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"みっちゃんがカッコいい"
主が刀剣乱舞無双とやらで祖の活躍を見てからしきりに言うようになった言葉だ。
元々色んな奴らにカッコいいだの綺麗だの軽率に言う人ではあったが今回のように特定の刀を褒めることは初めてだった。
長船派の派生でもある俺としては改めて長船の祖である燭台切光忠が評価される事は俺の評価にも繋がるから嬉しい限り。
……とはいえ。
流石に何度も聞かされていれば苛立ちの一つも覚える。祖が主役の作品ならまだしもそこには他の刀剣男士達も出ている。
刀も、槍も、薙刀も、偽物君も、そしてもちろん俺も。
それなのになぜ主は祖ばかりを評価するのだろうか。
「……どうして俺じゃないんだ」
「えっ」
横でゲームをしていた主がこちらに振り向く。
「あぁ、いや、何でもないよ」
「えぇ?とてもそんな風に聞こえなかったけど」
「どうでもいいじゃないかそんな事は」
「んん……大丈夫ならいいんだけどさ」
「気にしないでほしいね。それより主の方こそ大丈夫なのかな?」
「え?なんで?」
「画面の中の祖が中破になってるよ」
「おっとぉ!?」
急いでテレビに身体を向けた主はそのままいつもの様に祖を使って戦場を駆け巡る。
まったく。誰のおかげであんな事を呟いたのか何も知らない癖に。
そんなに祖を見ていたいのならいっそ彼を近侍にした方が早いんじゃないか。
彼の事だ。きっとこんな不快な気持ちなんざ抱かず主の横に立っていられるだろうに。
──────
あれからしばらくが経った時。
主がゲームを中断したかと思うとコントローラーから手を放し、身体を俺の方に向けて座り直した。
「おや、いつもならもう少し遊んでいるのに」
「……ちょぎさぁ。もしかしなくても不機嫌だよね」
「そうかな」
「むしろ露骨すぎて引く」
「ははっ、こうでもしないと分からないと思ってね」
「うーっわ。性格わるっ」
「俺としては毎回こんなものを見せつけてくる君の方が悪手だと思うけど?」
「は?見せつける??何を???」
そのとぼけた顔と無自覚さが余計に俺を苛立たせる。
「なんでわざわざこの俺に、祖に見惚れている所を見せつけてくるのかって話だよ」
「え、み、見惚れ……!?」
「無自覚とは恐れ入ったね。まさかそこまで鈍感だったとは」
「ちょ、ちょっと待って?何か勘違いしてない!?」
「勘違い?まさか」
近侍として主の事を誰よりも見てきた。今までずっと主の隣にいたのに、彼女のこんな様子は一度だって見たことが無い。それなのに勘違いで片づけられるなんて到底許せるわけがない。
「いやいやいや!確かに最近みっちゃんにカッコいいって言ってたけどそれには事情が」
「いい加減にしてくれないか!」
「え」
「俺が一体どんな気持ちであんたの話を聞いてたと思ってるんだ!!」
「ま、まってちょぎ、ねぇ、」
「自分の主のお気に入りが変わる事の恐ろしさがどれほどのものか、あんたは一度でも考えた事があるのか!?」
「っ……!?」
苦痛に顔を歪めている主を見て、そこで俺は初めて主の両肩を掴んでいる事に気づいた。
俺としたことが。
これじゃいよいよ主に嫌われるだけじゃないか。近侍どころか一振りの刀としてお役御免になってしまう。
「……くそっ」
急いで彼女の肩から手を離そうとする。
それなのに。
「……何をしてるのかな」
「いや、その……手を触って、る?」
どういうわけか主は何故かそのまま俺の手の上に自身の手を重ねてきた。
手を払いのけることも、かといってそのままなのも気が引けた俺は、静かに主の両膝の上に手を乗せることにした。
優しく握ってくれている主のその手は、憎らしいほどに暖かかった。
「んと、その、まずはごめん」
「は、」
何故謝る。
それは俺が言うべき言葉であって、あんたが言うものじゃないだろうに。
「そういうつもりじゃなかったとはいえ、確かに無神経な事してたよね。本当にごめん……」
違う。俺はあんたにそんな事言わせたかったんじゃない。
「確かにみっちゃんの事カッコいいって言い過ぎてた。いや、まあ、カッコいいのは事実なんだけどさ」
やめてくれ。
「その、別にみっちゃんに惚れたとか心変わりしたって訳じゃないんだよ」
やめろ。頼むから。
「私の気持ちは今も昔も変わってないから」
「な、んで……」
「え」
「なんで理不尽な目にあってるのに怒らないんだよ……!」
「怒る理由が無いから」
「どうして!!」
「長義が好きだから」
──これだから。
これだから今の主ってやつは。
君がそんなんだから、よりいっそう俺が惨めで、恥ずかしくて、醜くて、憎らしくなるじゃないか。
「好きだから全部受け入れるのか。こんな、あまりにも惨めな俺を」
「全部受け入れているつもりはないよ。ただその理由を否定するつもりもないだけ」
「……だからといって怒らないのは違うんじゃないか」
「今回はたまたま怒らなかっただけだよ」
「でも、でも……少しは嫌いになっただろ」
幼稚な俺がどんどん出てくる。それでも今更抑える気にはなれない。
そんなことしたところで今の俺の現状が変わるわけでもない。
……そもそも、抑えられるのであったらこんな事態にならなくて済んだわけで。
その事実がよりいっそう自己嫌悪と幼稚さを加速させる。
「身勝手に嫉妬したあげく、主にやつ当たりするような大人げない刀なんか──」
まるで俺の言葉を遮るかのように俺の手が強く、それでいて優しく握られる。
顔をあげると真剣な表情でこちらを見つめる主があった。
「悪いけど、そんなことで嫌いにならないから」
「そんなことって……」
「…………」
「……はぁ、降参だよ。君はそういう人だったね」
「うん。分かればいいよ」
「それで?」
「ん?」
「この俺がいながら何故あんなにも彼に惹かれていたのかな?」
握られている手に少しだけ力が入り、主は少しだけ苦笑いを浮かべる。
やはり何か後ろめたい事があるのかと聞くと彼女は力強く首を横に振った。
じゃあ何故?
もう一度問うと彼女は小さな声で観念したように呟いた。
「最近、友人からみっちゃんと付き合った報告を貰ってさ」
「……はぁ?」
主の説明曰く。
大切な友人が選んだ刀なのだから彼について深く知る必要があると思い、まず手に取ったのが刀剣乱舞無双だそうだ。
遊んでいくうちに祖の元々の見目の良さに加えそこに"友人の彼氏"という情報が入り混じった結果、ここ数日の様子になってしまったらしい。
「……呆れて物も言えないね」
「ごもっともです……」
はぁ、とわざとらしくため息をつくと小さな肩が一瞬震えた。
きっと俺に叱られると思ったのだろう。主ではなく、一人の人間として見せたその姿につい笑みが零れてしまった。
「怒らないよ」
「ほんと……?」
「もちろん。主だって俺を許してくれたからね。……ただし」
「え」
「少しばかりの代償は払ってもらおうかな」
握られたままの右手を彼女から引くとそのまま彼女の肩を抱き寄せた。
小さな悲鳴と可愛らしい頭が俺の胸元にたどり着く。俺は逃がさないように彼女の頭を片手を押さえつけて抱きしめる。
小さく震える肩に優越感を覚えつつ彼女のほんのりと赤くなった耳に顔を寄せる。
「君のせいで心を振り回されたんだ。半分おすそ分けさせてもらうよ」
主が刀剣乱舞無双とやらで祖の活躍を見てからしきりに言うようになった言葉だ。
元々色んな奴らにカッコいいだの綺麗だの軽率に言う人ではあったが今回のように特定の刀を褒めることは初めてだった。
長船派の派生でもある俺としては改めて長船の祖である燭台切光忠が評価される事は俺の評価にも繋がるから嬉しい限り。
……とはいえ。
流石に何度も聞かされていれば苛立ちの一つも覚える。祖が主役の作品ならまだしもそこには他の刀剣男士達も出ている。
刀も、槍も、薙刀も、偽物君も、そしてもちろん俺も。
それなのになぜ主は祖ばかりを評価するのだろうか。
「……どうして俺じゃないんだ」
「えっ」
横でゲームをしていた主がこちらに振り向く。
「あぁ、いや、何でもないよ」
「えぇ?とてもそんな風に聞こえなかったけど」
「どうでもいいじゃないかそんな事は」
「んん……大丈夫ならいいんだけどさ」
「気にしないでほしいね。それより主の方こそ大丈夫なのかな?」
「え?なんで?」
「画面の中の祖が中破になってるよ」
「おっとぉ!?」
急いでテレビに身体を向けた主はそのままいつもの様に祖を使って戦場を駆け巡る。
まったく。誰のおかげであんな事を呟いたのか何も知らない癖に。
そんなに祖を見ていたいのならいっそ彼を近侍にした方が早いんじゃないか。
彼の事だ。きっとこんな不快な気持ちなんざ抱かず主の横に立っていられるだろうに。
──────
あれからしばらくが経った時。
主がゲームを中断したかと思うとコントローラーから手を放し、身体を俺の方に向けて座り直した。
「おや、いつもならもう少し遊んでいるのに」
「……ちょぎさぁ。もしかしなくても不機嫌だよね」
「そうかな」
「むしろ露骨すぎて引く」
「ははっ、こうでもしないと分からないと思ってね」
「うーっわ。性格わるっ」
「俺としては毎回こんなものを見せつけてくる君の方が悪手だと思うけど?」
「は?見せつける??何を???」
そのとぼけた顔と無自覚さが余計に俺を苛立たせる。
「なんでわざわざこの俺に、祖に見惚れている所を見せつけてくるのかって話だよ」
「え、み、見惚れ……!?」
「無自覚とは恐れ入ったね。まさかそこまで鈍感だったとは」
「ちょ、ちょっと待って?何か勘違いしてない!?」
「勘違い?まさか」
近侍として主の事を誰よりも見てきた。今までずっと主の隣にいたのに、彼女のこんな様子は一度だって見たことが無い。それなのに勘違いで片づけられるなんて到底許せるわけがない。
「いやいやいや!確かに最近みっちゃんにカッコいいって言ってたけどそれには事情が」
「いい加減にしてくれないか!」
「え」
「俺が一体どんな気持ちであんたの話を聞いてたと思ってるんだ!!」
「ま、まってちょぎ、ねぇ、」
「自分の主のお気に入りが変わる事の恐ろしさがどれほどのものか、あんたは一度でも考えた事があるのか!?」
「っ……!?」
苦痛に顔を歪めている主を見て、そこで俺は初めて主の両肩を掴んでいる事に気づいた。
俺としたことが。
これじゃいよいよ主に嫌われるだけじゃないか。近侍どころか一振りの刀としてお役御免になってしまう。
「……くそっ」
急いで彼女の肩から手を離そうとする。
それなのに。
「……何をしてるのかな」
「いや、その……手を触って、る?」
どういうわけか主は何故かそのまま俺の手の上に自身の手を重ねてきた。
手を払いのけることも、かといってそのままなのも気が引けた俺は、静かに主の両膝の上に手を乗せることにした。
優しく握ってくれている主のその手は、憎らしいほどに暖かかった。
「んと、その、まずはごめん」
「は、」
何故謝る。
それは俺が言うべき言葉であって、あんたが言うものじゃないだろうに。
「そういうつもりじゃなかったとはいえ、確かに無神経な事してたよね。本当にごめん……」
違う。俺はあんたにそんな事言わせたかったんじゃない。
「確かにみっちゃんの事カッコいいって言い過ぎてた。いや、まあ、カッコいいのは事実なんだけどさ」
やめてくれ。
「その、別にみっちゃんに惚れたとか心変わりしたって訳じゃないんだよ」
やめろ。頼むから。
「私の気持ちは今も昔も変わってないから」
「な、んで……」
「え」
「なんで理不尽な目にあってるのに怒らないんだよ……!」
「怒る理由が無いから」
「どうして!!」
「長義が好きだから」
──これだから。
これだから今の主ってやつは。
君がそんなんだから、よりいっそう俺が惨めで、恥ずかしくて、醜くて、憎らしくなるじゃないか。
「好きだから全部受け入れるのか。こんな、あまりにも惨めな俺を」
「全部受け入れているつもりはないよ。ただその理由を否定するつもりもないだけ」
「……だからといって怒らないのは違うんじゃないか」
「今回はたまたま怒らなかっただけだよ」
「でも、でも……少しは嫌いになっただろ」
幼稚な俺がどんどん出てくる。それでも今更抑える気にはなれない。
そんなことしたところで今の俺の現状が変わるわけでもない。
……そもそも、抑えられるのであったらこんな事態にならなくて済んだわけで。
その事実がよりいっそう自己嫌悪と幼稚さを加速させる。
「身勝手に嫉妬したあげく、主にやつ当たりするような大人げない刀なんか──」
まるで俺の言葉を遮るかのように俺の手が強く、それでいて優しく握られる。
顔をあげると真剣な表情でこちらを見つめる主があった。
「悪いけど、そんなことで嫌いにならないから」
「そんなことって……」
「…………」
「……はぁ、降参だよ。君はそういう人だったね」
「うん。分かればいいよ」
「それで?」
「ん?」
「この俺がいながら何故あんなにも彼に惹かれていたのかな?」
握られている手に少しだけ力が入り、主は少しだけ苦笑いを浮かべる。
やはり何か後ろめたい事があるのかと聞くと彼女は力強く首を横に振った。
じゃあ何故?
もう一度問うと彼女は小さな声で観念したように呟いた。
「最近、友人からみっちゃんと付き合った報告を貰ってさ」
「……はぁ?」
主の説明曰く。
大切な友人が選んだ刀なのだから彼について深く知る必要があると思い、まず手に取ったのが刀剣乱舞無双だそうだ。
遊んでいくうちに祖の元々の見目の良さに加えそこに"友人の彼氏"という情報が入り混じった結果、ここ数日の様子になってしまったらしい。
「……呆れて物も言えないね」
「ごもっともです……」
はぁ、とわざとらしくため息をつくと小さな肩が一瞬震えた。
きっと俺に叱られると思ったのだろう。主ではなく、一人の人間として見せたその姿につい笑みが零れてしまった。
「怒らないよ」
「ほんと……?」
「もちろん。主だって俺を許してくれたからね。……ただし」
「え」
「少しばかりの代償は払ってもらおうかな」
握られたままの右手を彼女から引くとそのまま彼女の肩を抱き寄せた。
小さな悲鳴と可愛らしい頭が俺の胸元にたどり着く。俺は逃がさないように彼女の頭を片手を押さえつけて抱きしめる。
小さく震える肩に優越感を覚えつつ彼女のほんのりと赤くなった耳に顔を寄せる。
「君のせいで心を振り回されたんだ。半分おすそ分けさせてもらうよ」
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