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サロルンリムセ


ふわり、と身体が浮いて高層エレベーターをすうと昇降するような感覚。 
次いで前面がぐいと引っ張られ、背中に柔い壁が出来たようになり、突然ぺいっと吐き出される。

何度経験してもこれだけは慣れない。

毎回、こう、つんのめるようになって酷いと後ろから突き飛ばされて転んだみたいになる。

何故、皆これを普通に通って出て来れるんだろうか?
聞いてみても『そっと押される感じだよ?』と口を揃えて言うので、多分皆そうなのだ。
私だけが転送装置に嫌われているんだ。くそぅ。


で、転送装置から放り出された目の前には、大きくご立派な門。
そしてどんよりと濁った空に何者も寄せ付け無いと言う圧迫感。


テンプレの様な黒本丸に着き、まずは袂から引っ張り出した資料と、この本丸ナンバーがあっているか確認。
え〜っと…


本丸No.い―1128✕✕✕✕


…オーケー、あってる。

デカい溜息を一つ吐き出し、もう一度門を見上げた。




とにかくこの門の中に入らなければ仕事が出来ない。押したら開くかな?

やたらと無駄にデカい門の真ん中に立って力いっぱい押してみた。

勿論無理だった。ですよね。
では、こっちの木戸はどうだろう?

こちらもガタガタと音はするが押しても引いても開かない。


「すみませーん!」

「開けて貰えませんかぁ!」


声を張り上げたが無反応。
やっぱりダメか。

仕方ない。最後の手段だ。


懐から札を出し、門に貼る。
印を結んで目を閉じる。凪いだ海を思い浮かべながら身体全体に気を流す。
そして霊力の出力調整をしながら印に力を篭める。

…結構大きな門だしこれくらいで大丈夫かな…?
穴さえ開けば中に入れるしな……
よし。これで行こう。

短い呪の詠唱の後、破っ!と言う力強い声が聞こえたかと思ったら、次の瞬間には目の前の『結構大きな』長屋門が地響きと共に崩れ落ちた。

しまった、と思ったがもう遅い。門の三分の二が崩壊した。

土埃がぶわりと舞い上がり、避難の為一応走って後ろに下がったものの、ほぼ意味はなかった。

一張羅の狩衣も化粧も髪も全てが台無しだ。

まぁ、動き辛いし、好きで着てる訳では無いので中に入ったらすぐ着替えよう。


もうこの時点で政府の術者たる威厳は木っ端微塵だ。
元から無いものにさらに重ねて無くなった。
今起こった眼前の出来事と気持ちは一緒だ。


どうしていつもこうなのだろう。

仕事に出ると必ず何かをぶっ壊す。
今だに力の使い方が上手くいかない。
特に攻撃放出系。力を篭め過ぎだとは分かっている。
でもその加減が分からない。
何年修行しても仕事をしても無駄だった。
おかげで始末書の書き方はプロ級。

しかし、今回始末書は無しだ。
最終的にはこの場の封印なので、政府に見つかる事は無い。あっても多分数百年後かな。

そんな事を思いながら、先程自分が作り上げた瓦礫の山を、よいしょと登り始めた。
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