こんな世界があってもいいのかもしれない

白亜の館にもきびしい冬の季節がやってきました。もみの木は綿帽子をかぶり、雪で出来た厚手のコートを羽織りながら、えへんと着飾った姿を森の住人たちに見せつけています。なにせ彼らにとっては普段目立たない自分たちが唯一主役になれる季節ですから。おや、自慢の広い庭園で誰かが雪の中を嬉しそうに駆け回っていますね。誰の足跡でしょうか。さっそく外の世界を覗いてみましょう。



ハッハッハ。ニュイは真っ白な雪に朝から大はしゃぎ。いつもの硬い土ではなく、ふかふかの地面に足跡を付けるのが楽しくて楽しくて仕方ありません。マタンも一緒に来ればよかったのに。ニュイはつい先程誘ったマタンのことを思い出します。寒さの苦手なマタンはニュイの誘いを断ると、暖炉の前に移動し体を丸めてしまうのでした。
ああ、なんてもったいない。いちねんのなかでも冬の季節はうんと短いのに、どうして誰も外で遊ばないのだろう。ニュイは澄み切った空気を胸いっぱいに吸い込むと、思う存分に前足で穴を掘り始めました。雪は土とは違い、からだがまっくろに汚れて怒られることもありませんからね。そうしていつもより深く、まぁるい穴を掘り終え満足げなニュイは、今度はあるものを探しに出かけます。そしてちらつく雪に紛れてニュイがなにかをくわえて戻って来ました。それは赤い木の実でした。ムクドリたちの食べ残しでしょうか。この時期になるとヒイラギの実を好んで啄む鳥や、冬眠に備えた慌てんぼうの小動物たちが雪のうえにちいさな落とし物をしていくのです。
ニュイは変わった形の葉っぱや木の実を集めるのが好きでした。まるで宝探しのようだと、ニュイは喜びながら次々と見つけては穴のなかへと放り込みました。そうしてしばらく戯れていると、白い雪景色のなかでひときわ目立つ大きなくるみを見つけました。珍しい落とし物に興奮したニュイはこれはお嬢様へのお土産にしようと思いました。以前マタンにヘビにそっくりな木の枝をお土産にと持ち帰ったのですが、館内に外のものを持ち込むなときつく叱られてしまいました。本当はマタンはヘビが苦手なだけなのですが、ニュイはへなりと耳を伏せるのでした。でもお嬢様ならきっと喜んでくれるはずです。なぜならつい先日、お嬢様が肩に乗せたミディと楽しげに歌をうたいながら大広間のもみの木に松ぼっくりを飾るところをニュイは見ていたのです。ニュイはぴんと耳を立たせると、硬い殻をくわえながら嬉々と走り出しました。






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大広間に入ると暖炉のなかで燃え盛る薪がぱちぱちと鳴っています。マタンは相変わらず背中を丸めていて、どうやらニュイが戻って来たことには気づいていないようです。ニュイは暖炉の前で本を読んでいるお嬢様にそろりそろりと近づくと、くわえていたくるみをぽとりとお嬢様の手に落としました。ヨダレまみれのくるみを受け取ったお嬢様はこう考えました。
「もしかしてこれが食べたいの?分かったわ、ニュイ。私にまかせて」
もちろんニュイにはそんなつもりはありません。お嬢様はニュイにちょっと待っていてねと微笑み、どこかへ去るとしばらくしておおきな木製の人形を抱えて戻ってきました。言葉どおり大人しく待っていたニュイはぎょっとしました。立派なおひげの生えた赤い兵隊が、こわい顔をしながらむき出しの歯をかちかちと鳴らしているのです。それはただのくるみ割り人形でしたが、ニュイはその姿にすっかり怯えてしまいました。そのことに気付いていないお嬢様は、兵隊のくちの中に硬い殻を押し込むと、そのまま背中のレバーを下ろします。するとどうでしょう。
「ぎゃいんっ!?」
ばきっ。くるみの割れる音にニュイは驚いて悲鳴をあげました。その鳴き声に思わず寝ていたマタンもしっぽをたてて飛び起きます。びっくりしたニュイはおしっこをまき散らすと、そのまま大広間から勢いよく飛び出してしまいました。
「あっ、ニュイ待って!……どうしましょう私、ニュイを驚かせてしまったわ」
マタンは走り去るニュイの後ろ姿を心配そうに見つめますが、お腹が空いたらそのうち戻ってくるだろうと、呆然と佇むお嬢様の足元に擦りより主を慰めるのでした。







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「うぅ……お嬢様の前で粗相をするなんて。どうしよう恥ずかしくて帰れない」
気づくとニュイは外にいました。ひらひらと舞い降りる雪が、空を見上げるニュイの鼻を濡らします。ニュイは重い足どりで雪を踏みしめました。遊んでいた時の羽根のような軽さが嘘のようです。あんなに美味しいと感じていた空気でさえ、今ではニュイのからだを冷え冷えとさせるだけでした。そうしてしばらく俯いて歩いていると、ニュイはひときわ目立つ大きなもみの木の下にたどり着きました。そこはニュイがさきほど元気に駆け回って遊んでいた場所なのですがニュイはそのことに気づいていません。お嬢様に情けない姿を見せてしまい執事失格だと落ち込むニュイは、そのまま木にぶつかるときゃうんと声をあげながら雪で隠れた穴のなかに転がり落ちてしまいました。あれから積もった雪は思いのほか深く、ニュイは自分で這いあがることが出来ません。
「誰か、誰かいませんか!たすけてください!!」
きゃいん!きゃいん!ニュイは必死に吠えますが、辺りはしんと静まりかえるだけでした。憐れんだもみの木はせめてもと、ニュイに雪が被らないように葉っぱで空を覆ってあげるのでした。









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ほどなくして、白亜の館ではニュイ以外の執事たちがなにやら神妙な面持ちで集まっていました。
「12時になってもニュイが戻って来ない?それはおかしいな。お嬢様がこんなに探し回っているのに」
ニュイの名前を呼びながら館中を走り回る主を見ながらオーロージュが首を傾げます。マタンがふと窓を見ると冷たい風が舞っているではありませんか。まさかまた外にいるのではないかと青ざめたマタンがことのいきさつを説明すると、ミディが片羽をあげてこう提案しました。
「私が外を見てきましょう」
ミディが窓から飛び立ちます。けれども外は視界が悪く、うまく羽根を広げることすらままなりません。
「やはりここは我が行こう」
雪まみれで戻ってきたミディに、今度はソワレが声をあげます。
「いや、ソワレはダメだ。怪我が悪化でもして、もし走れなくなったらお嬢様が悲しむだろう」
「しかしっ」
この時期になると乾燥して蹄にヒビがはいりやすくなるのです。はやく良くなるようにとお嬢様は毎日ソワレの脚を優しく撫でました。オーロージュがなかなか納得しようとしないソワレに言い聞かせている間、このまま黙って待っていられないとマタンが外へと飛び出します。
「……っ」
しかし想像以上の冷たさにマタンは固まってしまいました。なんとか前に進もうとするのですが、雪に慣れていないマタンは手足がもつれてうまく歩くことすら出来ません。
「待ってろよニュイ。おれが見つけてやるからな」
ソワレは諦め、今度はオーロージュが勢いよく跳ねます。ところが思った以上に雪は深く、なんとオーロージュはすっぽりと頭から逆さに埋まってしまいました。驚いたマタンたちはオーロージュの足を必死に引っ張りあげるのでした。






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あれからどのくらい時間が経ったのでしょうか。疲れてお腹のすいたニュイは弱々しく雪をかじりました。けれど空腹は満たされず切なさが増すだけでした。本来ならば今ごろ皆と一緒に皿を囲いながら楽しく昼食をとっていたはずなのです。このままでは自分は氷漬けになってしまうかもしれない。そして見つかったらあの硬いくるみのように、こわいおひげの兵隊のくちのなかに放り込まれて粉々に割られてしまうんだ。マタンの言うことを聞かなかったバチが当たったのだと、思い込みのはげしいニュイがぽろぽろと涙をながしていると、見守っていたもみの木が突然ひかりに包まれ輝きはじめたではありませんか。それはまるで魔法のようでした。驚いたニュイはしろい息をはきながら顔をあげます。オーロラの帯から氷の粒がキラキラと舞い降り、なんだか微かなそりの音まで聞こえるようでした。ニュイはじっと耳を伏せてしばらく様子を伺うことにしました。

「HaHa~♬楽しいな~」
「つぎはボクの番だよ!」
「お、おれは最後でいいです……」
「ふふっみんなで順番に乗りましょうね」

いつの間に現れたのでしょう。きぃきぃと木の蔦で編んだブランコの漕ぐ音と、楽しげな話し声が聞こえます。ニュイはこの時期になるとお嬢様が寝る前に好んで読んでいる本を思い浮かべました。それは氷の国に住む妖精たちが、従者の引くそりに乗り、空から雪を降らせて冬の訪れをこの地に教えてくれるというお話でした。雪の妖精たちは人間たちに見つからないように、こっそりとブランコやそり滑りをして遊んでは、雪どけの季節になると氷の国に帰るというものでした。ニュイは意を決して妖精たちに声をかけてみることにしました。
「妖精さん、妖精さん」
「うひゃ?!だ、だれ……もしかして人間?」
妖精たちの羽根がびくりとふるえます。穴から突然声をかけられたらだれでも驚くので仕方ありません。それに、もし人間に見つかったら大変です。妖精たちは警戒しながら穴をのぞき込みます。そしてニュイの顔を見てほっと胸を撫で下ろしました。
「僕は白亜の館の執事のニュイともうします。お恥ずかしいことにここから出られなくなってしまいました。どうか僕を助けてはいただけないでしょうか?」
「……なぁんだ犬かぁ。それにしてもおまえがあの館の執事だって?犬の執事なんてボク、見たことも聞いたこともないよ」
桃色の髪の愛らしい妖精が首を傾げます。それもそのはずです。この子は氷の国の王子さまで、繊細な氷の彫刻がほどこされたおおきな城には、口うるさい執事やお世話係がたくさんいるからです。もちろん動物の執事なんていません。
「ほら、その証拠にループタイをつけているでしょう?」
「う〜ん……」
ニュイは必死に自分は執事だと説明しました。まずは妖精たちに自分を信用して貰わないといけないと思ったからです。それは白亜の館の刻印がほどこされた立派なものでしたが、ただお嬢様が首輪がわりに結んでいることをニュイは知りませんでした。
「犬の妖精なんてラブ~い♡」
「よくわからないけど、この犬さんはうそをついてないと思うな~。だってとてもきれいな『色』をしています!」
「まぁまぁ、困っているようですし。このままでは風邪をひいてしまいますよ」
まわりの妖精たちの言葉と、震えるニュイのからだを見た氷の国の王子は仕方ないなぁ、優しい僕らに感謝してよねとニュイに手を差し伸べました。ニュイはなんだか春の陽気をあびたような気持ちになりました。
さぁ、ここからが大変ですよ。4人の妖精たちは何度も何度もニュイのからだを引っ張りあげようとしますが、石のように重くびくとも動きません。なにせ妖精たちは手のひらに乗るようなサイズなのです。ちいさな彼らがせいぜい運べるのは軽い葉っぱや木の実くらいでしょう。妖精たちの美しい羽根がくったりとよれてしまったことに気づいたニュイは、くぅんと鼻を鳴らしこう提案しました。
「この時間帯ならマタンという猫が正門の窓辺で見張りをしているはずです。そこで僕がここにいることを彼に知らせて連れて来て欲しいのです」
すこし時間はかかってしまいますが、ニュイはマタンが迎えに来てくれるまで穴のなかでじっと寒さに耐えて待とうと思いました。
「……それがね、そうしてあげたいんだけどそうもいかないんだ。もうすぐ、使いのものがボクたちを迎えにやって来る。ボクらを待っている人々のために世界中に冬の便りを届けに行かなければいけない。だから知らせることは出来ても、ここまで戻ってくる時間がないんだ。……でも心配でこのまま置いてなんかいけないよ」
自分のせいでこのあたたかい笑顔をくもらせてはいけない。ニュイは思いました。ニュイにはお嬢様を守るという大事な使命があります。雪の妖精の彼らにも大切な使命があるのです。これ以上迷惑はかけられません。ニュイはかじかんだ足をさすりながら考えます。するとふと爪になにかが引っかかるのを感じました。そうして自分の足もとに隠された『落とし物』の存在を思い出したのです。











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マタンは全体を見渡せる正門の窓辺で見張りをしながらニュイの帰りを待っていました。暖炉の向こう側ではオーロージュのおおきなくしゃみが響き、その傍らで心配したミディとソワレが付き添っています。ぴゅうぴゅうと冷たい風がいたずらに窓を叩く度にマタンは落ち着かない気分になりました。不安になったマタンがもう一度ニュイを探しにいこうと決意した、その時です。

「シルバーさん、シルバーの猫さん。この声が聞こえていたら窓を開けて空を見てください」

どこからともなく聞こえたささやきにマタンは言われるままに窓を開けます。いつもなら警戒心の強い彼は侵入口となる窓を簡単には開けようとしませんが、なぜだか不思議とその声は信用できました。空を見上げてマタンは驚きました。風がうそのようにぴたりと止み、冷たい白銀の世界に突如現れたのは星のように眩いオーロラの光でした。空からはおだやかな天使の声が降り注ぎます。





あなたのために道しるべを作りましたよ。

さぁ、待っているあの子を迎えにいってあげてください。

そうそう、雪道は深いので、念のために人の手を借りるといいでしょう。

だいじょうぶ。必ずたどり着きますよ。

聖夜の夜にまた遊びに来るとあの子に伝えてください。

白亜の館の執事たちに、雪の祝福があらんことを。





妖精たちはマタンの首にさげられたループタイにくすりとほほ笑みます。そうして従者の引く立派な氷のそりは、オーロラとともに消えてしまいました。鈴の音が遠ざかるのを見届けたマタンは、はやくニュイの元へ行かなければと廊下を急ぎます。
「うわぁっ!?」
ふわりと、突然マタンの視界が白くなります。前をよく見ていなかったマタンは廊下で誰かにぶつかってしまいました。
「眼鏡…眼鏡……あった」
どうやら洗濯物を運んでいる途中だったらしい青年は落とした眼鏡を拾いあげると、ほっと息をつきますが、今度はうごめくシーツの存在に気づいて驚いた声をあげました。もぞもぞとシーツから抜け出したマタンは青年の顔を見て、ちょうどいいと近寄ろうとします。
「ええと……僕に何か用でしょうか?」
ですが、青年はなぜかじりじりと後ずさり、いっこうに近寄ることすら出来ません。無理もありません。なにせお嬢様以外の者が触ろうとすれば、するどい爪が襲いかかる恐ろしい猫というのがこの館に住む者のマタンに対する認識なのですから。マタンとしてはただニュイを探すのを手伝って欲しいだけなのですが、青年の態度に苛立ったマタンは、時間がないとうなり声をあげてとうとう青年に飛びかかりました。
「うわぁぁぁ!!や、やめてください!」
「あら、めずらしい。マタン、遊んでいるの?」
同じくニュイを探し回っていたのでしょう。眼鏡の青年の叫び声に、不思議そうな顔をしながらお嬢様が現れました。その後ろには銀の髪をした青年が立っています。マタンは眼鏡の青年のうえからあっさり退くと、お嬢様のスカートの裾を引っぱり窓に向かってにゃあにゃあと必死に鳴くのでした。
「なぁにマタン、外に出たいの?…もしかしてニュイが外にいるのね?」
いつもと違う様子に気づいたお嬢様は、マタンを抱きあげるとコートを取りに走り出してしまいました。二人の青年も互いに目配せをして、すぐさまお嬢様の後を追います。眼鏡の青年の頬には肉球の跡がくっきりと残っているのでした。






外に出るとあたたかな午後の日差しがマタンたちを出迎えてくれました。雪の眩しさにマタンは思わず目をつぶりそうになりましたが、まずは妖精たちの残してくれたという道しるべを探さなければいけません。お嬢様に抱きかかえられたマタンが瞳を光らせていると、きらりと反射したなにかを見つけます。マタンはお嬢様の腕のなかからするりと飛び降りました。それはただのガラス瓶の底でしたが、その先にちいさなそりが走った跡のような小道が続いていました。今度は曲がりくねった枝が落ちているのを見つけました。マタンにはそれがニュイの集めたものだとすぐに分かりました。以前、似たようなものを見たことがあるからです。そうして、お嬢様たちが赤い木の実や、変わった形の小石を集めていくと、一本のおおきなもみの木にたどり着きました。すぐそばの穴のなかにニュイはいるのですが、ニュイは待っているうちにいつの間にか眠ってしまいました。雪を踏みしめる足音に気づいたもみの木は、えいと枝をゆすると、すやすやと気持ち良さそうに眠るニュイの寝顔にどさりと雪をかけました。
「きゃんっ!?」
水をかけられたようにニュイが飛び起きます。雪に反射したその声をマタンは聞き逃しませんでした。ループタイを揺らしながらかけ寄り、そしてついにニュイを見つけたのです。
「まったく、お嬢様にも心配をかけるだなんて。帰ったらたっぷりお説教するからね」
「きゅぅうん……」
銀髪の青年にすくい上げられたニュイの瞳に涙がにじみます。ほんの数時間離れていただけなのに、もう何年もマタンに会っていないような懐かしさを感じたからです。
お嬢様もニュイを抱きしめ、つめたい頬にキスをおとします。そうだ、僕はお嬢様に伝えないといけないことがあるんだ。僕を助けてくれた恩人がいるんです。ニュイはもみの木に向かって吠えます。
「どうしたのニュイ?そこになにかあるの?」
眼鏡を掛けた青年がお嬢様を抱きあげ近づくと、枝に蔦で編まれたちいさなブランコがぶら下がっているではありませんか。お嬢様はブランコに手を触れると、以前お父さまがクリスマスに贈ってくれた本に出てくるものとそっくりだと思いました。
「やさしい妖精さん、ニュイを助けてくれてありがとう」
銀髪の青年が黒いコートを脱ぎ、二ュイのからだをくるみます。あたたかいぬくもりに包まれたニュイは安心して眠ってしまいました。








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それから、数日が経ちました。おや、あのもみの木になにやら豪華な装飾がほどこされていますね。目立つことが大好きなもみの木は嬉しくてたまりません。そう、今日はかれらにとっても特別な日なのです。
白亜の館からは七面鳥の焼けたおいしそうな湯気のにおいと、にぎやかな明かりがもれていました。

きらきらと白い光の粒が舞い降り、もみの木が光に包まれます。枝にはちいさな妖精たちが並んでも座れるような立派な木製のブランコがぶら下がっています。板のうえには、濃紺のリボンでラッピングされたちいさな箱とお礼の手紙が置いてありました。自分たち宛てのプレゼントを見つけた妖精たちは大喜びしました。彼らはいつも誰かに祝福を贈る側なのです。妖精たちはさっそくブランコに乗り、箱の包みを開けました。なかにはくるみ入りの焼き菓子が入っていました。妖精たちはそれを仲良く分け合うと、しあわせそうに頬張りました。

静かな聖夜の夜にブランコを漕ぐ音と、楽しげな笑い声が、いつまでもいつまでも響いていました。















おまけ【くるみ割り人形】



さて、聖夜の楽しいひと時も終わり、翌日もみの木に置いたプレゼントがなくなっていることを見届けたお嬢様には、ひとつだけ困ったことがありました。
それはニュイがあのくるみ割り人形にすっかり怯えてしまうようになったからです。
お嬢様はどうしたら良いのか考えました。そうしてお嬢様は寝るまえにニュイたちにくるみ割り人形の童話を聞かせることにしました。こわいお顔をしていますが、くるみ割り人形は悪い人形ではないことを伝えたかったのです。
ところが、童話を聞き終えたニュイたちはくるみ割り人形に向かって吠えたり暴れまわったりと大騒ぎ。悪いネズミ退治なら自分たちがすでにしていますし、なによりお嬢様が人形の国に連れていかれるのではないかと、ニュイだけではなくバトラー全員が警戒するようになってしまいました。みんな思い込みが激しいですから仕方ありませんね。これではどんなに美しい王子に変身してもバトラーたちにたちまち追い返されてしまうことでしょう。


こうしてくるみ割り人形は箱の中に大切にしまわれ、お嬢様の子どもたちが見つけるまでじっと眠りにつくのでした。

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