので、かなり悪戦苦闘しているようだ。
「……」
見かねた花山は黙って志信の体を抱き上げた。
「あ! 旦那様」
「…俺が連れて行く」
「おー、薫ちゃんサンキュー」
志信は上機嫌だ。
靴を脱がせて女中に投げて渡す。
「お嬢様、お風呂は…」
「もう寝る~」
「…お前は休んでいいぞ」
女中に声をかけ、志信を抱き上げたまま廊下を歩き始めた。
「飲みすぎだぞ」
「うるせーな、未成年のくせに酒の飲み方を説教するとは100年早いわ」
肩をバシバシと叩かれたが、それに構わず志信の部屋に向かった。
ふすまを開け電気をつけると、敷きっぱなしの布団が目に入った。その上にそっと下ろしてやる。と、志信がまじまじと自分の顔を見つめている。
「……?」
頬に手を伸ばす。対スペック戦の時に負傷した左頬の疵痕に指先がそっと触れた。
「痛かったでしょ、ここ」
その言葉はまるで疵を癒すように、そして愛おしむように感じられた。
花山はその細い手を握りしめたくなったが、何とか耐えた。
その胸の内を知ってか知らずか、指が頬から離れたかと思うと今度は疵の辺りを軽くつねられた。
「どこのどいつだよ。人んちの甥っ子を傷だらけにして」
先ほどまでの酔っぱらいの口調に戻る。
花山はふっと笑った。
「…そんなふうに言ってくれるのはお前だけだ」
普段ならここで「『お前』って言うな!」とどやされるところだが、今の志信は酔っているせいか、そこは気にも留めなかった。
「あんたより強い奴がいるなんて信じられないな」
4年前の範馬刃牙との対決、範馬勇次郎への挑戦と敗北、数か月前の最大トーナメントでの愚地克巳との死闘。木崎から大体の話は聞いていた。
花山が闘っている姿を1度も見たことがない。彼が傷つく姿など見たくもないし、これからも見るつもりはない。
本当は、喧嘩師などやめてしまえばいいと思っている。けれど、叔母といっても日陰者の自分がそんなことを言える立場でないこともよくわかっている。
もし私が花山の父と同じ母親から生まれていたら?
姉だったら?
恋人だったら?
いや、例え血を分けた兄弟でも、海よりも深く愛した女でも止めることはできない。
この男が喧嘩をやめる時は死ぬ時だけだ。
「…私は、薫が世界で一番強いと思ってるし、私だけじゃなくてこの家の人たちも組の人たちもそう思ってても、…それじゃダメなの?」
答えはわかっているけれど、あえて尋ねてみる。
案の定、花山は黙って頷いた。
「…そっか」
目を伏せてため息をつく。
地上最強なんてどうだっていいじゃない。
酔いに任せてそう言ってやりたいけれど。
だったらせめて。
志信は花山の顔を睨むように見上げた。
「…じゃあ私のこと置いていかないで」
この男は決して自分のものにならない。
だったらせめて。
「意味わかる? 私よりも先に死ぬなってことだよ。約束して」
そんな口約束、何になる。
この男が自分より先に死ぬことは目に見えている。
それでも言わずにはいられなかった。
「…約束する」
花山は目を逸らさずに答えた。
「ほんとに?」
自分から言っておきながら、あからさまに訝しげに見返す。
「じゃあ指切りするか」
花山が右手の小指を立てたので、志信もやれやれと言いたげな顔をしながらも小指を出し指を絡めあった。
「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーら」」
「はーりせんぼん…」
花山は「針千本」とは言わず、少しの間黙り込んだ後、
「この命と体、お前にやる。もし俺が死にそうになったら、あとはお前の好きにしてくれ」
「……」
花山はひとりで「ゆーびきった」と歌い上げ、志信の小指をほどいた。
志信も右手を下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「…私が側に行くまでは生きててよ」
「絶対死なねえ」
「あんたに止め刺していいのは私だけだからね」
「…上等だ」
思わず唇の端に笑みを浮かべた。それでこそ花山家の女だ。
つられて志信も微笑んだ。
「…もう寝な」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
花山はのっそりと部屋を出ていった。
志信はしばらくの間、花山がしゃがんでいた辺りをぼんやりと見つめていた。
指先に残った左頬の疵の感触。
さっき交わした指切り。
確かなものは何一つないけれど、これだけは信じていようと誓った。
そろそろ寝るかと布団に入ろうとしたとき、何やら表の方が騒がしいことに気がついた。何事かと見に行くと、泥酔して玄関に座りこんだ志信と、志信を部屋まで運ぼうとしているのか、志信の腕を自分の肩に回し一生懸命立ち上がろうとしている女中の姿があった。
いくら女同士とはいえ志信は背が高く、ましてや力が抜けきっている状態なので、かなり悪戦苦闘しているようだ。
「……」
見かねた花山は黙って志信の体を抱き上げた。
「あ! 旦那様」
「…俺が連れて行く」
「おー、薫ちゃんサンキュー」
志信は上機嫌だ。
靴を脱がせて女中に投げて渡す。
「お嬢様、お風呂は…」
「もう寝る~」
「…お前は休んでいいぞ」
女中に声をかけ、志信を抱き上げたまま廊下を歩き始めた。
「飲みすぎだぞ」
「うるせーな、未成年のくせに酒の飲み方を説教するとは100年早いわ」
肩をバシバシと叩かれたが、それに構わず志信の部屋に向かった。
ふすまを開け電気をつけると、敷きっぱなしの布団が目に入った。その上にそっと下ろしてやる。と、志信がまじまじと自分の顔を見つめている。
「……?」
頬に手を伸ばす。対スペック戦の時に負傷した左頬の疵痕に指先がそっと触れた。
「痛かったでしょ、ここ」
その言葉はまるで疵を癒すように、そして愛おしむように感じられた。
花山はその細い手を握りしめたくなったが、何とか耐えた。
その胸の内を知ってか知らずか、指が頬から離れたかと思うと今度は疵の辺りを軽くつねられた。
「どこのどいつだよ。人んちの甥っ子を傷だらけにして」
先ほどまでの酔っぱらいの口調に戻る。
花山はふっと笑った。
「…そんなふうに言ってくれるのはお前だけだ」
普段ならここで「『お前』って言うな!」とどやされるところだが、今の志信は酔っているせいか、そこは気にも留めなかった。
「あんたより強い奴がいるなんて信じられないな」
4年前の範馬刃牙との対決、範馬勇次郎への挑戦と敗北、数か月前の最大トーナメントでの愚地克巳との死闘。木崎から大体の話は聞いていた。
花山が闘っている姿を1度も見たことがない。彼が傷つく姿など見たくもないし、これからも見るつもりはない。
本当は、喧嘩師などやめてしまえばいいと思っている。けれど、叔母といっても日陰者の自分がそんなことを言える立場でないこともよくわかっている。
もし私が花山の父と同じ母親から生まれていたら?
姉だったら?
恋人だったら?
いや、例え血を分けた兄弟でも、海よりも深く愛した女でも止めることはできない。
この男が喧嘩をやめる時は死ぬ時だけだ。
「…私は、薫が世界で一番強いと思ってるし、私だけじゃなくてこの家の人たちも組の人たちもそう思ってても、…それじゃダメなの?」
答えはわかっているけれど、あえて尋ねてみる。
案の定、花山は黙って頷いた。
「…そっか」
目を伏せてため息をつく。
地上最強なんてどうだっていいじゃない。
酔いに任せてそう言ってやりたいけれど。
だったらせめて。
志信は花山の顔を睨むように見上げた。
「…じゃあ私のこと置いていかないで」
この男は決して自分のものにならない。
だったらせめて。
「意味わかる? 私よりも先に死ぬなってことだよ。約束して」
そんな口約束、何になる。
この男が自分より先に死ぬことは目に見えている。
それでも言わずにはいられなかった。
「…約束する」
花山は目を逸らさずに答えた。
「ほんとに?」
自分から言っておきながら、あからさまに訝しげに見返す。
「じゃあ指切りするか」
花山が右手の小指を立てたので、志信もやれやれと言いたげな顔をしながらも小指を出し指を絡めあった。
「「ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーら」」
「はーりせんぼん…」
花山は「針千本」とは言わず、少しの間黙り込んだ後、
「この命と体、お前にやる。もし俺が死にそうになったら、あとはお前の好きにしてくれ」
「……」
花山はひとりで「ゆーびきった」と歌い上げ、志信の小指をほどいた。
志信も右手を下ろし、ゆっくりと口を開いた。
「…私が側に行くまでは生きててよ」
「絶対死なねえ」
「あんたに止め刺していいのは私だけだからね」
「…上等だ」
思わず唇の端に笑みを浮かべた。それでこそ花山家の女だ。
つられて志信も微笑んだ。
「…もう寝な」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
花山はのっそりと部屋を出ていった。
志信はしばらくの間、花山がしゃがんでいた辺りをぼんやりと見つめていた。
指先に残った左頬の疵の感触。
さっき交わした指切り。
確かなものは何一つないけれど、これだけは信じていようと誓った。
4/4ページ