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これだから伊達の男は…


「長谷部君、ちょっといい?」 


   近侍室で書類作成に没頭していたら声が掛かった。
ふと時計を見たらお昼をとっくに過ぎ既に八つ刻になっている。

しまった、また飯を食いっぱぐれた。 訪いに返答をし、ぐいとひとつ伸びをした。

入るねと一言掛かりすらりと障子戸が開く。

「君、今日お昼食べてないだろう?」

と、長い足をたたんで持って来た盆を毛足の長い絨毯の上に置く。小さな卓袱台の上に手早く食事を並べる。

おにぎり二つと香物、後あれはチーズケーキだろうか。

「お昼とおやつが一緒だけど別にいいよね」

ちょっとした嫌味だなと思ったが何も言わずに頷くだけにしておいた。
お小言の長い刀ナンバー2には言い返さぬが身の為だ。

ほら、早くこっち来てと部屋の隅に置いてあったマイ座布団を持って来て、奴は準備万端だ。
俺は近侍用パソコンのデータを一旦保存しデスクから立ち上がった。

「いつもすまないな」
   
座布団に腰を降ろし謝っておく。

「こういう時は、ありがとうって言って欲しいな」

対応を間違えたらしい。わかった。

「ありがとう、みつただ」

薄く笑ってちょっとだけ小首を傾げ、少し甘い声で言われた通りにお礼を言う。此奴はこういうあざとい仕草が結構好きなのだ。

嫌味を混ぜてくるくらいだから昼飯抜いた事にそこそこお冠なのだと思う。

俺だって好きで食べなかった訳では無いし、好き好んであざとい真似をしたい訳でもない。
だが、この後円滑に仕事をする為には少しでも愛想を振り撒いた方が賢明だと判断したまでだ。

「…もうっ!君って刀はっ…」

両眼を片手で抑え天を仰いで震えている。 
やはりあれで正解だった様だ。

その間に握り飯(中味は明太マヨ)二つと香物の胡瓜の糠漬けと柴漬けをたいらげほうじ茶も胃の中に収めた。

ほう、と一息ついたら、いつの間にか立ち直ってた光忠がお茶のおかわりを差し出した。
先程のほうじ茶にふわり優しい香りが混じり、器も変わったので覗き込んでみた。

「ほうじ茶ラテだよ。デザートはチーズケーキだからね」

と、気が付いたら目の前の卓袱台が、主が喜びそうな何処ぞの茶店のようになっていた。
光忠凄い。

ホントは、おにぎりだからさ羊羹とかにしようと思ったんだけど、君結構食べるだろ?チーズケーキなら夕餉まで少しはお腹が持つと思ってね。

と、黙ってもくもく食べている俺に話しているが、美味くて頷くだけしか出来ない。すまん。

最後の一欠片を口に入れ、ほんのり甘いほうじ茶ラテと一緒に喉に落とす。

「あぁ、美味かった」

何も考える事なく、本心から出た言葉だった。自分では気が付かなかったが相当腹は減っていたらしい。

光忠にはいつも感謝している。愛想を振り撒いておこうなんて思って悪かった。

おそまつさまでしたと、こちらも幸せそうな顔で器を下げながら。

「あ、今日はもうひとつデザートがあるんだ」
 
そう言って胸ポケットから長方形の箱を取り出し、これ、と目の前に突き付けた。

「…ポッキー?」

箱に書かれた商品名を読み上げる。


「そう。ね、長谷部君。君、今日って何の日か知ってる?」

何の日?…なんだ?
主の誕生日はまだ先だし、政府からの依頼もまだ途中だ。
…俺と光忠が付き合った日?……ではないな。
わからん。

顎に手を置きうんうん考えてみたが見当がつかない。そもそも、その問の前に何故ポッキーが出て来た?

良し、そこから聞こう。と口を開いた瞬間、細長い物がすっと入って来た。吃驚して口を閉じ咄嗟に仰け反る。

「噛まないで、それ支えてくれる?」

何がなんだか分からないが、取り敢えず言われた通りに舌と前歯でそれを支えた。
舌先でとろり蕩けた感触。甘い。
チョコレート?あぁ、さっきのポッキーか。

「ふふっ、ありがとう」

いつの間にか至近距離で、こちらもとろけた様な微笑みが目の前にあった。

「今日はね、ポッキーの日なんだって」

ふーん?
今日は…11月11日か。

………まさか、1と棒の形状の菓子とで掛けているのか?そうだとしたらなんと安置な!

そんな事を考えていたら、こつりと口内が振動した。
   
は、と思考の淵から戻ってきたら、逆側を咥えた、こちらもとろける様な蜜色の瞳が俺をひたりと見詰めていた。
   
    まずい、これ本気のヤツだ。

本能的に逃げを打とうとした瞬間、両手で顔を固定された。



その後は早かった。

かりかりかりかりと、どんどん菓子が減って行く。

最後は俺の口中から奪い、少しだけ残った噛み砕いた菓子の残骸を舌の上で分け合う。

厚くて長いその舌は、俺の中を隅々まで荒らし回った。

いつの間にか光忠の左腕は腰に巻き付き、右手は後頭部へ。俺の腕も光忠の首と背中に巻き着いていた。


ちゅっと可愛らしい音がして、密な口付けは終わりとなった。


「あは。長谷部君、物足りないって顔してる」


続きは夜にね。と、情慾の欠片を宿した琥珀の瞳で頬をひとなでされた。

そして来た時と同じ様に、盆を持って障子戸に向かう。

「君へのデザートじゃなくて、僕のおやつになっちゃったかな」

そんな事を言いながら障子戸を開け廊下に出る。

「それ」

振り向いて台の上のポッキーの箱を指す。

「今夜の為にさっきの事思い出しながら食べてね」


「僕の可愛い長谷部君」


障子戸がそっと閉まった。



色んな事を思いつつ、長谷部が悶絶するまで後十秒。


こんなんじゃ仕事どころか、何も手につかんわ!




くそっ…!この伊達男め!

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