君の世界、僕の世界
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数ヶ月が経ち、グリフィンドールの彼らは四人に増えていた。相変わらずブラックらの嫌がらせは続いたが、スネイプは呪文で対抗するようになり、怪我をする頻度はグッと下がった。その代わりに攻撃は容赦がなくなり、大きな怪我が目立つようにもなった。
たとえどんな怪我をしようとも、その理由をエレナに明かすことはなかった。知らない間に怪我をしているスネイプを心配し、エレナは少々過保護になった。彼女がスネイプを気にかけそばにいることが増えたため、ポッターたちも次第になかなか手を出すことができなくなっていた。
「なあ、最近スニベルスのやつ、いつも背の高いレイブンクロー生といないか? あれはいったい誰なんだ?」
「シリウスは知らないのかい? レイブンクローの監督生さ。なぜだかあいつは彼女に気に入られてるみたいだ。いや、あいつの方が懐いてるのかな?」
ポッターは談話室のソファに座って腕を組みながら首を傾げた。
「確かアーヴィンって呼ばれてた」
ピーター・ペティグリューが間に入った。
「誰であっても面倒なことに変わりない。いい暇つぶしだったってのに」
盛大にため息をつきながら、ブラックはソファーの背に体を倒して天井を仰いだ。
「彼女のいない時を狙うか、彼女の気を反らすしかないね」
ポッターたちがちょっとした作戦会議をする中、リーマス・ルーピンは本を読みながらただ黙って聞いているだけだった。本の向こう側で、彼が複雑な心境であることは誰にもわからなかった。
イースター休暇が明けた頃、ブラックたちにとってチャンスがやってきた。つまりそれは、スネイプにとって数ヶ月ぶりの災厄の訪れだった。
「やあ、スニベルス」
「今日は一人かい?」
休暇中に借りていた本を返すため図書室へ向かっていたところだったスネイプは、背後から声をかけられ反射的に杖を抜いて振り返った。
「エクスペリアームス!」
防ぐ間も無く二人の呪文が同時に飛んできて、杖は弾かれスネイプも衝撃で床に尻餅をついた。抱えていた本は音を立てて廊下に散らばった。
ブラックとポッターはニヤニヤと笑いながらスネイプに近づく。いつも彼らの後方にいるペティグリューとルーピンは不在だった。すぐさま立ち上がって杖の元へ駆け寄ろうとするスネイプに、ブラックは杖を振るって呪文を唱えた。足のあたりに命中した呪文はスネイプのローブと制服のスラックスを裂き、ふくらはぎに切り傷を負わせた。杖を目前に、スネイプは小さく唸ってそのまま廊下に崩れる。ブラックとポッターはスネイプの前で立ち止まり、彼を見下ろした。
「久しくやり合ってないから鈍ってるんじゃないか? いっつも上級生がそばにいたもんなあ」
ブラックは杖をくるくる回しながら挑発した。スネイプの眉間の皺がより深くなった。スネイプは力を振り絞り片方の足を引きずって杖に飛びつく。すぐに体を転がして杖先をブラックに向けた。同じタイミングで彼らも杖を振り上げた。
「フリペ――」
「ペトリフィ――」
「インペディ――」
「プロテゴ!!」
彼らが呪文を言い終えるより先に盾の呪文が放たれた。
「あなたたち! いったい何をしているの!?」
高く鋭い声が廊下に響いた。全ての呪文が防がれたことに三人は驚愕し、声の主を見た二人は焦った顔をして一人は眉を顰めた。スネイプが一番知られたくない人に見つかってしまった。盾の呪文を放ったのはエレナだった。彼女のあとを追いかけるように、ペティグリューとルーピンが後方から青い顔をして走ってきた。
「ご、ごめんシリウス。僕たち失敗しちゃった……」
ペティグリューが蚊の鳴くような声で謝った。エレナは振り返って「どういうことかしら?」と問い質した。
どうやら彼らはブラックたちの言いつけで、エレナを引きつけておく役目を担っていたらしい。ところがエレナに声をかけた場所と、スネイプたちがいる場所が案外近く、声や物音に気付いた彼女は監督生として確認しようとした。それを懸命に引き止める二人を不審に思ったエレナは彼らを振り切ってここまで駆けつけたのだ。
エレナは話の途中から氷のように冷たい視線でブラックたちを睨みつけていた。
「一人に対して二人で寄ってたかって攻撃するなんて、卑劣で品のないことね。あなたたちは何のために魔法を学んでいるの? 教授たちは人を傷つけるために呪文を教えてるわけじゃないわ」
口調こそ落ち着いているが、彼女は相当怒っていた。スネイプは彼女のこんなにも恐ろしく冷え切った顔を目にするのは初めてだった。ペティグリューが泣きそうな顔で縮こまっている。
「ああそれと、これも言っておかなくちゃいけないわね。ホグワーツでの喧嘩は校則違反。校長先生が大広間で話されていたからあなたたちも知っているはずよね? そして、やむを得ない場合は監督生でも減点することが認められている。これは知らなかったかしら?」
ブラックたちの表情の変化に気づき、エレナは口角を上げた。
「グリフィンドールとスリザリンから五点減点よ。ちなみにあなたたちは、一人、五点の、減点です」
エレナはブラックとポッターを指差しながら言った。
「えー!?」
「なんだよそれ!」
「あら不服? 十点に引き上げましょうか? ああそうだわ、ペティグリューとルーピンの分も引いた方がいいかしら?」
彼女の言葉に彼らはグッと押し黙った。流石に四十点もの減点は食らいたくないようだ。
「異論がなければここから立ち去りなさい。今すぐに」
エレナはさらに低い声で、ブラックとポッターに告げた。それは最終通告だった。ブラックは彼女のことをひと睨みして、プイッと顔を背け廊下を駆け出した。あとに続いてポッターがペティグリューの腕を引っ張りながら走っていき、ルーピンは何か言いたげな視線をエレナに送り言葉を発しかけたが、「リーマス!」とブラックに呼ばれて口を噤んで去ってしまった。
「何よあれ、反省してるのかしら!?」
小さくなった彼らの背中を睨みつけながら鼻息荒く怒るエレナはもういつもの彼女だった。
「アーヴィン」
スネイプが彼女を呼んだ。それはいつもより弱々しい声だった。格好悪いところを見られた悔しさや恥ずかしさ、彼女に助けられた情けなさなど様々な感情がスネイプの中でぐるぐると渦巻いていた。名を呼ばれたエレナは反射的にスネイプを振り返った。立ち上がろうとしていた彼は顔を歪めその場にしゃがみこんでしまう。
「ああ、セブルス……!」
エレナはスネイプに駆け寄り力強く抱きすくめた。スネイプはふわりと優しい香りに包まれた。それは、心が少し軽くなるような、安心するような、落ち着く香りだった。短い抱擁の後、エレナはスネイプの顔を覗き込んだ。彼女のグレーの瞳は心配そうに揺れている。
「今までの怪我の原因ってあの人たちだったのね? 初めて会った時も、そうなのね?」
エレナはスネイプの瞳をじっと見つめる。視線から逃れるようにスネイプは瞳を伏せた。
「……もっと、早く気づいてあげたかった」
エレナは悔しげに顔を歪めた。
「セブルス、足を見せて」
彼女は廊下に座り込んでバッグから以前のように治療キットを取り出し始めた。スネイプは一瞬躊躇った様子を見せたが、エレナから再度促され言われた通りに片足を投げ出し、呪文で裂け赤黒い染みの付いたスラックスをめくりあげた。ふくらはぎあたりに五センチほどの裂傷痕があった。まだ少量の血液が垂れている。エレナは傷の深さに顔を歪めた。
「私がセブルスを守るから」
水を杖から出し患部を洗って白い布で押さえながら、エレナは力強い声でそう告げた。
「アーヴィン……?」
スネイプは痛みに顔を歪めつつ、ゆっくりと視線を上げた。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。それでも治療の手を止めることはない。スネイプには分からなかった。なぜ彼女は自分のことでこんなにも辛そうな顔をするのか。寮も違うというのに、どうしてここまで自分のことを気にしてくれるのか。上級生だから?監督生だから?彼女にはお節介なところがあることは理解しているが、それでもなぜ?
「さっきの様子だと、私があなたと一緒にいるときでさえ呪文をかけようとしてくるかもしれないわ」
考えに沈んでいたスネイプは、エレナの言葉で意識を彼女へ戻した。
「もしそうなったら、私が返り討ちにしてあげるから」
「……それは、さすがにまずいんじゃないか? 僕は全くもって構わないが、君にとっては下級生だろう?」
「問題ないわ。やり返すわけじゃないもの」
スネイプは首を傾げた。
「ほら、私は監督生でしょう? さっきみたいにいざという時は減点できるのよ? 罰則だって先生に相応の説明をすればしてもらえるでしょう。彼らはそれだけのことをやってるの。大量に減点されて寮生の信頼を失えばいいのよ。とりあえず見つけ次第減点しまくってやるんだから」
ああ、そういう意味か。スネイプはようやく理解した。しかしそれは――。
「それは職権乱用じゃないのか?」
「わかってるわよ、冗談よ。さすがに先生方もそこまでの行為は許してはくれないわ」
スネイプの足に包帯を巻きながら、エレナは深くため息をついた。許されるなら行使したいと思っているようだ。
「それにね、ああいうのはやり返したら余計悪化するものなの。こちらからは手を出してはだめ。だからね、セブルス。あなたもこれから先、彼らのことは相手にしないと約束して欲しいの」
エレナは手を止めてセブルスを見つめて言った。
「……君が、そう望むなら」
スネイプが頷いて答えると彼女は微笑んだ。
エレナは治療を終えると、最後に血で濡れたローブとスラックスを清め、裂けたところに杖を這わせながら生地を縫っていった。
「はい、これでおしまい。と言っても応急処置だから、後から医務室に行くのよ? 嫌じゃないの、行きなさい。わかった?」
ムスッとしたスネイプに、エレナは困った笑みを浮かべながらため息をついた。
「あ……」
スネイプが彼女から視線を外した時、落ちている本が視界に入り返却予定だったことを思い出した。エレナは立ち上がって二冊の本を拾い上げた。裏表紙をめくった彼女は図書室の本だと気付いたようだ。
「私も返そうとしていたところなの。一緒に行きしましょうか」
エレナはバッグから本を取り出してスネイプに掲げて見せた。
たとえどんな怪我をしようとも、その理由をエレナに明かすことはなかった。知らない間に怪我をしているスネイプを心配し、エレナは少々過保護になった。彼女がスネイプを気にかけそばにいることが増えたため、ポッターたちも次第になかなか手を出すことができなくなっていた。
「なあ、最近スニベルスのやつ、いつも背の高いレイブンクロー生といないか? あれはいったい誰なんだ?」
「シリウスは知らないのかい? レイブンクローの監督生さ。なぜだかあいつは彼女に気に入られてるみたいだ。いや、あいつの方が懐いてるのかな?」
ポッターは談話室のソファに座って腕を組みながら首を傾げた。
「確かアーヴィンって呼ばれてた」
ピーター・ペティグリューが間に入った。
「誰であっても面倒なことに変わりない。いい暇つぶしだったってのに」
盛大にため息をつきながら、ブラックはソファーの背に体を倒して天井を仰いだ。
「彼女のいない時を狙うか、彼女の気を反らすしかないね」
ポッターたちがちょっとした作戦会議をする中、リーマス・ルーピンは本を読みながらただ黙って聞いているだけだった。本の向こう側で、彼が複雑な心境であることは誰にもわからなかった。
イースター休暇が明けた頃、ブラックたちにとってチャンスがやってきた。つまりそれは、スネイプにとって数ヶ月ぶりの災厄の訪れだった。
「やあ、スニベルス」
「今日は一人かい?」
休暇中に借りていた本を返すため図書室へ向かっていたところだったスネイプは、背後から声をかけられ反射的に杖を抜いて振り返った。
「エクスペリアームス!」
防ぐ間も無く二人の呪文が同時に飛んできて、杖は弾かれスネイプも衝撃で床に尻餅をついた。抱えていた本は音を立てて廊下に散らばった。
ブラックとポッターはニヤニヤと笑いながらスネイプに近づく。いつも彼らの後方にいるペティグリューとルーピンは不在だった。すぐさま立ち上がって杖の元へ駆け寄ろうとするスネイプに、ブラックは杖を振るって呪文を唱えた。足のあたりに命中した呪文はスネイプのローブと制服のスラックスを裂き、ふくらはぎに切り傷を負わせた。杖を目前に、スネイプは小さく唸ってそのまま廊下に崩れる。ブラックとポッターはスネイプの前で立ち止まり、彼を見下ろした。
「久しくやり合ってないから鈍ってるんじゃないか? いっつも上級生がそばにいたもんなあ」
ブラックは杖をくるくる回しながら挑発した。スネイプの眉間の皺がより深くなった。スネイプは力を振り絞り片方の足を引きずって杖に飛びつく。すぐに体を転がして杖先をブラックに向けた。同じタイミングで彼らも杖を振り上げた。
「フリペ――」
「ペトリフィ――」
「インペディ――」
「プロテゴ!!」
彼らが呪文を言い終えるより先に盾の呪文が放たれた。
「あなたたち! いったい何をしているの!?」
高く鋭い声が廊下に響いた。全ての呪文が防がれたことに三人は驚愕し、声の主を見た二人は焦った顔をして一人は眉を顰めた。スネイプが一番知られたくない人に見つかってしまった。盾の呪文を放ったのはエレナだった。彼女のあとを追いかけるように、ペティグリューとルーピンが後方から青い顔をして走ってきた。
「ご、ごめんシリウス。僕たち失敗しちゃった……」
ペティグリューが蚊の鳴くような声で謝った。エレナは振り返って「どういうことかしら?」と問い質した。
どうやら彼らはブラックたちの言いつけで、エレナを引きつけておく役目を担っていたらしい。ところがエレナに声をかけた場所と、スネイプたちがいる場所が案外近く、声や物音に気付いた彼女は監督生として確認しようとした。それを懸命に引き止める二人を不審に思ったエレナは彼らを振り切ってここまで駆けつけたのだ。
エレナは話の途中から氷のように冷たい視線でブラックたちを睨みつけていた。
「一人に対して二人で寄ってたかって攻撃するなんて、卑劣で品のないことね。あなたたちは何のために魔法を学んでいるの? 教授たちは人を傷つけるために呪文を教えてるわけじゃないわ」
口調こそ落ち着いているが、彼女は相当怒っていた。スネイプは彼女のこんなにも恐ろしく冷え切った顔を目にするのは初めてだった。ペティグリューが泣きそうな顔で縮こまっている。
「ああそれと、これも言っておかなくちゃいけないわね。ホグワーツでの喧嘩は校則違反。校長先生が大広間で話されていたからあなたたちも知っているはずよね? そして、やむを得ない場合は監督生でも減点することが認められている。これは知らなかったかしら?」
ブラックたちの表情の変化に気づき、エレナは口角を上げた。
「グリフィンドールとスリザリンから五点減点よ。ちなみにあなたたちは、一人、五点の、減点です」
エレナはブラックとポッターを指差しながら言った。
「えー!?」
「なんだよそれ!」
「あら不服? 十点に引き上げましょうか? ああそうだわ、ペティグリューとルーピンの分も引いた方がいいかしら?」
彼女の言葉に彼らはグッと押し黙った。流石に四十点もの減点は食らいたくないようだ。
「異論がなければここから立ち去りなさい。今すぐに」
エレナはさらに低い声で、ブラックとポッターに告げた。それは最終通告だった。ブラックは彼女のことをひと睨みして、プイッと顔を背け廊下を駆け出した。あとに続いてポッターがペティグリューの腕を引っ張りながら走っていき、ルーピンは何か言いたげな視線をエレナに送り言葉を発しかけたが、「リーマス!」とブラックに呼ばれて口を噤んで去ってしまった。
「何よあれ、反省してるのかしら!?」
小さくなった彼らの背中を睨みつけながら鼻息荒く怒るエレナはもういつもの彼女だった。
「アーヴィン」
スネイプが彼女を呼んだ。それはいつもより弱々しい声だった。格好悪いところを見られた悔しさや恥ずかしさ、彼女に助けられた情けなさなど様々な感情がスネイプの中でぐるぐると渦巻いていた。名を呼ばれたエレナは反射的にスネイプを振り返った。立ち上がろうとしていた彼は顔を歪めその場にしゃがみこんでしまう。
「ああ、セブルス……!」
エレナはスネイプに駆け寄り力強く抱きすくめた。スネイプはふわりと優しい香りに包まれた。それは、心が少し軽くなるような、安心するような、落ち着く香りだった。短い抱擁の後、エレナはスネイプの顔を覗き込んだ。彼女のグレーの瞳は心配そうに揺れている。
「今までの怪我の原因ってあの人たちだったのね? 初めて会った時も、そうなのね?」
エレナはスネイプの瞳をじっと見つめる。視線から逃れるようにスネイプは瞳を伏せた。
「……もっと、早く気づいてあげたかった」
エレナは悔しげに顔を歪めた。
「セブルス、足を見せて」
彼女は廊下に座り込んでバッグから以前のように治療キットを取り出し始めた。スネイプは一瞬躊躇った様子を見せたが、エレナから再度促され言われた通りに片足を投げ出し、呪文で裂け赤黒い染みの付いたスラックスをめくりあげた。ふくらはぎあたりに五センチほどの裂傷痕があった。まだ少量の血液が垂れている。エレナは傷の深さに顔を歪めた。
「私がセブルスを守るから」
水を杖から出し患部を洗って白い布で押さえながら、エレナは力強い声でそう告げた。
「アーヴィン……?」
スネイプは痛みに顔を歪めつつ、ゆっくりと視線を上げた。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。それでも治療の手を止めることはない。スネイプには分からなかった。なぜ彼女は自分のことでこんなにも辛そうな顔をするのか。寮も違うというのに、どうしてここまで自分のことを気にしてくれるのか。上級生だから?監督生だから?彼女にはお節介なところがあることは理解しているが、それでもなぜ?
「さっきの様子だと、私があなたと一緒にいるときでさえ呪文をかけようとしてくるかもしれないわ」
考えに沈んでいたスネイプは、エレナの言葉で意識を彼女へ戻した。
「もしそうなったら、私が返り討ちにしてあげるから」
「……それは、さすがにまずいんじゃないか? 僕は全くもって構わないが、君にとっては下級生だろう?」
「問題ないわ。やり返すわけじゃないもの」
スネイプは首を傾げた。
「ほら、私は監督生でしょう? さっきみたいにいざという時は減点できるのよ? 罰則だって先生に相応の説明をすればしてもらえるでしょう。彼らはそれだけのことをやってるの。大量に減点されて寮生の信頼を失えばいいのよ。とりあえず見つけ次第減点しまくってやるんだから」
ああ、そういう意味か。スネイプはようやく理解した。しかしそれは――。
「それは職権乱用じゃないのか?」
「わかってるわよ、冗談よ。さすがに先生方もそこまでの行為は許してはくれないわ」
スネイプの足に包帯を巻きながら、エレナは深くため息をついた。許されるなら行使したいと思っているようだ。
「それにね、ああいうのはやり返したら余計悪化するものなの。こちらからは手を出してはだめ。だからね、セブルス。あなたもこれから先、彼らのことは相手にしないと約束して欲しいの」
エレナは手を止めてセブルスを見つめて言った。
「……君が、そう望むなら」
スネイプが頷いて答えると彼女は微笑んだ。
エレナは治療を終えると、最後に血で濡れたローブとスラックスを清め、裂けたところに杖を這わせながら生地を縫っていった。
「はい、これでおしまい。と言っても応急処置だから、後から医務室に行くのよ? 嫌じゃないの、行きなさい。わかった?」
ムスッとしたスネイプに、エレナは困った笑みを浮かべながらため息をついた。
「あ……」
スネイプが彼女から視線を外した時、落ちている本が視界に入り返却予定だったことを思い出した。エレナは立ち上がって二冊の本を拾い上げた。裏表紙をめくった彼女は図書室の本だと気付いたようだ。
「私も返そうとしていたところなの。一緒に行きしましょうか」
エレナはバッグから本を取り出してスネイプに掲げて見せた。