彼女は、電話口に出た相手にこう言った。
「人虎を追い詰めました。　芥川先輩＿＿」

僕と谷崎さんの表情は、一気に凍った。
あ、芥川だと...

仕事に向かう少し前＿＿

僕は、国木田さんに呼び止められた。
国木田さんは、一人の男の写真を見せながら僕に言っていた。
「敦、俺は、お前に無慈悲なわけじゃない。この業界で生き残りたければ、この、芥川という男には、気をつけろ。
こいつは、ポートマフィアの狗で、俺でも、まともに戦ったら負ける。だから、こいつを見たらすぐ逃げろ＿＿。」


はっと、僕と谷崎さんが気付いたときは、彼女の銃口が谷崎さんの後頭部に向けられていた。
そして、彼女は言った。
「我が主のために、ここで死んでもらいます」と。

二丁のマシンガンが、連続で弾を発砲した。
血が飛び散った。
隣を見ると、谷崎さんの顔に血がついていた。
じゃ、じゃあこの人は...
「お兄様、大丈夫ですか＿＿。」
小さい声が聞こえた。息さえするのも苦しそうな声だ。
谷崎さんが、声を放つ。
「ナオミっ」
ナオミさんが、撃たれたのだった。
銃の所為で赤く染まった制服に、僕は狼狽した。

「ナオミっ。どうしたらいいんだ。とにかく止血をしなくちゃ。敦君止血帯持ってない？いや、とにかく、えっと
与謝野先生の所に連れて行かなくちゃ。敦君足持って。」

谷崎さんの言っていることが、半分も耳に入っていなかった。僕は、恐怖のあまり声すら出なかった。

そうしている間に、女は又、言葉を放つ。
「兄思いな妹さんの後を追ってもらいましょうか」
その瞬間谷崎さんの表情が険しくなる。
「ああ？マフィアごときが。ふざけるな。」
ナオミさんを抱きかかえながら、谷崎さんは言う。
「敦君、後ろに下がってて。こいつは、僕が殺す。」
言った瞬間、谷崎さんの姿は、消える。そして、季節外れの雪が降ってきた。