リクエスト小説


「う~んどこに閉まったのかなぁ…」

確かここだと思ったんだけど。向かいの部屋で疲れて寝息を立てている家主を起こさないように真夜中のクローゼットをごそごそと漁っていると、奥の隅っこで縮こまったきれいな包装紙を発見した。

「あ、あった!」

思わず漏れた声を塞ぐ。べつにこれはお宝でも何でもない。過去にゆうくんにお土産と笑顔で御主人様に手渡されたプレゼントだ。わぁいなんだろうお菓子かなぁと素直に喜んだ馬鹿みたいな自分を思い出す。中身を見て怒って一度突き返したけど、ゆうくんがいらないなら捨てると言われて結局渋々受け取ってここに隠していたのだ。最近まですっかりその存在を忘れていたけれど。

こんなに小さいのに本当に入るんだろうか…

ぎゅっとまるめて握ったら掌の中に収まってしまいそうなくらい軽く、つるりとした滑らかな布の固まりを左右に引っ張ってみる。少女漫画じみたふわふわと周りを彩るレースと、小花の刺繍が施された横に伸びたそれを僕は唸りながらしばらくにらめっこするのだった。




――――


「泉さん遅いなぁ」

どうしても抜けられない仕事の付き合いがあるから遅くなると連絡が来てから、何度時計の針が往復するのを見たんだろう。

せっかく履いてみたのに。

いつもと違ってなんだか心もとない、僕のお尻を包んでいる慣れないそれをもう脱ごうと決めたその時、主人の帰宅を知らせるエントランスのロックが解除される音がした。帰宅を待ち侘びたペットのように駆け寄るけど、別に泉さんが帰って来て嬉しいわけじゃない。お出迎えも立派なお仕事だから。きっとこのドアを開けば、ゆうくん遅くなってごめんねとすまなそうな顔をする御主人様がいて、僕はそれを笑顔で出迎えて…

ガチャっ

「泉さん、おかえりなさ」
「ゆうくぅん!!もしかしてここでずっと待っててくれたの…?寂しかったよねぇごめんねぇ」
「ぎゃーーっ!?お、お酒臭さっ…泉さん酔ってるでしょ!」
「ぜんぜん酔ってないよぉ」
「嘘っ、絶対酔ってる!やだぁ離してぇ」
「え~~?ゆうくんとおかえりなさいのキスしたい」
「いやっ!お酒飲んでる人となんか絶対にしないっ!」

久しぶりにキスしようよぉとアルコールの吐息を含んで近付いてくる端正な顔を必死で避ける。お酒飲んでくるなんて聞いてないよ。そりゃあ勧められたら断れないかもしれないけど、いつもは事前に知らせてくれるのに。
お酒は人の本音を晒すと言うけれど、酔った御主人様は普段僕に対して我慢しているところがあるのか、こうやって結構強引に触ってくることがある。それに大抵その時の記憶がない。つまり、相手をするのが相当めんどくさい。あと、かなりしつこい。

「あれ?ゆうくん御主人様を置いてどこに行くの?」
「っっトイレ!!」

酔っ払いの相手なんかしてられないよもう!玄関でバタバタとしばらく取っ組み合いの据え、力強い腕から無事に脱出する事に成功した僕は狭い個室へと逃げ出した。こんなことなら遅くまで待ってないでさっさと寝れば良かった。勝手に待っていたのは僕だけど、どうしても愚痴が溢れてしまう。

「せっかくお仕事頑張ってるからチラッとだけ見せてあげようと思ったのに…泉さんのばか」
「へぇ、何を見せてくれるの?」
「何って新しいパン…って泉さん!?どうしてここにいるの!」
「パン?おいしいパン屋さん見付けたとか?ゆうくんが何か言いたそうな顔をしてたから気になって着いてきちゃた。ついでにおしっこするの手伝ってあげる」
「なっ…!何考えるの!はやく出て行ってよ!!」

どうしてこの人は酔っていてもそういうことには気付くんだろう。普段僕の気持ちには全然気付かない癖に。びっくりしたせいか一気に押し寄せる尿意にもじもじと内股を擦り寄せる。そんな僕の様子を知ってか知らずか。この泥酔したちょっといつもと違う御主人様は、出て行くどころかなんとスカートのなかに手を差し込み、あろう事か僕の履いている下着に手を掛け引きずり降ろし始めた。

「いやぁああ!!?やだぁ何するの変態っ!!」
「だって脱がないとゆうくんおしっこ出来ないよ。あれ、今日はいつものピ〇チュウじゃないんだ?これ前に俺があげた下着だよね」

慌てて抵抗するも時すでに遅し。気付いたらお尻丸出しのすっごく間抜けな状態になっていた。
うぅ、こんな形で見せるつもりじゃなかったのに。しかもトイレでなんて。下着の替えが無かったから仕方なく履いてるだけ!って答えてもゆうくんやっと履いてくれたんだ、なんて御主人様は嬉しそうに微笑んでるけど。そのわりには、もし床を汚してもゆうくんのなら喜んでお掃除してあげるって無理矢理脱がそうとしているから意味が分からない。そんなことされても全然嬉しくないよ。

「あっ、いやぁ見ないでぇ…」

空気に触れる面積が大きくなるにつれて、窮屈な女性物の下着から僕のペニスの先がふるりと飛び出した。見られなくなくて必死で手で隠すけどもう遅くて、何だか泣きそうな気分になる。だって。

「どうして?」
「だってぇ…僕の見たらやっぱり男なんだって泉さんがっかりしちゃうもん…」

泉さんはいつも僕のことをかわいいって言ってくれるけど、泉さんの周りにいるのは綺麗な女の人ばかりで。幾らフリルの付いたメイド服や女の子の下着で誤魔化しても僕は男の子で。もし、こんな身体を抱いてつまらないなんて思われたら、嫌われたらどうしよう。
そう考えたら何だか悲しくなってきて。じわりと滲んだ涙に気付いた御主人様が震える僕の身体を後ろから優しく抱き締めてくれる。

「そんなことないよ。ほら」
「あっ…」
「かわいいゆうくんの見たら興奮してこんなになっちゃった」

お尻に押し付けられた熱の固まりに力が抜けて赤面した僕は、いつの間にか覆っていた手を降ろしていて。代わりに御主人様の長い指がぐにぐにと敏感なところをくちゅりと捲りはじめた。身体中に電気が走ったみたいにびくびくと震えて足が崩れ落ちそうになるのを、息を吐いて必死に耐える。

「ゆうくんの隠れてたピンクの先っぽ出てきたよ。舐めてみたいなぁ」
「あっだめぇおちんちん弄らないでぇ…それ以上触ったらおしっこでちゃうぅ…」
「いいよ。我慢しないで出して」
「んん…っ!いやっ見ないでぇ…いやっ!やあぁああああ!!」

耳元で囁かれた甘い刺激に耐えられなくて、僕は窪みから今まで溜めたきた熱い液を勢いよく撒き散らした。





「うっ…うわぁああん!!ひどいっ僕やだって言ったのにぃ…!」
「おしっこするゆうくんも可愛かったよぉ」
「ばかぁっ!!」

こんなことになるなら女物のパンツなんか履かなきゃ良かった。ゆうくんもう泣かないでと、ぐすぐす泣く僕の濡れた先端をあやす様に御主人様が拭っている。誰のせいで恥ずかしい思いしたと思ってるの!ばかっ!

「泉さんなんかきらい!きらい…っ!」
「俺はゆうくんのこと大好きだよ。だって俺の為にこの下着履いて待っててくれたんでしょ。そんなかわいいメイドさん世界中探してもいないよ。ねぇ、やっぱりキスしたいなぁ」

どんなにひどいことをされてもキスしようよ、なんて好きな人にそんなふうに愛おしげに見つめられたら断れないよ。
お酒は人の本性を晒すと言うけれど、いつの間にか自分までアルコールの匂いに酔ってしまったみたい。僕はおかえりなさいと小さく呟きながら、すっかり遅くなってしまったお出迎えのキスを大人の匂いのする唇に押し付けた。




――――


「ゔぅ…頭痛い。ねぇゆうくん、昨日帰って来てからの記憶がないんだけど…」
「泉さんのばかっ!だいっきらいっ!!」
「ええっ!?待ってゆうくん嫌わないでぇ~~~!!」


もう二度と履かないんだから!僕は再びあの下着をクローゼットの奥にしまうことを決めるのだった。
4/5ページ
スキ