早く終わらせて
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ぼとり、と音が聞こえる前に切り落とされた私の腕だったものが消える。
腕があり、一瞬で無くなった所にまた、腕が現れる。
そうして残ったのは激痛と恐怖と、
「豊穣の加護も魔陰も無く、何故お前は立っていられる?」
腕を切り落とした男だけだった。
男はこちらの事などお構いなしに剣についた返り血になる予定だった灰を手で払い落す。
その動きを見るに、どうやら一度だけでは済ませてくれないのだろう。
「……誰からこの体質を聞いたんですか」
「聞いた?お前はそれを隠せていたとでも」
「…………じゃあどこで見た、とでも聞けば教えてくれるんですか」
「さぁな」
男の口角がわずかに上がる。と同時にわき腹にすきま風が吹く。
斬られた、と認識する前にはもう身体が戻っていた。
ふたたび男は自身の剣を見つめる。人の身体で切れ味でも確認しているのだろうか。
だとしたらとんだ屈辱だ。せめて自分自身で試せばいいものを。
「う、ぁ…っ!」
「内臓も元通りか」
「な、にが……目的…?」
「お前となら良い"オトモダチ"になれると思ってな」
「は……?」
「だから会いに来ただけだ」
切れ味を試したい人。
身体を研究したい人。
八つ当たりをしたい人。
何も考えていない人。
今まで色んな奴らがこの身体を使ってきた。だからこいつもその一人だと思っていたのに。
「過去最高に頭おかしい人だった……」
「ほう。お前はオトモダチに酷い事を言うんだな」
「かは……っ!?」
気づいたら心臓に一突き。オトモダチの心臓をぶっ刺す奴がこの世にいてたまるか。
「お前のそれは一体なんだ。何故死なない」
「ぬ、いて、くれ……た、ら……言え、る……」
「それは駄目だ」
剣を横にひねったのが分かった。それでも心臓は動きを止めない。
止めてくれた方が個人的には助かるのだけど。
「普通の人間なら朽ち果てるものだ。しかしお前は死なない。何をしても……っ!」
胴体が心臓ごと斬られる。斬られるのはもう三度目だ。
この先どうなるかなんてもう分かりきっているだろう。私も。彼も。
出来ればこれ以上苦しみを味わいたくないが、それが叶うかどうかはこの男次第なんだろう。
「次はこうしてやろう」
私の首が勢いよく飛んだ、らしい。
あぁ。
こうなるのなら事前に言ってあげれば良かったのかも。
「な……っ!?」
飛んで行った首は灰に。残された身体は炎に。
その場で身体だった物は燃え続ける。
あんな至近距離で殺してきたのだ。少しくらい火傷してくれなきゃ死んだ意味が無い。
「……気は済みましたか」
炎の中で声をかける。
目はまだ戻っていないが、男が動揺しているのは確かだろう。
「火薬でも使ったのか」
「残念ながら何も。その炎さえ私自身なので」
「おかげで包帯を増やす羽目になった」
「包帯で済むならマシじゃないですか」
ごうごうと勢いよく燃え続けた私の身体は程なくして最初の形に戻る。
五体満足になった私の身体はいつも通り生きている。
戻った両目で男を見つめると灰と炎を浴びたであろう男は静かに剣を納めていた。
飽きたのか。冷めたのか。
まぁ、被害者の身である私からすればどちらでも良いのだけど。
「その力。前にも使っただろう」
「……もしかして、魔物に襲われてる所を見てたんですか」
「あぁ」
「あっけなかったでしょう」
「一瞬だったな」
「あの時は首を噛みちぎられましたね」
「その時に見えた炎は」
「今さっき見たものと同じですよ」
ちら、と男は自身の右手を見つめる。それに合わせて私も彼の手を見る。
手袋の一部は溶けており、隙間からは焼けただれた肌が見えていた。
「あなたはその程度で済んで良かったですね」
「……ついさっきまで骨が見えていた」
「…………骨?」
「しかし未だ"火傷"している」
「あ、え、はい?」
「ありえない話だ」
ありえない、と言いたいのはこちらの方だ。
骨まで見えていた?
もしそれが事実ならこの数十秒で肌が戻るわけがない。
「俺の身体は魔陰の身と呼ばれている」
「魔陰……?」
「死ねない身体、と思ってくれれば良い。お前のそれとは仕組みが違うが同じようなものだ」
「は、はぁ」
「傷は確かに治った。それなのに火傷が治らない。不死のお前ならこの意味が分かるだろう?」
「 」
出したはずの声が出ていない。
代わりに出ているのはこの身を焦がす炎、炎、炎。
どうやらあいつはまたも一瞬で私の首を落としたらしい。
「ただのオトモダチじゃあ距離が遠いからな」
私の炎を全身に浴びるあの男の声が楽しげに響く。
「"不死鳥"よ、お前の炎はいずれ俺を佳景へと連れていってくれるだろう。それならば俺は誰よりもお前の傍にいなければ意味が無い」
「な、何でその名を、う、あ、?」
顔になろうとしている炎を彼が掴む。
その手指は確かに溶けているのに、自身の輪郭もまだ形成されていないのに、掴まれてる感覚が嫌でも分かる。
「あぁ、いいぞ!もっと燃やし尽くすがいい!お前の炎は心地がよい!!」
「や、やめっ、離せ、っ」
「エリオが言っていた!"不死鳥"の炎は再生の象徴なんかではない、破壊だと!そこに俺の求めるものがあると……!」
徐々に身体が再形成されていく。それでも彼は炎を、私の顔を手放そうとはしなかった。
並大抵の人なら溶け落ちたままの手指も身体も、あいつのは辛うじて人の形を保っているように見えた。
「小娘、その身体の名前は何だ」
「からだ……?」
「その姿のお前を、人は何という?」
「い、言いたくないっ」
「吐け」
もう一度、心臓に剣が刺さる。
逃がすつもりは無い。そう言わんばかりに。
「言わねばその身体を何度でも引き裂こう。今まで味わった苦しみをお前にも味わわせられるなら俺はそれでも構わないが」
「い、いや、だ……!」
「なら早く答えるがいい」
「う、うう……っ」
「泣くのか?この程度、お前なら慣れているはずだろう?」
「なれ、るわけ…!」
「じゃあ慣れろ。その慣れさえ殺してやる」
耳元にパチパチとやり直しの音が近づいてきてる。
このままではこいつを喜ばせるだけで何も変わりはしないのは火を見るよりも明らかだろう。
観念するしかない。
そう悟った私は嫌々名を明かすと彼は満足げに笑った。
そうしてそのまま剣を引き抜き、げほげほと咽る私を横目に男が呟く。
「お前の名を、顔を、炎を、俺は覚えたぞ」
今度は剣の切っ先が首元に当てられる。
もう何度も味わったそれが徐々に首元に入ってくるのを感じている。
やめてくれ、そう懇願しようにも恐怖で声が出ない。
「お前こそが俺の佳景。お前だけが俺を此岸から解き放ってくれる」
「な、な、に言って、」
「お前が今まで感じた痛みも恐怖も俺だけなら寄り添える。俺だけがお前を理解出来る」
「ねぇ、なに、いみがわかんな、い」
「お前は俺と共に来い。お前の炎を死ぬまで感じさせてくれ」
「や、やだって、いったら」
「お前の気が変わるまで人の身体は戻らないだろうな」
「なん、でこんな、こ、とを」
「死を愛しているからさ」
ぞわぞわと身体中に悪寒が走る。先ほどとはまるで違う感覚が身体中を襲う。
命を奪われるのとは別の、もっと恐ろしいものがそこにあった気がした。
「咲。俺の死をもたらす幸せの鳥」
剣が抜ける、その代わりに焼けただれた手が私の頬に触れ、熱と狂気を帯びた目がこちらを見つめる。
「脚本はお前の名を綴った。運命はお前だと予言した」
ふと、背後から聞きなれないハイヒールの音が近づいてくるような気が――――
「"聞いて"」
腕があり、一瞬で無くなった所にまた、腕が現れる。
そうして残ったのは激痛と恐怖と、
「豊穣の加護も魔陰も無く、何故お前は立っていられる?」
腕を切り落とした男だけだった。
男はこちらの事などお構いなしに剣についた返り血になる予定だった灰を手で払い落す。
その動きを見るに、どうやら一度だけでは済ませてくれないのだろう。
「……誰からこの体質を聞いたんですか」
「聞いた?お前はそれを隠せていたとでも」
「…………じゃあどこで見た、とでも聞けば教えてくれるんですか」
「さぁな」
男の口角がわずかに上がる。と同時にわき腹にすきま風が吹く。
斬られた、と認識する前にはもう身体が戻っていた。
ふたたび男は自身の剣を見つめる。人の身体で切れ味でも確認しているのだろうか。
だとしたらとんだ屈辱だ。せめて自分自身で試せばいいものを。
「う、ぁ…っ!」
「内臓も元通りか」
「な、にが……目的…?」
「お前となら良い"オトモダチ"になれると思ってな」
「は……?」
「だから会いに来ただけだ」
切れ味を試したい人。
身体を研究したい人。
八つ当たりをしたい人。
何も考えていない人。
今まで色んな奴らがこの身体を使ってきた。だからこいつもその一人だと思っていたのに。
「過去最高に頭おかしい人だった……」
「ほう。お前はオトモダチに酷い事を言うんだな」
「かは……っ!?」
気づいたら心臓に一突き。オトモダチの心臓をぶっ刺す奴がこの世にいてたまるか。
「お前のそれは一体なんだ。何故死なない」
「ぬ、いて、くれ……た、ら……言え、る……」
「それは駄目だ」
剣を横にひねったのが分かった。それでも心臓は動きを止めない。
止めてくれた方が個人的には助かるのだけど。
「普通の人間なら朽ち果てるものだ。しかしお前は死なない。何をしても……っ!」
胴体が心臓ごと斬られる。斬られるのはもう三度目だ。
この先どうなるかなんてもう分かりきっているだろう。私も。彼も。
出来ればこれ以上苦しみを味わいたくないが、それが叶うかどうかはこの男次第なんだろう。
「次はこうしてやろう」
私の首が勢いよく飛んだ、らしい。
あぁ。
こうなるのなら事前に言ってあげれば良かったのかも。
「な……っ!?」
飛んで行った首は灰に。残された身体は炎に。
その場で身体だった物は燃え続ける。
あんな至近距離で殺してきたのだ。少しくらい火傷してくれなきゃ死んだ意味が無い。
「……気は済みましたか」
炎の中で声をかける。
目はまだ戻っていないが、男が動揺しているのは確かだろう。
「火薬でも使ったのか」
「残念ながら何も。その炎さえ私自身なので」
「おかげで包帯を増やす羽目になった」
「包帯で済むならマシじゃないですか」
ごうごうと勢いよく燃え続けた私の身体は程なくして最初の形に戻る。
五体満足になった私の身体はいつも通り生きている。
戻った両目で男を見つめると灰と炎を浴びたであろう男は静かに剣を納めていた。
飽きたのか。冷めたのか。
まぁ、被害者の身である私からすればどちらでも良いのだけど。
「その力。前にも使っただろう」
「……もしかして、魔物に襲われてる所を見てたんですか」
「あぁ」
「あっけなかったでしょう」
「一瞬だったな」
「あの時は首を噛みちぎられましたね」
「その時に見えた炎は」
「今さっき見たものと同じですよ」
ちら、と男は自身の右手を見つめる。それに合わせて私も彼の手を見る。
手袋の一部は溶けており、隙間からは焼けただれた肌が見えていた。
「あなたはその程度で済んで良かったですね」
「……ついさっきまで骨が見えていた」
「…………骨?」
「しかし未だ"火傷"している」
「あ、え、はい?」
「ありえない話だ」
ありえない、と言いたいのはこちらの方だ。
骨まで見えていた?
もしそれが事実ならこの数十秒で肌が戻るわけがない。
「俺の身体は魔陰の身と呼ばれている」
「魔陰……?」
「死ねない身体、と思ってくれれば良い。お前のそれとは仕組みが違うが同じようなものだ」
「は、はぁ」
「傷は確かに治った。それなのに火傷が治らない。不死のお前ならこの意味が分かるだろう?」
「 」
出したはずの声が出ていない。
代わりに出ているのはこの身を焦がす炎、炎、炎。
どうやらあいつはまたも一瞬で私の首を落としたらしい。
「ただのオトモダチじゃあ距離が遠いからな」
私の炎を全身に浴びるあの男の声が楽しげに響く。
「"不死鳥"よ、お前の炎はいずれ俺を佳景へと連れていってくれるだろう。それならば俺は誰よりもお前の傍にいなければ意味が無い」
「な、何でその名を、う、あ、?」
顔になろうとしている炎を彼が掴む。
その手指は確かに溶けているのに、自身の輪郭もまだ形成されていないのに、掴まれてる感覚が嫌でも分かる。
「あぁ、いいぞ!もっと燃やし尽くすがいい!お前の炎は心地がよい!!」
「や、やめっ、離せ、っ」
「エリオが言っていた!"不死鳥"の炎は再生の象徴なんかではない、破壊だと!そこに俺の求めるものがあると……!」
徐々に身体が再形成されていく。それでも彼は炎を、私の顔を手放そうとはしなかった。
並大抵の人なら溶け落ちたままの手指も身体も、あいつのは辛うじて人の形を保っているように見えた。
「小娘、その身体の名前は何だ」
「からだ……?」
「その姿のお前を、人は何という?」
「い、言いたくないっ」
「吐け」
もう一度、心臓に剣が刺さる。
逃がすつもりは無い。そう言わんばかりに。
「言わねばその身体を何度でも引き裂こう。今まで味わった苦しみをお前にも味わわせられるなら俺はそれでも構わないが」
「い、いや、だ……!」
「なら早く答えるがいい」
「う、うう……っ」
「泣くのか?この程度、お前なら慣れているはずだろう?」
「なれ、るわけ…!」
「じゃあ慣れろ。その慣れさえ殺してやる」
耳元にパチパチとやり直しの音が近づいてきてる。
このままではこいつを喜ばせるだけで何も変わりはしないのは火を見るよりも明らかだろう。
観念するしかない。
そう悟った私は嫌々名を明かすと彼は満足げに笑った。
そうしてそのまま剣を引き抜き、げほげほと咽る私を横目に男が呟く。
「お前の名を、顔を、炎を、俺は覚えたぞ」
今度は剣の切っ先が首元に当てられる。
もう何度も味わったそれが徐々に首元に入ってくるのを感じている。
やめてくれ、そう懇願しようにも恐怖で声が出ない。
「お前こそが俺の佳景。お前だけが俺を此岸から解き放ってくれる」
「な、な、に言って、」
「お前が今まで感じた痛みも恐怖も俺だけなら寄り添える。俺だけがお前を理解出来る」
「ねぇ、なに、いみがわかんな、い」
「お前は俺と共に来い。お前の炎を死ぬまで感じさせてくれ」
「や、やだって、いったら」
「お前の気が変わるまで人の身体は戻らないだろうな」
「なん、でこんな、こ、とを」
「死を愛しているからさ」
ぞわぞわと身体中に悪寒が走る。先ほどとはまるで違う感覚が身体中を襲う。
命を奪われるのとは別の、もっと恐ろしいものがそこにあった気がした。
「咲。俺の死をもたらす幸せの鳥」
剣が抜ける、その代わりに焼けただれた手が私の頬に触れ、熱と狂気を帯びた目がこちらを見つめる。
「脚本はお前の名を綴った。運命はお前だと予言した」
ふと、背後から聞きなれないハイヒールの音が近づいてくるような気が――――
「"聞いて"」