君の世界、僕の世界
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空はいつのまにか茜色に染まっていた。スネイプはガラスハウスの中に置かれたベンチに座り、彼女を待ち続けていた。刻々とタイムリミットが近づいている。本当に彼女はここにいるのだろうか。まったく別の世界に来てしまったのではないだろうか。花を見ている余裕もなくなり、スネイプに少しずつ焦りが見え始めていた。
その時、ギイッとガラスハウスのドアが開けられる音がした。誰かが入ってきた。スネイプは反射的に立ち上がった。入り口の見えるところまで歩いて、彼は足を止めた。
ドア付近には、弾んだ息を整えながらハウス内を恐る恐る覗く女性がいた。背中ほどまでの長いダークブラウンの髪がハウス内の空調でふわりと揺れている。その女性は淡い色のワンピースを着て小さなバッグを肩にかけ、手には手紙が握られていた。彼女のそばの木の枝には、スネイプが手紙を託したコキンメフクロウが羽を休めている。
「エレナ、か?」
スネイプは低く緊張した声を出した。女性はびくりと震え、こちらへ振り返る。スネイプは目を細めた。ああ、彼女だ。すっかり大人の女性となっていたが、雰囲気はあの頃と変わっていなかった。何年も会いたいと思い焦がれていた彼女は、さらに綺麗になっていた。
「セブ、ルス……? 本当に、あなたなの?」
マグル用の黒いシャツに黒いスラックという全身真っ黒な格好をした背の高いスネイプを見つめながら、ゆっくりとエレナは近づいた。彼女は両手で持った手紙を、胸の前で強く握りしめている。
「ああ」
優しい声色で短く返事をし、スネイプも彼女に歩み寄る。エレナはスネイプの存在を確かめるように、彼の手を取った。自分のものよりも大きな手に少し寂しそうな表情をしたように見えた。きっと彼女は自分の記憶の中にいるスネイプを思い出しているのだろう。ほんの少しの面影は残っていたとしても、彼女が知っているのは、ローブと緑のネクタイ姿でちょっと生意気で不器用で不愛想な、十代の子供の頃のスネイプだ。
彼女はスネイプを見上げ、片方の腕を伸ばして頬に触れた。スネイプは戸惑ったが、彼女の手の温もりにいつかのことを思い出し薄く微笑んだ。スネイプの瞳をじっと見つめていた彼女は次第に涙を浮かべ笑った。
「瞳は変わらないのね……セブルス。稀に見せてくれるあなたの優しい瞳が好きだったわ」
「わたしは、君の笑った顔が好きだった」
頬に添えられた彼女の手に自分の手を重ねてスネイプは穏やかな声でそう言った。
「君を迎えに来たんだ」
エレナはポロポロと涙をこぼした。
「手紙を読んだわ。すっごく驚いたけれど、でも、今はあなたに会えて嬉しい……」
「ああ、わたしもだ……あの時は君の話をちゃんと聞いてやれなくてすまなかった。信じてやれなくて、すまなかった」
彼女は首を左右に振った。
「あんなおかしな話、誰も信じられっこないわ。でも、それじゃあどうやって、セブルスは私がここにいるってわかったの?」
声を詰まらせながら、エレナは聞く。
「話せば長くなってしまう」
「時間なら、たくさんあるわ。そうでしょう?」
「それが……」
スネイプは簡潔にこれまでの経緯とあちらとこちらの世界を繋ぐ扉のことを話した。その扉がもうじきなくなってしまうことも。エレナは驚きで涙が止まっていた。シリウスたちの名前が出て来たときにはより一層目を丸くさせた。どういうわけで彼らに協力を仰いだのか。エレナはもっと詳しく話を聞かせてほしそうだった。
「ごめんなさい。泣いている場合じゃないわね。それなら急がなきゃ」
エレナは頬に残った涙を拭った。
「わたしこそすまない。帰ったらたくさん話そう。ルーピンが君と話したがっていた」
「本当に?」
「リリーも待っている。皆が君の帰りを待っている」
スネイプの言葉にエレナは目を細め、照れたような嬉しそうな顔をした。
ガラスハウスを出て、スネイプは扉のある場所へエレナを導いた。フクロウはまた、スネイプの肩に乗っている。外はすっかり暗くなり、ハウスから漏れる淡いライトと月明かりが、薔薇園を照らしていた。
「ねえ、あなたを見た時から気になっていたのだけど、セブルスって今いくつなのかしら? 二十歳には見えないわ」
不意にエレナはそう聞いた。
「少し前に二十六になったばかりだ。わたしも驚いている。君の方が歳が上だったはずなのにな」
「それじゃあ、私と同じなの……? 今日は驚かされてばかりだわ」
エレナはまたもや目を丸くした。こちらの世界と魔法界では時間の進み方が違うらしい。他愛もない話をしていれば、あの小さな扉の前に着いた。
「ここだ」
スネイプが扉を開けると、向こう側から明るい光が差した。スネイプはエレナを振り返った。
「エレナ、最後にもう一度確認する。今度こちらの世界に来たら、二度と元の世界には戻れなくなる。本当に後悔しないか?」
スネイプは真剣な表情で彼女を見た。エレナはスネイプの瞳をまっすぐに見て深く頷いた。
「ええ。戻れなくても構わない。これから先もずっと、あなたと一緒にいられるなら」
エレナの答えを聞いて、スネイプは優しい笑みを見せた。スネイプがすっと差し出した手に、エレナは迷うことなく自分の手を重ねる。その温かく小さな手をスネイプは握りしめた。この手をもう離すことがないように、離れてしまわないように。大切な人を二度と失わないように、強く。
「帰ろう。わたしたちの世界へ」
その時、ギイッとガラスハウスのドアが開けられる音がした。誰かが入ってきた。スネイプは反射的に立ち上がった。入り口の見えるところまで歩いて、彼は足を止めた。
ドア付近には、弾んだ息を整えながらハウス内を恐る恐る覗く女性がいた。背中ほどまでの長いダークブラウンの髪がハウス内の空調でふわりと揺れている。その女性は淡い色のワンピースを着て小さなバッグを肩にかけ、手には手紙が握られていた。彼女のそばの木の枝には、スネイプが手紙を託したコキンメフクロウが羽を休めている。
「エレナ、か?」
スネイプは低く緊張した声を出した。女性はびくりと震え、こちらへ振り返る。スネイプは目を細めた。ああ、彼女だ。すっかり大人の女性となっていたが、雰囲気はあの頃と変わっていなかった。何年も会いたいと思い焦がれていた彼女は、さらに綺麗になっていた。
「セブ、ルス……? 本当に、あなたなの?」
マグル用の黒いシャツに黒いスラックという全身真っ黒な格好をした背の高いスネイプを見つめながら、ゆっくりとエレナは近づいた。彼女は両手で持った手紙を、胸の前で強く握りしめている。
「ああ」
優しい声色で短く返事をし、スネイプも彼女に歩み寄る。エレナはスネイプの存在を確かめるように、彼の手を取った。自分のものよりも大きな手に少し寂しそうな表情をしたように見えた。きっと彼女は自分の記憶の中にいるスネイプを思い出しているのだろう。ほんの少しの面影は残っていたとしても、彼女が知っているのは、ローブと緑のネクタイ姿でちょっと生意気で不器用で不愛想な、十代の子供の頃のスネイプだ。
彼女はスネイプを見上げ、片方の腕を伸ばして頬に触れた。スネイプは戸惑ったが、彼女の手の温もりにいつかのことを思い出し薄く微笑んだ。スネイプの瞳をじっと見つめていた彼女は次第に涙を浮かべ笑った。
「瞳は変わらないのね……セブルス。稀に見せてくれるあなたの優しい瞳が好きだったわ」
「わたしは、君の笑った顔が好きだった」
頬に添えられた彼女の手に自分の手を重ねてスネイプは穏やかな声でそう言った。
「君を迎えに来たんだ」
エレナはポロポロと涙をこぼした。
「手紙を読んだわ。すっごく驚いたけれど、でも、今はあなたに会えて嬉しい……」
「ああ、わたしもだ……あの時は君の話をちゃんと聞いてやれなくてすまなかった。信じてやれなくて、すまなかった」
彼女は首を左右に振った。
「あんなおかしな話、誰も信じられっこないわ。でも、それじゃあどうやって、セブルスは私がここにいるってわかったの?」
声を詰まらせながら、エレナは聞く。
「話せば長くなってしまう」
「時間なら、たくさんあるわ。そうでしょう?」
「それが……」
スネイプは簡潔にこれまでの経緯とあちらとこちらの世界を繋ぐ扉のことを話した。その扉がもうじきなくなってしまうことも。エレナは驚きで涙が止まっていた。シリウスたちの名前が出て来たときにはより一層目を丸くさせた。どういうわけで彼らに協力を仰いだのか。エレナはもっと詳しく話を聞かせてほしそうだった。
「ごめんなさい。泣いている場合じゃないわね。それなら急がなきゃ」
エレナは頬に残った涙を拭った。
「わたしこそすまない。帰ったらたくさん話そう。ルーピンが君と話したがっていた」
「本当に?」
「リリーも待っている。皆が君の帰りを待っている」
スネイプの言葉にエレナは目を細め、照れたような嬉しそうな顔をした。
ガラスハウスを出て、スネイプは扉のある場所へエレナを導いた。フクロウはまた、スネイプの肩に乗っている。外はすっかり暗くなり、ハウスから漏れる淡いライトと月明かりが、薔薇園を照らしていた。
「ねえ、あなたを見た時から気になっていたのだけど、セブルスって今いくつなのかしら? 二十歳には見えないわ」
不意にエレナはそう聞いた。
「少し前に二十六になったばかりだ。わたしも驚いている。君の方が歳が上だったはずなのにな」
「それじゃあ、私と同じなの……? 今日は驚かされてばかりだわ」
エレナはまたもや目を丸くした。こちらの世界と魔法界では時間の進み方が違うらしい。他愛もない話をしていれば、あの小さな扉の前に着いた。
「ここだ」
スネイプが扉を開けると、向こう側から明るい光が差した。スネイプはエレナを振り返った。
「エレナ、最後にもう一度確認する。今度こちらの世界に来たら、二度と元の世界には戻れなくなる。本当に後悔しないか?」
スネイプは真剣な表情で彼女を見た。エレナはスネイプの瞳をまっすぐに見て深く頷いた。
「ええ。戻れなくても構わない。これから先もずっと、あなたと一緒にいられるなら」
エレナの答えを聞いて、スネイプは優しい笑みを見せた。スネイプがすっと差し出した手に、エレナは迷うことなく自分の手を重ねる。その温かく小さな手をスネイプは握りしめた。この手をもう離すことがないように、離れてしまわないように。大切な人を二度と失わないように、強く。
「帰ろう。わたしたちの世界へ」
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