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インクの滲み1つでその人の事が解るなんて、昔の人は変な事を思いついたなぁとつくづく思う。
そんなもので全てを把握出来るのなら今頃人類は自分以外の人に振り回されてなんかいないのに。
現に私は、インクなんかより遥かに解りやすいこの眼を見ても頭を抱えている訳で。
「やっぱり何考えてるか分からないって」
呆れた声で呟く私を、まるで諭すかの様に銀の眼が静かに見つめてくる。
こんなにも見つめられたのは初めてなのにトキメキも何も無いのは我ながら悲しいものである。
いやまぁ、そんな情熱的なシチュエーションじゃないから仕方ないのだけど。
「人として生まれた以上、言葉を使わないと駄目だよ」
「……親密な関係である二人は目を見て会話するって」
「全部分かるわけじゃないからね???」
「そう、ですか……」
いつもの様に目を合わせなくなった彼は残念そうな声で返事をした。
あまりにも低いそのトーンにこちらも内心動揺してしまう。あの生真面目な彼がここまで落ち込むとは。
まさか本当に目だけで会話出来るなんて思っていたのだろうか?
「"僕の目を見てほしい"なんて言うから何事かと思った」
「ごめん……でもどうしても試してみたくて……」
「喋る事が嫌いだから?」
「……はい。でも、咲さんとは大丈夫」
そういう話こそ目を見て言ってほしいんだけど。
……などと言う文句はなんとかギリギリのところで口から出さずに済んだ。
もし口から出ていたらきっと彼の事だ、大きなショックを受けて立ち直れなくなるだろう。
それこそ二度と会話出来なくなっていたかもしれないくらいには。
「じゃあ何でわざわざ目だけで話したかったの?」
「…………声、を」
「声?」
「咲さんの声を、他の人に聞かせたくないって……」
「……はい???」
「目で話せたら……誰にも聞かせなくて済むでしょう……?」
小さく笑みを浮かべ、再びこちらに視線を向ける彼のその眼は先ほどの様子と全く違うのは誰が見ても明白だった。
全てをぶつけ何もかもを伝えようとするその視線に思わず目を逸らす。
が、そうはさせまいと彼の両手が私の頬を支える。
二つの銀の眼が私を捕らえ、いよいよ逃げ場が無くなってしまった私の目はただただ熱い視線を受け止める事しか出来なかった。
「僕の言いたい事、この目で伝わってる?」
あまりにも大きな感情が目から伝わってくる。
愛情だとか、狂気だとか、そんな一言じゃ表現しきれないほどの大きな感情が。
インクの滲みに頼りたくなったのも今なら分かる。"これ"は人間がそのまま受け止めていいものでは無かったのだろう。
「それとも、もう少し近づいた方が……」
「じゅ、十分伝わったから…!!」
「……ふふっ」
私の返事に満足してくれたのか、彼は私の頬から両手を放すとまた何時ものように目を逸らす。
普段と変わらないその様子に今さっきまで見ていたものは全部幻だったのかと考えてしまう。
しかし頬に残った手の熱が幻ではない事を教えてくれているのは確かだった。
「やっぱり目を見て話すのは苦手……"話しすぎて"しまう」
「…イソップはもう少し言葉の会話に慣れた方が良いよ絶対に」
「それは……」
「じゃあさ、荘園の人たちと文通してみようよ」
「……文通?」
「手紙なら落ち着いて返事出来るでしょ」
「まぁ確かに……」
「それにほら、私と文通したら他人に声を聞かせる機会が少なくn」
「文通でも交換日記でも何でもしますね」
「決断はえーな」
「早速便せんを選びに行きましょうか」
「行動もはえーな」
……文通を勧めた本当の理由がバレなくて良かったと、心から思ってしまった。
恐らく私は彼をどこか恐れてしまったんだと思う。
綺麗で狂気的な銀の眼が今も脳裏に焼き付いて離れない。
もしもう一度見てしまったら、もしまた"会話"する事になったら。
きっと私は彼から逃げ出してしまうだろう。
そうなってしまったらどうなるかなんて想像に容易い。
だから私はインクに頼る事にした。
滲みではなく、インクで書かれた文字に。
これならば口下手な彼も感情を上手く伝えられるだろう。
そして私も、彼の全てを解らずに済むだろうから。
(どうか二度とあの"眼"を見ませんように)
そんな事を思いながら、彼に手紙を綴るのだった。
そんなもので全てを把握出来るのなら今頃人類は自分以外の人に振り回されてなんかいないのに。
現に私は、インクなんかより遥かに解りやすいこの眼を見ても頭を抱えている訳で。
「やっぱり何考えてるか分からないって」
呆れた声で呟く私を、まるで諭すかの様に銀の眼が静かに見つめてくる。
こんなにも見つめられたのは初めてなのにトキメキも何も無いのは我ながら悲しいものである。
いやまぁ、そんな情熱的なシチュエーションじゃないから仕方ないのだけど。
「人として生まれた以上、言葉を使わないと駄目だよ」
「……親密な関係である二人は目を見て会話するって」
「全部分かるわけじゃないからね???」
「そう、ですか……」
いつもの様に目を合わせなくなった彼は残念そうな声で返事をした。
あまりにも低いそのトーンにこちらも内心動揺してしまう。あの生真面目な彼がここまで落ち込むとは。
まさか本当に目だけで会話出来るなんて思っていたのだろうか?
「"僕の目を見てほしい"なんて言うから何事かと思った」
「ごめん……でもどうしても試してみたくて……」
「喋る事が嫌いだから?」
「……はい。でも、咲さんとは大丈夫」
そういう話こそ目を見て言ってほしいんだけど。
……などと言う文句はなんとかギリギリのところで口から出さずに済んだ。
もし口から出ていたらきっと彼の事だ、大きなショックを受けて立ち直れなくなるだろう。
それこそ二度と会話出来なくなっていたかもしれないくらいには。
「じゃあ何でわざわざ目だけで話したかったの?」
「…………声、を」
「声?」
「咲さんの声を、他の人に聞かせたくないって……」
「……はい???」
「目で話せたら……誰にも聞かせなくて済むでしょう……?」
小さく笑みを浮かべ、再びこちらに視線を向ける彼のその眼は先ほどの様子と全く違うのは誰が見ても明白だった。
全てをぶつけ何もかもを伝えようとするその視線に思わず目を逸らす。
が、そうはさせまいと彼の両手が私の頬を支える。
二つの銀の眼が私を捕らえ、いよいよ逃げ場が無くなってしまった私の目はただただ熱い視線を受け止める事しか出来なかった。
「僕の言いたい事、この目で伝わってる?」
あまりにも大きな感情が目から伝わってくる。
愛情だとか、狂気だとか、そんな一言じゃ表現しきれないほどの大きな感情が。
インクの滲みに頼りたくなったのも今なら分かる。"これ"は人間がそのまま受け止めていいものでは無かったのだろう。
「それとも、もう少し近づいた方が……」
「じゅ、十分伝わったから…!!」
「……ふふっ」
私の返事に満足してくれたのか、彼は私の頬から両手を放すとまた何時ものように目を逸らす。
普段と変わらないその様子に今さっきまで見ていたものは全部幻だったのかと考えてしまう。
しかし頬に残った手の熱が幻ではない事を教えてくれているのは確かだった。
「やっぱり目を見て話すのは苦手……"話しすぎて"しまう」
「…イソップはもう少し言葉の会話に慣れた方が良いよ絶対に」
「それは……」
「じゃあさ、荘園の人たちと文通してみようよ」
「……文通?」
「手紙なら落ち着いて返事出来るでしょ」
「まぁ確かに……」
「それにほら、私と文通したら他人に声を聞かせる機会が少なくn」
「文通でも交換日記でも何でもしますね」
「決断はえーな」
「早速便せんを選びに行きましょうか」
「行動もはえーな」
……文通を勧めた本当の理由がバレなくて良かったと、心から思ってしまった。
恐らく私は彼をどこか恐れてしまったんだと思う。
綺麗で狂気的な銀の眼が今も脳裏に焼き付いて離れない。
もしもう一度見てしまったら、もしまた"会話"する事になったら。
きっと私は彼から逃げ出してしまうだろう。
そうなってしまったらどうなるかなんて想像に容易い。
だから私はインクに頼る事にした。
滲みではなく、インクで書かれた文字に。
これならば口下手な彼も感情を上手く伝えられるだろう。
そして私も、彼の全てを解らずに済むだろうから。
(どうか二度とあの"眼"を見ませんように)
そんな事を思いながら、彼に手紙を綴るのだった。