産んじゃいました!?
遅かった。
彼奴が帰ってくる前に主に相談しようと思っていたらこれだ。
何故いつもいつもこういう時に、お前は上手い具合いに現れるんだ?
おかしくないか?
まさか、この部屋に隠しカメラとか付いてるんじゃなかろうな?
とりあえず後で家捜ししてみよう。
そんな事を一つきりの瞳を見つめたまま考えていたら瞬間、真顔になってずいと部屋に入って来た。
少し前傾姿勢で右手を伸ばしたまま固まっていた俺は、消えた笑みにヤバさを感じ、部屋に入った一歩分後退ってしまった。悪手だと解っているのに思わず身体が反応してしまったのだ。
そんな俺を見下ろし、ふと目を逸したと思ったら持っていたお膳をそっと脇に置き、もう一度ゆっくりと目の前に立ち塞がった。
美形の真顔マジで恐い。
光忠が一歩前に出れば、俺が一歩後退る。また一歩出れば一歩後退る。
そんな事を繰り返せば当然最後は壁にぶち当たる訳で。
尻が壁に付いてビクリとし、後ろに目線をやったその時、左肩に圧が掛かり壁に押さえつけられた。
逆手は壁ドンだ。手では無い。腕でだ。
そのまま耳元で甘く低い美声が囁く。
「長谷部君…何を隠しているのかなぁ?」
わざと熱い吐息の様に耳に吹き込む。
これはマズい。
「んっ…!」
出すつもりなどまったく無い甘い声と昨夜の名残で勝手に身体が震える。
ホント完全に此奴に躾られてるな。
「お腹痛いわけじゃなさそうだし、ほら、隠している物出して?」
うわ、やめろ!口唇が耳にさわさわしてる!
駄目だ。このままではまた、ハフンてなってヨシヨシってされてもうどうでも良くなって『おれ、卵産んだかもぉ』なんて良く考えると赤面このうえない声で自分からバラすんだ。
あれ?なんだか自分で思っておいてなんだが情けなくてちょっと涙出た。
だが、使える。
仰げていた顔をぐいと下にさげて目いっぱいの上目遣いで光忠を見る。
「…そんなことするときらいになるから」
……どうだ?渾身の一発。効け!
「なっ!!!なんて顔するの!」
よし、右手が少し浮いたぞ。今だ!
素早くしゃがみこみ光忠の腕囲いから脱出。
そしてそのまま走り障子戸を開け放ち廊下に出て勢い良く庭にダイブ。
「すまない、光忠!!」
と、一言叫んで主の居る執務室目掛けて裸足のまま逃走した。
光忠。お前、ホントにチョロいな。