宇宙アイス
月明りしかない夜。静かな海に波の音だけが響く。
気づいたら私はこの砂浜にいて、ただ宛てもなく波打ち際を歩く。
そうしてここがいつもの夢だと気づくと決まってあの子が現れる。
幼児よりも小さな背丈。棒アイスに足としっぽ……正確にはサイズの違うアイス棒をそのままつけたような身体。
その体は宇宙をそのまま切り取って出来た様な模様で、その姿は明らかにこの世の生き物ではない何かだった。
あの子は決まって砂浜に立っていて海をただ眺めている。
こちらを見ることは無く。また、逃げることもなく。
じっとただ穏やかな夜の海を眺めていて、私はその光景を見つめているだけ。
これがいつも見る夢。何かが起こるわけでもないただの夢。
「こんばんは?」
何度目かの挨拶。それに答えてくれた事は一度もなく、今日もまた返事は無かった。
すっかりこれに慣れた私は気にせずこの子の横に座る。
別に座る必要も傍にいる必要なんて無いのだけども。
ただなんとなく、この子の横にいてしまうのだ。
そしてただ理由もなく海を眺める。これがこの夢の中での日課だった。
「あのね」
私はなんとなく声をかけてみた。もちろん反応は無い。
むしろ反応がないからこそ声をかけたのかもしれない。
「私、この時間好きだよ」
最初こそは、
あまりにも頻繁にこの夢を見る事が不安になってしまい、夢占いや自身の心理状態について事細かに調べていた。
でも納得できる答えなんてものは見つからなかったしこんな夢を見る原因なんてついに分からなかった。
そうして悩みつつも定期的にここに訪れるようになってしばらくして、いつの間にか私はそんな事を考えなくなっていった。
「考えることに疲れた」というのも確かにあったけどそれ以上にそんな事を考えるのがこの空間に対して失礼な気がしたのだ。
なんとなく私はここにいて、なんとなくこの子の傍にいて、なんとなく海を眺めて……。
この理由のいらない場所に答えを見つけるのは違う、そう思うようになっていた。
ただありのままを受け入れる。それだけがこの夢で得られた答えかもしれない。
「だからまた呼んでほしいなぁ」
横にいる子にそう伝える。きっと呼んでいるのはこの子じゃないのだろうけど。
ただ私が伝えたかっただけで、それだけが理由なんだろう。
「なーんて、お前に言っても無駄だよなぁ」
冗談交じりに言いながら隣を見ると、小さな宇宙が私の顔を見つめていた。
もちろんこの子に顔なんてものは無い。あるのは宇宙模様だけ。
ただその小さな身体を私の方に向けているのは確かだった。
「お、お前、動くのっ!?」
私に応えるかのように身体を上下に揺らす。
月明りのおかげでキラキラと輝く様子はまるでスノードームのようだった。
「あ、ありがとう……?」
動揺した私はなぜか感謝の言葉を口にした。
もしかしたらかける言葉を間違えたのかもしれない。
それでも他になんて声をかければ良かったのかなんて、きっと目が覚めた後の私も分からないだろう。
とにかくこの子に何か伝えたかったのは確かだと思う。
私の言葉を聞いたこの子はもう数回ほど身体を上下に揺らした後、
ピタリと動きをやめ、そしてまた海の方へと身体を向けた。
そうしてこの子はいつも通り動かなくなってしまったのだ。
おい、と呼びかけようとしたその時。
「……なんか聞こえる」
この風景に似合わない音が耳に響く。
最初は小さかった音が徐々に大きくなり、先ほどまで聞こえていた波の音をかき消す。
気づけば海も月もあの子もグニャグニャ歪んで――
「んぁ……?」
ピピピ、ピピピ、と部屋中に響く電子音。
まるで私を起こすかのように目に入ってくるキラキラした日の光。
これらがあの夢を終わらせたのはすぐに分かった。
ついさっきまで見ていた幻想的な世界とは真逆の景色が私を包んでいた。
あの子は今日もあの静かな海に佇んでいるのだろう。
気づいたら私はこの砂浜にいて、ただ宛てもなく波打ち際を歩く。
そうしてここがいつもの夢だと気づくと決まってあの子が現れる。
幼児よりも小さな背丈。棒アイスに足としっぽ……正確にはサイズの違うアイス棒をそのままつけたような身体。
その体は宇宙をそのまま切り取って出来た様な模様で、その姿は明らかにこの世の生き物ではない何かだった。
あの子は決まって砂浜に立っていて海をただ眺めている。
こちらを見ることは無く。また、逃げることもなく。
じっとただ穏やかな夜の海を眺めていて、私はその光景を見つめているだけ。
これがいつも見る夢。何かが起こるわけでもないただの夢。
「こんばんは?」
何度目かの挨拶。それに答えてくれた事は一度もなく、今日もまた返事は無かった。
すっかりこれに慣れた私は気にせずこの子の横に座る。
別に座る必要も傍にいる必要なんて無いのだけども。
ただなんとなく、この子の横にいてしまうのだ。
そしてただ理由もなく海を眺める。これがこの夢の中での日課だった。
「あのね」
私はなんとなく声をかけてみた。もちろん反応は無い。
むしろ反応がないからこそ声をかけたのかもしれない。
「私、この時間好きだよ」
最初こそは、
あまりにも頻繁にこの夢を見る事が不安になってしまい、夢占いや自身の心理状態について事細かに調べていた。
でも納得できる答えなんてものは見つからなかったしこんな夢を見る原因なんてついに分からなかった。
そうして悩みつつも定期的にここに訪れるようになってしばらくして、いつの間にか私はそんな事を考えなくなっていった。
「考えることに疲れた」というのも確かにあったけどそれ以上にそんな事を考えるのがこの空間に対して失礼な気がしたのだ。
なんとなく私はここにいて、なんとなくこの子の傍にいて、なんとなく海を眺めて……。
この理由のいらない場所に答えを見つけるのは違う、そう思うようになっていた。
ただありのままを受け入れる。それだけがこの夢で得られた答えかもしれない。
「だからまた呼んでほしいなぁ」
横にいる子にそう伝える。きっと呼んでいるのはこの子じゃないのだろうけど。
ただ私が伝えたかっただけで、それだけが理由なんだろう。
「なーんて、お前に言っても無駄だよなぁ」
冗談交じりに言いながら隣を見ると、小さな宇宙が私の顔を見つめていた。
もちろんこの子に顔なんてものは無い。あるのは宇宙模様だけ。
ただその小さな身体を私の方に向けているのは確かだった。
「お、お前、動くのっ!?」
私に応えるかのように身体を上下に揺らす。
月明りのおかげでキラキラと輝く様子はまるでスノードームのようだった。
「あ、ありがとう……?」
動揺した私はなぜか感謝の言葉を口にした。
もしかしたらかける言葉を間違えたのかもしれない。
それでも他になんて声をかければ良かったのかなんて、きっと目が覚めた後の私も分からないだろう。
とにかくこの子に何か伝えたかったのは確かだと思う。
私の言葉を聞いたこの子はもう数回ほど身体を上下に揺らした後、
ピタリと動きをやめ、そしてまた海の方へと身体を向けた。
そうしてこの子はいつも通り動かなくなってしまったのだ。
おい、と呼びかけようとしたその時。
「……なんか聞こえる」
この風景に似合わない音が耳に響く。
最初は小さかった音が徐々に大きくなり、先ほどまで聞こえていた波の音をかき消す。
気づけば海も月もあの子もグニャグニャ歪んで――
「んぁ……?」
ピピピ、ピピピ、と部屋中に響く電子音。
まるで私を起こすかのように目に入ってくるキラキラした日の光。
これらがあの夢を終わらせたのはすぐに分かった。
ついさっきまで見ていた幻想的な世界とは真逆の景色が私を包んでいた。
あの子は今日もあの静かな海に佇んでいるのだろう。