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産んじゃいました!?

羞恥爆発妄想爆走

腹を抑えて庭を駆け抜ける。

何振りかの短刀とすれ違ったが、俺の(多分)形相に驚いたらしく誰も声を掛けては来なかった。

五虎退なんかはあからさまにビクッとして虎をぎゅっと抱き締め涙目だ。
可哀想な気もするが、そっちの方が好都合。後で菓子でもやろう。

大きく雅な松の木を右に曲がるとすぐそこ執務室。そのまま縁側に飛び乗…ダメだ裸足だった。
手前で急ブレーキを掛け縁側に腰掛け、大倶利伽羅が世話してる猫の脚を拭く雑巾を探して自分の足を拭う。
流石に人型の足だから相当汚してしまった 。これも後で替えを持って来なければ。

両足裏が綺麗になったのをしっかり確認して執務室前に膝を着く。

「失礼します、長谷部です。主、お忙しい所申し訳ありませんが少しよろしいでしょうか」

中からは驚きと共に諾の声が聞こえ、俺は静かに障子を開けた。

「あんた今日から休みで…それ、寝間着?頭もボサボサだし……まさか、光忠と何かあったの?」

俺を一目見るなり主がもう一度驚きの声をあげる。
しまった。光忠から逃げるのに必死で身繕いを気にする暇もなかった。
俺とした事が…なんたる無様。

申し訳ありませんと頭を下げつつ寝間着の乱れを整え、髪もささっと撫で付ける。

「そんなのいいから!とりあえず早く中お入り」

主のお言葉に甘え、失礼しますと足早に部屋に入りぴっちり障子を閉めた。

「で、どうしたの。ホントに光忠と喧嘩でもした?」

仕事の手を止め、わざわざ俺と向かい合って聞いてくれた。主は本当にお優しい。

「いえ、そうではありません」

「じゃあどうしたの。長谷部がそんなだと喧嘩かなんかでDVでも受けたのかと思っちゃったよ」

あくまで俺が正しいと思ってくれるウチの主、最高。
光忠は何か主にやらかしたのだろうか?

「お気に掛けて頂き大変有難く存じます」

「私は嫁の味方だかんね」

なるほど。そういう主天秤(主ジャッジとも言う)の結果か。光忠とマジ喧嘩したら主に匿って貰おう。

「で、あの、本題ですが…」

このままだと話しが進まなくなりそうなので軽くぶった切る。

「あぁ、うん。で?」

「これを見て頂きたいと…」

袷に手を入れ中からあの卵を取り出す。俺の体温が移ったのかほのかに温かい。

「…たまご?」

「はい、多分…。朝、目を覚ましたら布団の中、左手側にありまして…」
 
主は興味津々と言う顔で卵を受け取り、矯めつ眇めつし

「へぇ…また面白いもん産んだねぇ」
 
と、今、最も聞きたく無い言葉をサラりと言い放った。
 
俺は軽く絶望した。あまりにもショッキングな言葉に…。
そして、震えながらも一番聞かなくてはならない事をやっとの思いで口にした。

「…あ……やはり…俺が、産んだ…の、でしょうか…?」

「え。それしかなくね?」

簡単ーーーー!!

すっげ簡単!主、俺は男士ですよ!
何故その様に『今日の夕餉なんだろね♪』ぐらいのお気持ちで言われるのですかぁっ!

……異常だ。俺は刀の付喪神でしかも男体だ。
それなのに、た、卵を産むとは!

俺が光忠にあんなことやこんなことされて疲れて眠り転けている間に、布団の中では光忠のアレコレと一緒にあの卵をひり出していたのだっ!!
なんという…なんという……!!!


畳に突っ伏し俺は叫んだ。

「刀解して下さいぃぃぃぃ!!」





◇◇◇

この時のへし切長谷部の心境を30字以内で述べよ。
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