日没まであと三時間。
今回は、もう片方の青年、冬瀬冴月の物語。
彼はなぜポートマフィアに入ったのだろうか＿＿。


夕暮れ時僕は横浜の路地裏にいた。
もう少しで夜になってしまう。そういえば昔父さんと母さんが言っていた。
「夜の路地裏は危ないよ。金を出せとチンピラにおどされる可能性があるからね。絶対に未成年だけで、歩いてはいけないよ。父さんか、母さんや、知っている大人と一緒に歩きなさい。」と＿＿。


まあ　今の僕には取られるお金も物もない。あるのは薄汚れた服とちっぽけな命だけだ。
しかしなぜ今になってこの言葉を思い出したのだろう。
もうとっくに2人はこの世にいないというのに＿＿

そんなことを考えながら、ゆらりゆらりと足が進む方向に身を任せて歩いていると、銃声が聞こえてきた。
危険な気がして本能的に僕は身構えた。
物陰に隠れながら様子を伺うと、はちみつ色の髪をした女が数人のヤクザらしき男たちを銃で撃っていた。それを脇から黒い外套を身にまとった男が見ていた。
そのあり得ないような光景に僕は、我を失っていた。この現場から早く逃れようと足を動かした瞬間傍にあった木箱に足をぶつけてしまった。ドンという鈍い音がして、その場にいた誰もが僕を見ていた。
ヤクザは、女が僕に気を取られた瞬間に逃げ出した。
その瞬間黒い外套を身にまとった男の外套が刃物に変身し
逃げたヤクザを襲った地面に血が広がる。
こいつは普通の人間ではないのか⁉
前に一度だけ聞いたことがある。異能力を持つ異能力者なる者がいるということを。彼が奴がもしそうなのであれば僕に生き残る道はない。でも、死ぬなんてもうどうでもいい。１９年という短い時間だったけれどこの世なんて
もう、うんざりだ。これで、楽になれるのだったら幸せだ。
僕が生きることを放棄しようと考えた時、女が僕に銃口を向けた。
僕は、女の向けた銃をじっと見つめた。さようなら。
その瞬間に、女の持っていた銃がバラバラに砕けた。
な、何が起こったんだ⁉外套の男が壊したのか？
目の前の出来事に驚きながら、外套の男を見た。
外套の男は、目の前の事実があり得ないという顔でこちらの光景を見ていた。そしてゆっくりと口を開いた。
「お前は、異能力を使えるのか？」と。
「僕には異能力などない。」そう僕は言った。
外套の男は、不敵な笑みを浮かべた。そして僕に言った。
「お前の命を助けてやろう。その代わり、我らマフィアの為に働け。お前には、異能力がある。おそらく見たものを壊す能力といったところだろう。いいな。言うことを聞くか、死ぬかどちらがいいか言え。」＿＿


正直僕は、死んでもいいと思っていた。もう僕を受け入れてくれる人なんて誰もいないのだから。異能力があったとしても、生きている必要なんてない。だが、両親が死んでから、初めて誰かに必要とされた。僕は、今この男に、いやマフィアに必要とされている。僕が、生きている理由になるのだろうか。もし、そうだとしたら、僕が、生きて良いという資格になるのかもしれない。ならば、僕にできる回答は一つだけだ。そして僕は言った。
「お役に立てるのであればなんでもします。」と。
外套の男は、続けて僕に聞いた。
「お前の名はなんと言うのか？」と。
僕は言った。
「冬瀬冴月」と。
こうして僕はマフィアの一員となった。
これから、僕の生きる理由を探すのだ。