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眠れぬ龍の夜の飯

槍龍のチョイスは渋い



  俺は大倶利伽羅だ。
  馴れ合うつもりは無い。


  そんな訳で、今夜も厨に忍び込み一振り夜食を食べている。

昼間に光忠が焼いたパンが残っているのを知っていたので、今日はそれを頂戴した。

バターロール(少し大き目)が三つ。
これだけでは足りないので、魔法の粉のコーンスープ(お湯をジャーと入れるやつ)を飲んでいる。

このコーンスープなる物はお湯の量で、味の濃薄が調整出来るので気に入っている。
少し濃い目に入れて食パンをつけて食べるのは至福だ。




と、そんな事を思っていたら厨前の廊下がミシミシと音を鳴らす。

この感じだと…打刀以上…太刀でも重量級か、それ以上の刀種か…。

光忠だったら何か作って貰おう。


ガラリと夜中でも遠慮なく戸が開いて、デカい身体がぬるりと入って来た。


「おわっ!」

これも夜中なのにデカい声だ。

「なんだ、刀がいたのか」


あーびっくりしたぜ、と言いながら、こちらに寄って来た。

手燭で最小限の灯りしか置いてないので、あちらはまだ俺が誰だか分かってない。

刀種変更して良かった。暗闇でも気にせず食える。打刀最高。


「ん?伊達の龍か」

灯りを覗き込む様に見て、やっと誰か分かったらしい。

「なんだ、お前もなんか食ってたのか」

手元を見て言ったが、夜の厨でコソコソしてたらそれしかないだろう。

「まぁな」

軽く返事をしている間に手探りで電気のスイッチを探して付けた。

おい。全部つけるな。
他の奴が来たらどうする。

そんな俺の思いを全く気にせず、ヤンキー座りで座り込みデカい身体を縮めて冷蔵庫を漁りだした。着物姿でやってるので両膝が丸出し。

やめろ、日本号。ごつい足を出すな。
目を伏せて視界から消し去る。

「あ~今日は何もねぇのか」

夕餉のメニューはカレー。

アレは所謂、冷蔵庫整理の為のメニューで、だから今夜の冷蔵庫には朝餉の仕込み以外は何も残ってはいない。

こいつはそれを知らなかったらしい。

「…カレーの後は何も無いぞ」

「マジか。それなら先に伊達の兄ちゃんに肴頼んでおくんだった!」

ガクリと大袈裟に項垂れた後ろ姿を見て、自分だけ食べていたのがなんだかちょっと心苦しくなってしまった。(そんな事を思う必要は全くないのだが、食べた形跡を見られたのがなんだか居た堪れない)

「…俺で良ければ作るが…」

「あんた、(料理が)出来る奴だったのか!」

思わず言ってしまった言葉に、物凄い勢いで食いつかれた。

こいつは塩さえあれば酒が呑める奴だが、今夜は腹も減っていたのだろう。

カレーは飲み物だしな。

後、俺はなんでも出来る奴だぞ。料理だけでは決してない。

コーンスープの残りを喉に流し込み、俺は酒の肴で腹持ちのいいものを作る為作業台から立ち上がった。
 

「…貯蔵庫からジャガイモを四つ持って来てくれ」

「よっしゃ!お易い御用だ」

べちりと膝を叩きすぐに厨を出て行った。

槍のクセに速い。何故に黒田のは機動が高いのか不思議だ。俺達に少し寄越せ。特に光忠。

そう思いながら魔法の粉袋を取りに一旦部屋に戻った。


厨に帰って来たら奴は既に鼻歌交じりでジャガイモを洗っていた。

速いなおい。

ちょっと引いたが何食わぬ顔で中に入り鍵を閉め、戸付近の電気を消した。これ大事。

取って来た大き目の巾着袋を作業台の上に置いた時。

「こんなもんでいいか?」

少し土が残った状態で聞いてきた。
皮は剥かないので綺麗に洗う必要がある。

「後は俺がやる」

一応、角が立たぬ様に言ってチェンジした。

ジャガイモをたわしで擦り洗いし、皮を粗方落とし全てを一口大くらいに切る。

耐熱ボウルに入れラップを掛けてレンジに放り込む。五分にセットしスタート。

その間に持って来た巾着袋の中から目当ての物を取り出しておく。

「なんだそりゃ?」

やはり、これを知らないらしい。

「簡単に味が付けられる魔法の粉だ」

へぇ、面白ぇもんがあるんだなと興味深げだったので『ふりかけ』や『おにぎりの素』など、簡単に誰でも使える物をおすすめした。

但し、歌仙と光忠には絶対に見つかるなよと念を押したのは言うまでもない。


ピッピッとアラームが鳴った。
レンジから取り出し、ラップをはずす。熱いので火傷に注意だ。

全体が柔らかくなったか爪楊枝で何個か刺してみる。大丈夫そうだ。

ボウルを軽く振ったり、菜箸で転がしながら粗熱を取る。
ここに魔法の粉の一つ、『昆布だしの素』を少々にマヨネーズと醤油を入れ混ぜる。

最後にパックに入った鰹節をふり入れ軽く混ぜ合わせる。
皿に盛れば酒の肴にも、俺の後少しの満足メーターにも丁度合う和風ポテトサラダの出来上がりだ。

「伊達の刀は、みんな器用なんだな!」

と、目を輝かせて言ってくれたが、残念ながら鶴丸国永には料理の器用さは皆無だ。仕掛け作りに全振りされている。

「持っていけ」

皿を差し出し、俺はボウルに三分の一程残した物を摘んだ。

マヨネーズと醤油は鉄板だ。隠し味程度の昆布だしの素もいい仕事をしている。しんなりした鰹節が芋に絡まりいいアクセントになっている。

自分で言うのもなんだが美味い。

「…ありがとよ。今度いい酒持って行くから受け取ってくれや」

じゃあな、と皿を持って軽く手を上げ厨を出て行った。


俺はまた全ての電気を消し、手燭だけ灯して黙々と芋を食ったのだった。





今日の夜食は


☆レンジで簡単!和風のポテトサラダ





※光忠作のバターロール(少し大き目)三個

※コーンスープ(魔法の粉の奴)


でした。





※※※※※※※※※※

後日、日本号から『勝山』が届いた。

伊達家御用蔵の酒だ。流石日本号。

一緒に『菜飯』と『ゆかり』の袋も入っていた。


なかなかに渋い選り抜きだ。


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