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まおゆづ

「ちょっと…良いか? 変なこと頼んでも」

内容にもよりますね、と戸締まりしていた手を止めた弓弦がこっちを振り返り笑顔を作る。
らしくないぐらいにドキドキして、涼しいくらいの気温に対して異常な汗の量をかいていた。

「て…つなぎたい」
「…もう一度仰って頂いても宜しいでしょうか?」
「えーっと…手を繋いで、頂きたくってデスね…はは」

もうここまで言ったら引き返せる訳ないのに、今すぐ数分前に戻って思いついた自分を殴ってやりたい気持ちで一杯だった。
少しばかり考える弓弦が一歩こちらに近づく度に、一歩ずつ下がっていく。

後ろに迫った壁の存在にもぶつかるまで気づかず、追い込まれた俺はついに弓弦が眼前に迫るのをただ耐えるしかなかった。

(綺麗だなー、やっぱ。どうしてこんなに美人なんだろう…不思議な魅力や色気と言い、なんか全部ズルいわ……)

頭の中だけでも現実逃避を試みたが、実際は目の前の人物で溢れただけだった。

「自ら提案しといて逃げるとは、おかしな人ですね」
「ごめ、ん…っ」


先に帰ってしまった先輩達と、校内のどこかでサボっているだろう姫宮以外だと生徒会室には俺と弓弦しか居ない。
俺が一人で生徒会業務に勤しんでる時にやってきた弓弦は、姫宮が先に生徒会室へ向かっているからと聞いていたらしい。

仕方ないから暫く二人で作業してから戸締まりしていた、そんな時に提案した。

弓弦の事を好きなのかと聞かれると、分からない。
だから何故こんな提案をしてしまったのかも、よく分からない。

ただ俺の考えを超えたところで体が動いてしまう時があるようだ。

「で、いつどんな時に手を繋ぎたいのでしょうか?」
「へ」
「ご自分の提案内容を忘れてしまったのですか? もう少し具体的な部分をお聞きしたいのですが…」

肯定的な反応を貰えると思っていなかったが為に、俺のすべてが一時停止したように感じられた。

「あー、生徒会室を出るまでの一瞬、で良いんだけど…っ」
「本当におかしな人ですね。まあ真意を確かめてみるためにも、その提案をお受けしてみましょうか」
「…は、ハイ」

すっと、差し出された手が綺麗で…夕日に照らされてオレンジ色に染まる生徒会室が、甘酸っぱさを口全体に広げるような空気で満たされた気がした。

怖ず怖ずと握り返すと、緊張で頭の先から足の先まで冷え切っていたのか、冷え性である弓弦の手が自分の体温よりも温かかった。
想像していたよりもずっとワクワクするようなモンじゃなかったけど、この時間は一生忘れられない記憶になりそうだと思った。

数分も掛からない内にドアまでついて、パッと手を離して生徒会室の外に出る。

「あっ弓弦…! これには訳があってね、そ、その奴隷二号がぁ〜〜っ!」

意を決して生徒会室に入ろうか、と悩んでいた姫宮がそこに居た。

現実に引き戻されるような感覚に、急な変化に体がついて行かなくて、思わず逃げるように走り出した。
一言くらい声を掛けた方が自然だったろうに、その余裕も無かった。

俺だけがこんなにも、テンパっているんだろう。

息苦しくなっても走るのを止められずに、家にそのままの勢いで駆け込むとベッドにダイブした。


明日、目が覚めなければ良いのに。
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