君の世界、僕の世界
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月日は流れ、スネイプは三年生になり、エレナは最終学年となった。課題や試験勉強に追われながらも、図書室で肩を並べて教科書と羊皮紙を広げる様子は以前と変わりなかった。
エレナはこの二年の間に、スネイプを介してリリー・エヴァンズと友人となっていた。エレナがスネイプのそばにいることで、グリフィンドールの彼らから絡まれなくなったことをリリーが知ったことがきっかけだった。
エレナは廊下での宣言通りスネイプと行動を共にし、ポッターたちが攻撃してこようものなら悉く減点していた。その際、防御はすれど呪文でやり返すことは一切なかった。彼らを煽っていた同寮生たちも減らされていく自寮の点数を校内にある大きな砂時計で確認してからは、煽るどころか止めるようにまでなった。さすがのブラックたちも、エレナがいるところで堂々と呪文を飛ばすような浅はかな行為はしなくなった。
六月、学年末試験最終日の教科である魔法史を終えたスネイプは、自身の試験の自己採点もそこそこに、エレナたち七年生がNEWT試験を行っている大広間へ走った。
そこだけ時間が止まっているかのように静寂に包まれた大広間前の廊下で、スネイプはそわそわと落ち着かない様子で待ち続けた。試験が終わったのか、扉の向こうが騒がしくなった。大広間の扉が開け放たれ、ぐったりした七年生たちがどっと流れ出てきた。『めちゃくちゃ疲れる魔法テスト』と呼ばれるだけのことはあるようだ。
「アーヴィン!」
友人たちと出てきたエレナを見つけ、スネイプは七年生の合間を縫って近づいた。
「ハイ、セブルス」
「じゃあ、私たちは中庭に行ってるわね」
ここ数日、試験の度にこうして彼女の出待ちをするスネイプに慣れた友人の一人が告げた。今日もまた彼と過ごすだろうと踏んでいたのだ。
「今夜は卒業前のパーティーするんだから、早く寮に戻って来てよね、エレナ!」
「ええ、もちろん、わかってるわ。また後でね」
エレナがもう一人の友人に応えると、彼女たちは玄関ホールへ向かう他の生徒たちの人の波に消えていった。
「試験どうだった? 進級できそうかしら?」
生徒が疎らになった廊下を歩きながらエレナは言う。
「君こそ、卒業と進路がかかった試験なんだろう? どうだったんだ?」
自分のことのように真剣な声色と表情で窺ってくるスネイプに、彼女は階段を登りながら振り返って微笑んだ。
「心配いらないわ。手応えありよ」
エレナは自身の杖を軽く振って見せた。ああ、そういえば最終日最後の試験は『闇の魔術に対する防衛術』と言っていたな、とスネイプは思い出した。彼女の二番目に得意な教科だ。彼女の余裕そうな笑みに少々ムカつきながらもスネイプはひとまず安堵した。
エレナは時計塔へたどり着くと、手すりに身を預けてそこから校庭を見下ろした。そこからは、ちょうど湖が見えた。湖のほとりに座り、足を浸けて話す女子生徒や、近くの木の下に寝そべって試験の疲れを癒す生徒たちの姿が見える。
スネイプも彼女の隣に並んだ。彼らの背は同じくらいになっていた。もうじきスネイプは彼女を越すだろう。
「こうしてあなたと一緒にいられるのもあとちょっとなのね」
寂しいわ、とエレナは呟いた。その声はあまりにも悲しげで彼女らしくなく、スネイプは思わず彼女を見つめた。城外を見下ろす彼女の横顔は物憂げで、いつもの優しいグレーの瞳は伏せられた長いまつげに隠れている。
スネイプは校庭へ視線を落とした。もう間もなく彼女は卒業し、この学校からいなくなる。その日が確実に近づいていることを実感したスネイプは突然、心臓あたりに重い鉛のようなものが沈む感覚がしてそっと胸元のローブを握りしめた。スネイプにはそれが何なのかよくわからなかった。ただ、彼女と離れることを心が拒んでいることだけはわかった気がした。
「なあ、アーヴィ――」
スネイプが口を開き、エレナが振り返ったのと同時に、頭上にある巨大な時計の鐘が鳴った。夕刻だ。
「エレナ、僕はもっと、君のそばにいたいみたいだ」
「何? セブルス何て言っているの? 全然聞こえないわ!」
エレナは綺麗な顔を歪めながら、鐘の音に負けないように声を張り上げた。スネイプはハの字に眉を下げ、うっすらと笑みを浮かべゆっくりと首を横に振った。
「何でもない! 君は寮に帰る時間だろう? 行こう!」
同じように大声を出し、彼女を時計塔から離れさせた。スネイプは彼女を寮の近くまで送り届けた。その帰り道、階段を下りて大広間に着く頃には彼は酷く苦しそうな表情を浮かべていた。
エレナの卒業の日がやってきた。朝食を終える頃には大広間の装飾は全寮の色に変更され、普段より少し豪勢な飾り付けがされた。スネイプたち在校生は大広間からの退出を求められ、それと入れ替わるように正装用の黒い三角帽を被った卒業生たちが中へ入っていった。
数時間後、式の終わる時間を見計らって、スネイプは玄関ホールに戻ってきた。思い思いに過ごす卒業生らの間を抜けて、彼女を探しながら大きな樫の木の扉を開けて中庭に出た。
「あ、セブルス!」
エレナは噴水の前で一人たたずんでいた。こちらに気づいた彼女が笑顔で手を振っている。スネイプはふっと笑みをこぼし、小走りで彼女へ近づいた。
「卒業おめでとう……エレナ」
彼女は驚いたように目を丸くした。次第に顔を綻ばせ、彼女はお礼を言った。
「初めて名前で呼んでくれたわ! もうずっとこのまま呼んでくれないのかと思ってた」
エレナはににこにこと嬉しそうに笑う。数週間前に一度呼んでいたのだが、聞こえていなかった彼女は知るはずもない。
「今ねオリビア達、ああ……ルームメイトなんだけど、カメラの替えのフィルムを取りに戻ってるの。寮に忘れちゃったみたい。そうだ、よかったらセブルスも一緒に撮りましょう?」
「えっ、いや、僕は……」
スネイプが渋っていると、彼女のルームメイト達が戻って来て、噴水の柱の前に移動させられた。彼女らがフィルムを入れ替えているのを見ながら、エレナは口を開いた。
「セブルス、短い間だったけれど今までありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ。君には……たくさん助けられた」
勉強も、彼らのことでも。エレナがいたおかげで嫌なことも忘れることができた。彼女のおかげで魔法薬学が好きになった。彼女がいたからホグワーツの生活が楽しいと思えた。全部、エレナがいたから。
「君に会えてよかった」
「そう? 嬉しい。私もあなたに出会えてよかったわ」
エレナは優しく微笑みそう言った。この笑顔を見るもの今日で最後なのだろうか。もう会えないのだろうか。学期末試験のときのように胸のあたりがズシンと重くなったかと思うと、唐突に鼻の奥が痛み、目頭が熱くなった。気づけば温かいものがスネイプの頬を伝っていた。
「セブルス……?」
「何だ、これ……」
スネイプは手の甲でごしごしと乱暴に頬を拭った。まさか泣いているのか?僕が?スネイプは困惑した。怒りで感情が高ぶることはあれど、泣くなんてことが今まであっただろうか。静かにポロポロと涙を流し続けるスネイプを見て、エレナはいつかのようにそっと抱きすくめた。
「もう、なんでセブルスが泣いちゃうのよ」
彼女の声はとても優しかった。エレナの肩に水玉模様ができていく。スネイプは目を瞑って彼女に体を預けた。
ようやく撮られた写真には、泣き顔を隠そうと必死なスネイプと、それを悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込もうとするエレナの楽しげな姿が収められた。
エレナはこの二年の間に、スネイプを介してリリー・エヴァンズと友人となっていた。エレナがスネイプのそばにいることで、グリフィンドールの彼らから絡まれなくなったことをリリーが知ったことがきっかけだった。
エレナは廊下での宣言通りスネイプと行動を共にし、ポッターたちが攻撃してこようものなら悉く減点していた。その際、防御はすれど呪文でやり返すことは一切なかった。彼らを煽っていた同寮生たちも減らされていく自寮の点数を校内にある大きな砂時計で確認してからは、煽るどころか止めるようにまでなった。さすがのブラックたちも、エレナがいるところで堂々と呪文を飛ばすような浅はかな行為はしなくなった。
六月、学年末試験最終日の教科である魔法史を終えたスネイプは、自身の試験の自己採点もそこそこに、エレナたち七年生がNEWT試験を行っている大広間へ走った。
そこだけ時間が止まっているかのように静寂に包まれた大広間前の廊下で、スネイプはそわそわと落ち着かない様子で待ち続けた。試験が終わったのか、扉の向こうが騒がしくなった。大広間の扉が開け放たれ、ぐったりした七年生たちがどっと流れ出てきた。『めちゃくちゃ疲れる魔法テスト』と呼ばれるだけのことはあるようだ。
「アーヴィン!」
友人たちと出てきたエレナを見つけ、スネイプは七年生の合間を縫って近づいた。
「ハイ、セブルス」
「じゃあ、私たちは中庭に行ってるわね」
ここ数日、試験の度にこうして彼女の出待ちをするスネイプに慣れた友人の一人が告げた。今日もまた彼と過ごすだろうと踏んでいたのだ。
「今夜は卒業前のパーティーするんだから、早く寮に戻って来てよね、エレナ!」
「ええ、もちろん、わかってるわ。また後でね」
エレナがもう一人の友人に応えると、彼女たちは玄関ホールへ向かう他の生徒たちの人の波に消えていった。
「試験どうだった? 進級できそうかしら?」
生徒が疎らになった廊下を歩きながらエレナは言う。
「君こそ、卒業と進路がかかった試験なんだろう? どうだったんだ?」
自分のことのように真剣な声色と表情で窺ってくるスネイプに、彼女は階段を登りながら振り返って微笑んだ。
「心配いらないわ。手応えありよ」
エレナは自身の杖を軽く振って見せた。ああ、そういえば最終日最後の試験は『闇の魔術に対する防衛術』と言っていたな、とスネイプは思い出した。彼女の二番目に得意な教科だ。彼女の余裕そうな笑みに少々ムカつきながらもスネイプはひとまず安堵した。
エレナは時計塔へたどり着くと、手すりに身を預けてそこから校庭を見下ろした。そこからは、ちょうど湖が見えた。湖のほとりに座り、足を浸けて話す女子生徒や、近くの木の下に寝そべって試験の疲れを癒す生徒たちの姿が見える。
スネイプも彼女の隣に並んだ。彼らの背は同じくらいになっていた。もうじきスネイプは彼女を越すだろう。
「こうしてあなたと一緒にいられるのもあとちょっとなのね」
寂しいわ、とエレナは呟いた。その声はあまりにも悲しげで彼女らしくなく、スネイプは思わず彼女を見つめた。城外を見下ろす彼女の横顔は物憂げで、いつもの優しいグレーの瞳は伏せられた長いまつげに隠れている。
スネイプは校庭へ視線を落とした。もう間もなく彼女は卒業し、この学校からいなくなる。その日が確実に近づいていることを実感したスネイプは突然、心臓あたりに重い鉛のようなものが沈む感覚がしてそっと胸元のローブを握りしめた。スネイプにはそれが何なのかよくわからなかった。ただ、彼女と離れることを心が拒んでいることだけはわかった気がした。
「なあ、アーヴィ――」
スネイプが口を開き、エレナが振り返ったのと同時に、頭上にある巨大な時計の鐘が鳴った。夕刻だ。
「エレナ、僕はもっと、君のそばにいたいみたいだ」
「何? セブルス何て言っているの? 全然聞こえないわ!」
エレナは綺麗な顔を歪めながら、鐘の音に負けないように声を張り上げた。スネイプはハの字に眉を下げ、うっすらと笑みを浮かべゆっくりと首を横に振った。
「何でもない! 君は寮に帰る時間だろう? 行こう!」
同じように大声を出し、彼女を時計塔から離れさせた。スネイプは彼女を寮の近くまで送り届けた。その帰り道、階段を下りて大広間に着く頃には彼は酷く苦しそうな表情を浮かべていた。
エレナの卒業の日がやってきた。朝食を終える頃には大広間の装飾は全寮の色に変更され、普段より少し豪勢な飾り付けがされた。スネイプたち在校生は大広間からの退出を求められ、それと入れ替わるように正装用の黒い三角帽を被った卒業生たちが中へ入っていった。
数時間後、式の終わる時間を見計らって、スネイプは玄関ホールに戻ってきた。思い思いに過ごす卒業生らの間を抜けて、彼女を探しながら大きな樫の木の扉を開けて中庭に出た。
「あ、セブルス!」
エレナは噴水の前で一人たたずんでいた。こちらに気づいた彼女が笑顔で手を振っている。スネイプはふっと笑みをこぼし、小走りで彼女へ近づいた。
「卒業おめでとう……エレナ」
彼女は驚いたように目を丸くした。次第に顔を綻ばせ、彼女はお礼を言った。
「初めて名前で呼んでくれたわ! もうずっとこのまま呼んでくれないのかと思ってた」
エレナはににこにこと嬉しそうに笑う。数週間前に一度呼んでいたのだが、聞こえていなかった彼女は知るはずもない。
「今ねオリビア達、ああ……ルームメイトなんだけど、カメラの替えのフィルムを取りに戻ってるの。寮に忘れちゃったみたい。そうだ、よかったらセブルスも一緒に撮りましょう?」
「えっ、いや、僕は……」
スネイプが渋っていると、彼女のルームメイト達が戻って来て、噴水の柱の前に移動させられた。彼女らがフィルムを入れ替えているのを見ながら、エレナは口を開いた。
「セブルス、短い間だったけれど今までありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ。君には……たくさん助けられた」
勉強も、彼らのことでも。エレナがいたおかげで嫌なことも忘れることができた。彼女のおかげで魔法薬学が好きになった。彼女がいたからホグワーツの生活が楽しいと思えた。全部、エレナがいたから。
「君に会えてよかった」
「そう? 嬉しい。私もあなたに出会えてよかったわ」
エレナは優しく微笑みそう言った。この笑顔を見るもの今日で最後なのだろうか。もう会えないのだろうか。学期末試験のときのように胸のあたりがズシンと重くなったかと思うと、唐突に鼻の奥が痛み、目頭が熱くなった。気づけば温かいものがスネイプの頬を伝っていた。
「セブルス……?」
「何だ、これ……」
スネイプは手の甲でごしごしと乱暴に頬を拭った。まさか泣いているのか?僕が?スネイプは困惑した。怒りで感情が高ぶることはあれど、泣くなんてことが今まであっただろうか。静かにポロポロと涙を流し続けるスネイプを見て、エレナはいつかのようにそっと抱きすくめた。
「もう、なんでセブルスが泣いちゃうのよ」
彼女の声はとても優しかった。エレナの肩に水玉模様ができていく。スネイプは目を瞑って彼女に体を預けた。
ようやく撮られた写真には、泣き顔を隠そうと必死なスネイプと、それを悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込もうとするエレナの楽しげな姿が収められた。