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サロルンリムセ

もんはひらかれた

ようやく門の向こう側…私が仕事をするべき本丸にたどりついたのは転送門から出てかなりの時間を要していた。

まぁ、こんなに時間がかかったのも私が上手く術を使えなかったせいなんだけどね。
すべては自己責任。うん、知ってる。

中にはいったらすぐに、そこにある端末で連絡しろと言われてたのに。 また、師匠からお小言が来そうだ。

ふぅと一息ついてふと見るとこの本丸のお刀様が数振り此方を見ている。 とりあえず汚れて乱れた狩衣をぱぱっと手で払って綺麗にして…私の手は真っ黒だった。 余計に汚くなった。泣きそう。 もうどうでもいい。 ヤケクソ状態で名乗を上げた。


「皆様、お初にお目にかかります。私は陰陽師寮、神道呪術専門課の結界師でございます。」

「帰れ」

「デスよねー」

取り付く島もなかった。
まあ、こういう所は当たり前なので、心の声が普通に口から出てしまった。
ダメダメ、お口チャック。

「大変申し訳ありませんが私も『そうですかぁ、わかりましたぁ☆』って帰る訳にも行きませんので…とりあえず中に入れて貰えませんか?」

一応丁寧に私の立場を伝えてみた。伝わるかどうかや相手がどんなモノかとかは置いておいて、他所様の場所に入るのだから最低限のマナーは必須。
ていうか、さっき門破壊しちゃったから、その残骸乗り越えて来ただけで既に侵入してんだけどね。てへ☆

「ほう。時の政府とやらは随分と人使いが荒いのじゃな。お前、働き口は考えた方が良いぞ」

マジか、一言目でそれ?お刀様に仕事場について憐れまれた!泣けるんだけど!

「はぁ…ぶっちゃけ私もそう思いますが辞めるに辞められないのが現状です…」

これ本音。私だって霊力さえ無きゃこんなイケメンのマジリアル怒り顔、しかも神様、なんて恐ろしいモン見ないで済んだわ。血塗れの幽霊のがまだ可愛らしいわ。

つか、ここの方々もしかして何気に話聞いてくれそう?

「そうか、可哀想にのう。では政府を恨むが良い」

言葉尻を聞いたか聞かないかあたりで見えていた刀のうち二振りが消え瞬間美しいお顔達がどアップになった。

「なっ…!?」
「……!!」

カカッと硬質な音が響き驚愕の表情を浮かべた二振りは間合いを取る為一息に後ろに飛び退った。

「あーすみません。私に刀と言うか攻撃は無駄です」

と、注意したにも関わらず『ギャン!!』と尾を踏まれた獣の様な声と共にバチリと青白い稲妻が私の喉元辺りを走る。

「あーすみません。今、首掴もうとしたみたいですがそれも無駄です。ていうか、さっきも言いましたが私に攻撃は総て無駄です」

左手を押さえて射殺しそうな赤い瞳で小狐丸様が私を睨んでいる。

あのギャンて声、この刀だったんだー。
なんか獣って言うより犬が蹴飛ばされた様な声だなーなんて思ったんだよね。確か狐ってイヌ科だった気がするからやっぱ納得。

「攻撃が…無駄…とは…?」

物凄く冷静そうで、穏やかそうに見えるけど実際はめちゃくちゃ殺気出しまくっている江雪左文字様が問いかけてくれた。

マジか!めっちゃ嬉しいんだけど!
人の話し聞かないで滅多斬りしてきて、その憤怒の形相を間近で見続けなきゃいけなかった時の事を考えると、話しを聞いてくれるってだけでここは天国です!!

「話しを聞いて頂ける様で感謝致します。私の周囲には結界が張られております。ですので、攻撃もそうですが私に触る事も出来ません」

「…そう…ですか…」

江雪様はあっさりと刀を納めてくれた。
そう、あっさりと、とても優雅に納刀してくれたが、その端正なお顔の柳眉は更に鋭く吊り上がり私をとてつもなく憎らしそうに睨んでいる。

審神者だとか政府の通常の人達は、こんな江雪様なんか見た事も無いんだろうなー。
マジ死にたくなるぞ?和睦のわの字もないからね!
そんな江雪様はふいと後ろを向くとそのまま本丸のお屋敷の方に歩いて行ってしまった。

残った小狐丸様はご自分が痛い思いをしたのがとっても悔しいらしく

「おのれ人如きが…!!」

と、叫び、でも手を出せないのを身をもって知ってるもんで、その腹立たしい感情を何処にも向けられずボッと言う音と共に発生した青白い狐火達がビュンビュンと周囲を駆け巡っている。

勿論此方を睨み付けながらね。

「その身、どうにかして喰ろうてやるわっ!!」

と言い捨て、抜刀したまま何処かに消えてしまった。
相当腹立ったんだろうなあと思いつつ、しかしここの小狐丸様は狐火を自分で出せるって事に驚いた。すげぇ。
ここの前審神者はそんなに霊力が高かったのだろうか?


まぁとりあえず一応大人しくお帰り頂けたと言う事は歓迎されてはないが承諾を貰ったと勝手に思い込んで本丸の玄関にむかった。

次に会ったのはその一部始終を玄関脇の柱に背を預けて見ていた鶴丸国永様だ。
確か手元の依頼書にはこの鶴丸国永様がここの審神者を呪いまじないの柱にした張本刀ちょうほんにんとの事。

さて、どうするか、どう出て来るか…

「君、人のくせに随分と面妖な術を使うな」

…へぇ、私と喋ってくれるんだ。
殺せないし捕まえる事も出来ないからとりあえず会話で糸口でも掴もうって事かな?

「そうですか?まぁ、楽しんで頂けたのなら…」

言ってる間にまたもやバチン!と青白い稲妻が走る。今度は顔だ。

「…痛って…へぇ、ホントなんだなこりゃ驚いた」

弾かれた右手をしげしげと見た後、軽く振っている。

「ホントじゃなきゃ先程の小狐丸様はどうなるんですか」

「いや、こういう物は一度自分で試してみたいじゃないか」

「…私には良く分かりませんが、それ、結構痛いみたいですよ」

「へぇ?いろんな奴がその餌食になってるのか」

「えぇ、まぁ…コレ、24時間何時でもずっと張られているのでお気を付けて下さい」

頭を下げて釘を刺しておいた。
ここにいる間中、何事か仕掛けられるのも嫌だしいきなり来られると結構ビビりなんで身体は傷付かなくても吃驚してなんか漏れちゃったりしたら精神が傷付くから止めて欲しいの。
そんな事は言えないけどね。

「ふぅ…ん。その術は、君がここに来る為に張った訳では無いのかい?」

…あらまぁ。
この鶴丸国永様、ご自分で審神者を人柱にしただけあって結構呪術に詳しいぞ。

─術を掛けるというのは、術者が印や札、術式を場に書くなどの媒介を通してそこに力を注いで使い、基本一度きりだ。勿論、長時間続く術もあるが、結局は結果が出てしまえば術は終わる。良くも悪くも。
だから、今回のこの術も鶴丸国永様は必ず何処かでもう一度術の掛け直しをすると思っていた訳だ。多分、そこを狙って私もこの本丸の柱にしようと思っていたんだろうね。

だが、私の場合そうは問屋が下ろさないのだよ!だからこんな所に私が来たんだってば!私が普通の術者と違うから。分かって下さい。

「そうですね。術を張ってからは……かれこれ4年程にはなりますかねぇ…」

なんて、のほほんとした感じで答えたら。

「ははっ!君、その身体で普通に過ごしているのか!いやいや中々面白いな!」

いままで能面の様な顔をしてたくせに、話しを聞いたらいきなり瞳を爛々と輝かせ口の端を引き上げて壮絶に笑った。
遠ざけるつもりがなんか興味持たれたみたい。しかもこれ絶対悪い方の。

鍛えられた顔面筋のおかげでいかにも人当たり良さげな顔のまま微笑んでいるが、私の背中には冷や汗が伝う。

鶴丸国永って刀はマジで怖い。

他の刀と少し違った感性が今回の私にとって凶と出そうな気がする。早く封印して帰りたい!

そんな事を心の中で叫んでいたら鶴丸様に笑顔付きで言われた。

「まあ、とりあえずここまで来れた訳だし俺に久しぶりの驚きももたらしてくれた。入るといい歓迎してやる。君らの話しはとりあえず聞いてやろう」


歓迎しなくて結構ですっ!!
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